走り出す。
サービスエリアの喫煙所では、僕とトラック運転手らしい男がモクモクと煙草をふかしている。喫煙所はサービスエリアの一番隅。駐車した自分の車もずいぶん遠くに見える。賑わっている春休みの時期とは言っても、平日の高速道路は渋滞もなく、今のところスムーズに進んでいる。煙草が短くなってきた。そろそろ車に戻ろうと煙草をもみ消す。
「あの、火貸してもらえませんか」
突然声を掛けられ目線を上げると、大学生位の女の子が立っている。濃いテーパードジーンズに、白シャツとカーディガンという、若い子にはシンプル過ぎに感じる服装の女の子は、口に火のついていない煙草を咥えている。
「あ、どうぞ」
100円の安っぽい色をしたライターを女の子に手渡す。
「ありがとうございます」
女の子は僕が手渡したライターで煙草に火をつけた。チリチリという音が聞こえる。僕もその女の子につられるようにもう一本煙草を取り出し、火をつけた。
「ありがとうございます。お兄さん地元の人?」
女の子は僕の隣に腰かけ、煙草の煙を吐き出した。
「いや、旅行だよ。今帰り途中」
「へーどこの人?」
「東京」
「お兄さん1人?」
「そ、一人旅」
「よかったら、東京まで乗せてもらえませんか?」
なんでもない日常会話のような、突然の申し出に僕は少し固まった。
「えーっと、サービスエリアに置いてかれた?とか?」
女の子はぷっと吹き出した。煙草の煙が一気に宙に舞う。
「いや、違いますよ!ヒッチハイクですヒッチハイク」
当然のことのように言い放つ女の子と、聞きなれない言葉。
「ヒッチハイクって、あのヒッチハイク?」
「他にどんなヒッチハイクがあるか知らないから、多分あのヒッチハイクかな」
「いやー別に構わないけどー、戸惑うね。急に言われると」
こんな若くて普通っぽい女の子が、ヒッチハイクなんてなんだかイメージと全然違う。
僕が想像するヒッチハイカーは、どこまでも長く続く国道の真ん中で、小さなカバンだけを持ち、目の前を通り抜けるでかいトレーラーに手を挙げるような。アメリカの青春映画のイメージが頭の中に浮かぶ。
「気が変わらないうちに行きましょう!」
女の子が席を立った。
「もう一本だけいい?」
本当は全然吸いたくないが、気を落ち着ける時間が欲しい。さらにもう一本煙草を取り出し、火をつけた。
「じゃあ私も一本吸ってこう」
そういうと女の子がジーンズのポケットからZippoを取り出した。
「え、ライターなかったんじゃ」
女の子はいたずらがバレた子供の顔になった。
「いやー急に車に乗せてっていうより、効果的なんですよこれが!」
「そういう手口なわけね」
確かに急に呼び止められて、車に乗せてくれと言われたら断っていたかもしれない。喫煙所独特の仲間意識とでもいうんだろうか。ずいぶん簡単に、彼女の手口に乗せられてしまったようだ。
並んだ二人の白い煙が、上ってそっと消えていった。