第10話 聖鍵
アルフたちが消えた。
「何が起きたのかしらん」
リーンは、消えたアルフたちの行方を思案する。いきなり、彼らの魔力が掻き消えた。魔力の奔流が収まればそこにアルフたちの姿はなかった。
同時にこの場にも変化が生じているようである。あるものがなくなっている。台座に突き刺さっていた剣がない。魔力の奔流もあれから感じられた。
つまり、全ての原因はあの剣に由来する。
「リーン殿! 先ほどの魔力の奔流は一体!」
そこにゼグルドが戻ってきた。彼もまた魔力の奔流を感じたという。
「アルフ殿たちは?」
「消えてしまったわ」
「なんと!? 探さねば!」
「落ち着きなさぁい。こんな時に、慌てても駄目よぉ。それに、おそらくは普通の方法では見つからないわね」
忽然と消えた。何らかの魔法的な現象であろう。この手の専門家ではないので断言はできないが可能性は高い。何らかの魔法具があったと考えられる。響いていた言葉もそれを裏付けた。
ベルがいれば何かわかるのだろうが、生憎とリーンに魔法の知識はそれほどない。もともとが殴り倒す。魔物を使役するという方面に特化している以上、それ以外のことはさわり程度ならばわかるが、それだけだ。
この事象の解明を行うには知識がない。
「ゼグルドは何か心当たりがあるかしらぁ?」
「う、うーむ。われ、には何も思いつかない」
「そう……ガルネク、だったかしら?」
「へ、へい!?」
いきなり声をかけられたガルネクが驚くが、リーンは意に介さずに、
「あなたは何かわかるかしらぁ?」
「も、申し訳ない、わかりやせん」
「ゴランちゃんもぉ、わかるわけないわよねぇ」
未だに気絶していて幸せそうに眠っているのを無理矢理起こしてまで聞くこともない。彼は商人の出だ。このような事態に対する知識を持っているとは思えなかった。
しかし、そうなると、
「そうすると本当に手詰まりねぇ」
ダンジョンの腹の中ということを考えれば、迂闊には動けない。ここは中心部だ。先ほどの魔力の放出によって何が起きるわからないのだ。
ダンジョンは迷宮を作り魔力を喰らう。そういう魔物だ。そして、喰らった魔力を使って更に強力な魔物を生み出し、敵を殺すのだ。このように――。
『GRAAAA――――』
生じる暴力の化身。揺らめく焔。
「炎の魔精ねぇ。厄介なのが生まれたわぁ」
魔精。精霊が魔物に転じた姿であり、自然の暴威の化身。間違いなく最上位の存在であり、王国級の力を内包している。
これのマズイところは、単純な攻撃は意味をなさないということ。魔法などの方法をとらなければ倒すことができないという点だ。
「炎か。まずいぞ、われの炎が通じん」
「仕方ないわねぇ。ゼグルドちゃん、あたしがここに残るからぁ。ガルネクちゃんとゴランちゃんを安全な場所に」
「わかった」
ゼグルドが二人を抱えて跳ぶ。
「もぉ、忙しいったらありゃしないわぁ。お肌荒れちゃう」
そう言いながらリーンは拳を握った。やるしかないのだから、
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
人型をした大地。土くれ。幾何学的な空間の中にそいつは存在していた。目、口に類する場所には何もなく、ただ穴があるのみ。
しかし、それでも問題ないのか、その存在は人形は目の前にいるアルフたちを見渡していた。莫大な魔力をその身から発しながら、それは身体を変容させていく。
腕の形が変わって行く。生じるのは、幾何学的な土の魔力線が描かれた剣。
『これより、聖鍵の試練を開始する。資格者たちよ、その資格を示すが良い。さすれば、お前たちに大地の聖鍵を与えん』
さあ、来るが良い。そう言っていた。
「…………聖鍵、だと」
「まさか……」
アルフはその言葉に聞き覚えがある。リネアもまた驚愕していた。
「なんであるか、それは?」
「ご存じないのでございますか旦那様!?」
「知らんであーる。我輩、知っていることしかしらんである」
「潔過ぎでございます……」
