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とある中堅冒険者の生活  作者: テイク
第三章 ドワーフとエルフと中堅冒険者
39/54

第9話 試練

「あらぁ、ゼグルドちゃん、間に合ったのねぇ。なら、これで心置きなくやれるわねぇ」


 ゼグルドを見て、これで心置きなくやれるとリーンは肩を鳴らす。拳を打ちならし、ゴーレムに向かって、来なさいよとでも言うように振って見せる。

 リーゼンベルク王国に存在する十人の王国級冒険者の一人であり、アルフの弟子たる九人の三人目。おそらくは弟子の中で最も力という面において特化した男とも女とも知れぬ剛の者。


 此れを以てゴーレムを役者不足。そう断じるのは早いだろう。少なくとも、ゴーレムという存在の強さを示すその魔力総量においてリーンと同等。つまり、現在このゴーレムはリーンと同等の力を持っていると言えるのだ。

 また、巨体という面において重量の差は戦いの場に置いては看過できぬ問題だろう。リーチがある、重量がある。それだけも相当な有利になるのは考えなくてもわかることだ。


 ゆえに、ゴーレムが役者不足ということはない。むしろ、不足があるとすればリーンの方。そう言わんばかりに軋みの声を上げて――。


『OOOOOOOO――――!』


 ゴーレムがリーンへと突っ込んでくる。巨体を揺らし、姿勢を低くして肩を前にして突撃。この突撃を受けられるものならば受けてみよ。意志があるならばそう言っているかのような突撃。

 床に穴を穿ちながらゴーレムはリーンへと突っ込む。それに対してリーンは避けはしなかった。避けられないわけではない。避ける必要がないと判断したのだ。


 筋肉が猛る、魔力が膨れ上がる。青く天に向けて立ち昇る蒸気のように魔力が揺らめく。目に見えてリーンの身体が大きくなったかのようにすら錯覚する。

 魔力による強化。それも最高峰のそれ。テイマーは魔力を契約した魔物に与えて強化したり操ることが出来る。これはその延長線上のこと。


 むしろ他者ではなく自らに行うのだから普通にやるよりも簡単である。ゆえに、その強化は誰よりも強い。王国級冒険者の中でも最高の強化。

 その一撃はまさに、必殺の一撃。


「フンッ!!」


 役不足などとんでもない。同等の相手。それも相手の方が有利? だからどうしたというのだ。戦士としてリーンはここに立っているのである。ならば、その程度のこと頓着する方がおかしい。

 昔の弱い自分はここにはいない。誰も彼もを護る為に、誰よりも強く。ここにいるのは戦士リーン。誰よりも強い戦士だ。


 その一撃はまさに岩をも砕く。アルフの弟子の中でもっとも力が強いこのリーンが本気になったのであれば、その一撃に砕けぬものはない。

 受けとめ、その武器を奪わんと振るわれる拳。砕ける巨剣。ひらりとスカートが翻りる。風が吹いていた。


 それによって破片が散らばり、揺らめく篝火に照らされて幻想的にリーンを彩る。見る者が見れば吐き出すような光景の中で、リーンの姿はまるで魔力の翼を広げているようにも見えた。


『お前ではない。お前からは大地の資格を感じない』

「あら、そうなのぉ」


 そんなリーンに声が響く。無機質な声。


『お前は、既に有している。我が求めるは、お前ではない』


 ゆえに、お前は去れ。そう言っている。刹那、振るわれるゴーレムの剛腕。魔力が猛っている。先ほどとは異なる。

 具体的に言えば、ゴーレムが内包している魔力総量がリーンとゼグルドを足し合わせたほどにまで増えているのだ。


「なるほどねぇ」


 これほどの魔力