聖鍵。それはミシュリント聖王国に伝わる神器である。選ばれし者だけが持つことを許され、その力は万の軍勢にすら匹敵するとすら言われる。
アルフ、リネア、エーファもそれについては伝聞や吟遊詩人の語る物語の中の活躍などしか知らないため正確にそれがなんなのかはわからないが、もし本物の聖鍵であるならばそれは大変な事になるだろう。しかも、その試練の途上であるというならば尚更だ。
アルフが知っている伝説の中だけでも、聖鍵を手に入れようとした者たちはその尽くが試練に敗れて死んでいったという。
死者は数千を超えて、挙句、聖鍵を手に入れようとした国が滅んだという伝説すらあるほどだ。それゆえに、
「気を引き締めろ!」
アルフの激が飛ぶ。肌が、全身が感じている。本気で挑まねば死ぬ。明確に感じる死の気配。豊穣を約束する偉大なる大地の気配であるが、同時に天災としての死神の気配すら内包している。
人型の大地。あれはそういうもの。竜人とか、そういうものだ。天災そのものと思っていい。そんなものと戦え? ふざけるのも大概にしろと言いたいが、そうしなければここから出ることはできないだろう。
「俺が前衛で注意をひく。リネアとエーファは中距離からかき回せ! 隙が出来たらスターゼル、お前が最高の一撃を叩き込め! さっきのゴーレムと同じだ。それで勝てなきゃ、俺たちは終わりだ! いいか、全員何がなんでも生き残るぞ!」
その言葉に否と言う者はいない。ここにいる四人はこの状況を正確に理解している。本質がわからずとも、目の前にいる存在が自分たちに敵意を持っていて、敵が強いということはわかるのだ。
「了解でございます!」
弓を抜きながらエーファが答える。
「ええ、生き残りましょう」
リネアが法剣を手に奮い立たせるように答えた。
「まかせるであーる!」
頼もしくスターゼルはいつも通り尊大な宮廷言葉で答える。
「良し――」
アルフが剣を抜く。全力。ありったけ。持てる力を出し切るのだ。
「――行くぞ!」
アルフが駆ける。剣を振り上げ、全身で叩き付けるように人形へと振り下ろした。その一撃を人形は右腕に形成した剣で受け止める。
押しこもうとするが、アルフの力では押し込めず、むしろ逆に押し込まれてしまう。それでも脚と腰に力を入れて耐える。
その隙に横合いから殴りつけるようにリネアの法剣が生き物の如くうねり人形を貫かんと繰り出された。しかし、それは通じない。
人形のわき腹へと吸い込まれる直前、人形のわき腹から土の触手が生じ法剣を叩き落とす。そのまま背からも生じた触手は、天へと昇る様に広がって背後のリネアたちへと振り下ろされた。
「くそ!」
アルフは押さえつけられた剣を手放し、袋の中から液体の入った小瓶を取り出す。それを人形へと投げつけた。
人形は避ける素振りすらしない。避ける必要すらないと思っているのか。それならば好都合。抜いた小剣と短剣を激しく打ち鳴らした。
それによって生じる火花。その瞬間、人形が燃え上がる。理由は単純、アルフがぶつけた小瓶。その中の液体だ。
中身は油である。それも竜のそれを精製したものだ。かつて竜殺しのジュリアス・ローウェンが殺した竜から精製したもの。
製法を間違わなければとても良く燃える。少量で人間一人を焼き尽くすのは簡単だ。それを大量に浴びた人形は良く燃え上がる。
痛みはあるのか。感覚があるのだろう。炎を消そうとするが消えはしない。仲間へと延びていた触手は止まり、明確な隙が出来上がる。
「エーファ! リネア!」
『はい!』
その隙間に飛翔する快音の矢。エーファによって放たれた矢は蒼い軌跡を描きながら人形へと突き刺さり、振るわれた法剣が巻き付き締め上げその両の足を引きちぎった。
地面へと倒れる人形。
「おらあ!」
しかし、それで終わりではない。アルフがポーチから取り出した大きな布を燃える人形へと被せた。火はそれによって鎮火する。それでも人形はもがくことを止めない。
なぜならば、布が張りついてくるからだ。どんなにどけようとしてもそれは張り付いてくる。アルフが被せた布は反対側に粘着質の魔法生物が住み着いている。
ベルが作った鼠退治用の失敗作の魔法具。鼠取りの為の粘着剤が付けられたもので、仕掛けておけばそこを通った鼠はどこにもいけなくなるという画期的なものであったが、それが世に出ることはなかった。
何せ一度貼りつけば、ベルがいなければ二度と取れないのだ。間違って自分が触れようものなら製作者がいない限り二度と取れないことになりかねない。
そんな危険なものを世に送り出すことはできないわけで、処分に困ったのをアルフが何かに役立つこともあるだろうともらっておいたのだ。これの効果を弱めたものは、現在ベルの店で売られている。
そんなオリジナルの失敗作をアルフは敵へと張り付けた。粘着剤は一度張りつけば専用の薬を使わなければ取れることはない。敵に被せてしまえば視界を奪える上に動きも制限することが出来る。
「リネア! 巻け!」
「はい!」
リネアの法剣が巻き付き動きを封じる。引きちぎろうと人形が動くが、それに伴いリネアの魔力が鋼糸を伝い法剣の強度を上げる。引きちぎろうとしても無駄だ。
「スターゼル!」
「ふはは、任せるであーる!」
そして、動きを止めてしまえばスターゼルの魔法が降り注ぐ。最大威力で放たれる魔法。土塊が生じ、それが人形を押しつぶす。
確かな勝利の感覚だ。だが、感じるのは違和感だ。これで良いのか。そんな疑問。だからだろう、わずかに弛緩しかけた気は引き締まる。
そして、
『――汝らの資格を視た。ゆえに、これより、選定を開始する――』
そして、その瞬間、アルフの視界が伸びた――。
『――お前ではない。導く者よ。弱き万能の士よ。お前ではない――』
「――――え」
アルフの思考は加速の様相を呈していた。思考は加速し時は停滞する。何が起きたのかアルフは理解できない。吹き飛んでいるのだから何かの力を受けたのだという事は理解できる。
それくらいの判断能力は失われていないし、わずかに緩みかけていたとはいえ持ち直したはずだ。警戒だけはまだ向けていたはずだ。眼など逸らさないし瞬きというものすら忘れるほどにだ。
スターゼルの攻撃は成功した。自分たちは巧く戦っていたはずだった。だが、拳を振り抜いた人形。それを知覚する。目の前にいる存在。
先ほどとは姿の変わっている巨大な、鎧を纏った騎士の如き人形の姿。大気を引き裂く轟音が迫る。追撃だ。吹き飛ばされ思考の停滞したアルフの身体は動かない。
辛うじて拳は鎧で受けたが、皮の鎧。わずかに鉄板が入っただけのそれはただの一撃で全てが砕け散り、肋骨のほとんどが砕け、臓器に突き刺さる。
その程度で済んだのは、反射で奇跡的に防御しようとしたからか。だが、それがどうなるというのだ。もはや、アルフの死は避けられない。
振るわれる剛腕をどうにかすることなどできないのだから。
「アルフさん!!」
その刹那、剣閃が閃いた。白の軌跡を描いて、法剣が人形へと絡みつく。僅かに遅れた反応。しかし、なんとか間に合った。
リネアが青の輝きを滾らせて踏みとどまり、法剣を引く。そして、
『――聖者に連なる者よ。神の巫女に連なる者よ。お前ではない――』
次の瞬間には、リネアとアルフは折り重なっていた。
「ガッ――!?」
あの一瞬のうちで振り回されたリネアはアルフへとぶつけられたのだ。それでも辛うじてリネアが無事なのはアルフのおかげか。
「ぶ、じ、か」
「は、はい、なん、とか」
姿が変わった人形。これからが本番とでもいうのか。その力はアルフが身を以て体感した。叶う相手ではない。それがわかった。
ただの一発でアルフは動けない。リネアの方は何とか防御し、アルフを緩衝剤とすることによってなんとか動けるが、それだけだ。そもそも、どうにかできる力量差を越えている。
そんな彼らをよそに人形はエーファへと突撃を開始していた。放たれる矢は、例え武技であろうともその土の鎧を貫通するには至らない。
このままではエーファが殺される。
「くそ、動け――ごはっ」
だが、アルフの身体は動かない。動いてはくれない。寧ろ、砕けた骨が内臓に突き刺さって血を吐く。回復薬を飲めば、まだどうにかなるかもしれないがそれでは遅いのだ。
アルフは冷静に判断する。この状況は不味い。考える。考える。だが、アルフに鈍い頭では打開策は生まれてはくれない。
「わた、しが!」
リネアの法剣が走る。青を纏わせ、生き物のようにうねって人形へと襲い掛かる。それに対して、人形は法剣を見ようともしなかった。まるで見る必要すらないとでも言わんばかりに。
だが、弾かれる。装甲に傷をつけることすらできずに弾かれてしまう。何度打ち付けようとも不可能。ならば、
「神よ――」
法術を使う。彼女が持つ術の一つ。魔法の体系の一つであり違うもの。神と呼ばれるものに対して祈りを以て始めて使う事の出来る奇跡の具現。
顕象するのは、神の鉄槌。武術神オーニソガラムによる加護を受ける一撃。それを放つ。しかし、
「なっ――」
それは受け止められた。背後からの一撃を人形は受け止め、弾き返した。もはやリネアに人形を止める術はない。
このままでは、最悪の一撃がエーファに放たれるだろう。止める者は、ただ一人。
「こっちであーる!!」
スターゼルがあろうことか、魔法使いである彼が人形の前に立ちふさがったのである。
「旦那様! 無理でございます! 良いから逃げてくださいでございます!」
「いやである! 我輩、敵から逃げたことなど一度もないである。何より、エーファを見捨てることなどできないである」
人形が迫る。その時、彼らは、願った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――窮地に陥った時、人は何をする?
万能なりし弱き男は、考える。この窮地を脱する術を考える。男は己の分を理解していたし、現実を知っていた。都合のいいことが起きないことを知っている。
だからこそ、彼は考える。己が持てる力で状況を打開するそんな術を考えるのだ。弱さを知り、現実を知っている。それが第一の男。
――ゆえに、使うに値せず。
神に仕える女は、神に祈る。神に仕える者である以上、当然のように神に祈りをささげる。窮地に陥った時もそう。何ら変わらずに彼女は祈りを捧げる。
彼女は祈り続ける。祈りが届くまで。何があろうとも神を信じ歩み続けるだろう。祈りを捧げて求めない。それが、第二の女。
――ゆえに、使うに値せず。
召使いの女、魔法使いの男。彼らは同じだった。同じ時、同じ時間を過ごした主従。ゆえに、思うことは互いの事であり、何よりも互いを思っている。
そして、窮地に陥った時、彼らは求めるのだ。彼を、彼女を、守る力が欲しいと。第一の男と違って現実を知らぬ。祈りをささげて求めないではなく、求める。何よりも強く。お互いを守る為の力を。
――ゆえに、使うに値する。
求める者、それは進化しようとする者。閉塞したものではなく、何よりも進もうとする者。だからこそ、使うに値する。持つに値するのだ。
――よって、選定を終了する。
全ては、決まった――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
人形が彼らの命を奪おうとするその瞬間、
「これ、は」
「な、なんでございます?!」
魔力が彼らの前で形を結んだ。
『――汝ら、使うに値する。我を呼べ。さすれば来よう――』
それは、鍵だった。剣であった。一振りの剣と短剣が形を結ぶ。
半ば無意識にスターゼルとエーファはそれを手に取って、地面へと突き立てて叫んでいた、その名を。
『ヴィンターダ』
その瞬間、巨大な魔法陣が地面に生じる。ガチリ、と鍵が回った音が響いて、ゆっくりとそれは現れた。人の四から五倍ほどの巨大な騎士。鋼に輝く剣を手にした騎士だった。
「こいつは」
リネアに支えられてアルフはその光景を見ていた。輝く騎士が出現した瞬間を。これが、聖鍵の力か。スターゼルとエーファがいない。あの力の発動によって、どこへ行ったのか。
「聞いたことがあります」
リネアが言った。
「かつて、巨大な甲冑に身を包み、戦場で圧倒的な力を誇った騎士がいたそうです。今もミシュリント聖王国にその方々はいて、彼らは聖騎士と呼ばれているそうです」
「聖騎士か」
アルフも聞いたことがある。聖騎士は数百から数千からなる軍勢相手にも物ともせず、一騎当千の力を持って戦場を恐怖のどん底に陥れたという。そういう夢物語を。
何がどうなっているのか。アルフにはさっぱりとわからない。だが、
「もし、あれを呼び出したのがスターゼル達なら」
きっとこの状況を打開できる。人形が聖騎士に匹敵する大きさに変化したとしてもアルフはなんら心配していなかった。
あの聖騎士から感じる気配は、あの馬鹿なスターゼルとエーファのものだ。ならきっと大丈夫だ。アルフたちの見ている前で聖騎士は剣を構えた。
堂のいった宮廷剣術の構え。スターゼルが見せた構えだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「え、えええええ!?」
「な、なんであるかこれは!?」
エーファとスターゼルは混乱の最中にあった。衝動に従って名を口にした途端、良くわからない場所にいたのだ。混乱もするだろう。
しかも、周りは良くわからない空間で二人は座らされていたのである。座っている方向を基準に前側にスターゼル、後ろにエーファだ。
球形の空間で二人は椅子のような何かに座っていた。球形の壁には外の景色が映っている。いつも以上に視点が高い。
自分たちの状況が頭に流れ込んできてどうなっているのかを悟る。自分たちは、巨大な騎士の中にいるのだ。それがますます混乱を助長させる。
しかし、人形が目の前に現れた。
「今は、やるしかないのである」
混乱している暇はない。考える暇はない。今は、ただ目の前の敵を倒すだけ。それが出来るだけの力が手に入ったのだから。
「エーファ、いくである」
「はい、旦那様!」
スターゼルは思い浮かべた。宮廷剣術を。騎士がどのように動くのか、なんとなくわかるのだ。握っている剣を介して全てが騎士に伝わり、騎士はその通りに動く。
自由に、自在に。スターゼルが思うとおりに動くのだ。
「喰らうであーる! シュバーミットスペシャル!!」
「なんでございますか、その名前は……」
エーファのツッコミなど知らぬのばかりにスターゼルの思い通りに聖騎士は動く。真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに剣を振るう。
愚直に、力を求めた彼らしく。ただ、真っ直ぐに剣を振るった。今まで苦戦していたのが嘘のように鋼の剣は人形を切り裂く。
その瞬間、空間が崩れ始めた。同時に、出口が現れる。迷宮の最奥。聖堂だった。そこでは、炎の魔精とリーンとゼグルドが戦っている。
苦戦しているようだった。
「ふふん、我輩たちの力見せてやるであーる!」
「調子に乗って、大丈夫でございますか?」
「大丈夫であーる」
「心配でございます」
そう言った時には、既にスターゼルは騎士を動かしていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「くぅ、辛いわねぇ」
猛る炎を拳圧で吹き飛ばしながらリーンは呟いた。いくら強化しても実体のない相手は殴れないのだ。こういう時はそういう関係の魔物を使う。
実体のない魔物には実体のない魔物を。リーンが使役している魔物にはそういう魔物がいる。しかし、ここは迷宮の中。自分が使役している魔物はいない。
必然的に自分たちでどうにかするしか方法はないのだが、その手段がない。リーンは魔法を使えない。ゼグルドもそうだ。炎があるが、火の魔精には火が効かない。
辛うじて竜骨の大剣がダメージを与えているものの、滅するには程遠い。精霊とは竜以上に世界に近いのである。それが魔物化した以上、その強さは何よりも強い。まさに災害となるのだ。
『OOOOOOO――――』
その時、炎の魔精が力を溜めはじめた。一撃が来る。
「やばい! ――!?」
だが、その時、巨大な腕が地面の空間を突き破って現れる。現れるのは見上げるほどに巨大な騎士だった。
その騎士は剣を構えると魔精と戦いを始める。その様子をリーンとゼグルドは呆けたように見ていた。
「なにが起きているのぉ、これ?」
「あ、あれは、アルフ殿!」
騎士に続いて、リネアに肩を貸されたアルフが出てきた。リーンとゼグルドは二人に駆け寄る。
「何があったのぉ?」
「よくはわからんが、聖鍵が関わっているらしい」
「まぁ。あらぁ? スターゼルちゃんと、エーファちゃんはぁ?」
「あの中らしいな」
アルフが戦っている聖騎士を指す。
「まあぁ、本当、何があるかわからないわぁ」
「本当にな」
そんな風に話していると、魔精がついにその動きを止めた。聖騎士が使う魔法によって存在ごと削り取られて融けていく。
それと同時に聖騎士が光に包まれて消える。聖騎士がいた場所には、スターゼルとエーファが立っていた。
「終わった、か」
ともかく、これで試練という奴は終わったのだろう。再び、迷宮の最奥は静けさに包まれる。危険がないのを確認してもう何も起こらないことを確信してからアルフ一行はようやく少しだけ警戒を解いたのであった。
落ち着いたら状況の確認ということで全員が集まる。
「スターゼル、大丈夫か?」
「ふはははは、誰に物を言っているであーる。我輩であるぞ。なんと、我輩聖騎士になったようであーる」
「らしいな」
どうやら、問題はないらしい。いつも通りのスターゼルだ。
「エーファは?」
「アルフ様よりは無事だと思うでございます。しかし、どうして聖騎士なんかになったのでございましょう?」
「それについては私が。おそらく、ここはかつて聖騎士を選ぶための都市だったのでしょう。それも千年以上も前だったと思われます。それが今回迷宮化して表に出てきてしまったのではないかと」
「へぇ、気のなげぇ話ですなぁ」
ガルネクがほぉっと感心したように言う。ゴランは、意味が解らないと言った風だ。
「そんなことより、逃げるのが先だろ!」
ゴランの言っていることももっともだった。まずは脱出することが肝要だ。
「そうねぇ。出口は上だしどうしましょう」
「…………」
ふと、アルフは、聖騎士が空けた穴が気になって近づいていく。何やら音が聞こえたような気がしたのだ。水音だ。
穴を見れば、水が溜まっていた。
「もしかするともしかするかもしれんな。オーイ、来てくれ」
「どうしたでございますか?」
「こいつを見てくれ」
そう言って皆に穴の中を見せる。
「水が溜まってますね。ですが、これがどうかしましたか?」
「ゼグルドたちは覚えてねえか? ラグエントで、魔力がなくても動く機械で水を汲んだだろ?」
その言葉でゼグルドたちはああ、と思い出したように手を叩く。
「ここは元は鉱山の下にあった。ここに水が溜まるとしたら、おそらくは穴の底の水だ。繋がっている可能性はある」
単なる水源の可能性もあるが、低い可能性とも言えない。息を止めて覗き込んだ限りでは、かなり広いところまで水が溜まっているのだ。
もしかしたら出られる可能性がある。
「一応、水中でも少しの間は呼吸できる道具を持ってる。それを使って行って見てくる」
「わかったわぁ。アルフさん、気を付けてねぇ」
「ああ、行ってくる」
装備のほとんどを外して、短剣と水中で呼吸を可能とする集気草を加えてアルフは水に飛び込んだ。
遅くなり本当に申し訳ありません。スランプとか、ゲームとかリアルの事情とかいろんなもろもろが重なったおかげで更新できませんでした。
ちょっとスランプもあって。クオリティ的に最後の方があれな感じです。いつか修正したいと思います。
さて、今回は聖鍵というものが出てきました。イメージは白騎士物語というゲームのシンナイトです。
選ばれるのはスターゼルとエーファ。これは最初から決まってました。
アルフは、持ってる力で頑張ってもらおうと思ってます。
次回ですが、いつになるかは明記できませんが、なるべくはやく更新したいと思ってます。
次回はエピローグ。迷宮からの脱出と、エルフさんとガルネクの絡みと次の街へ。祭のあとの飲み食い騒ぎとかそんなのが描ければいいなと思います。
では、また次回。
お話を考える才能が欲しい。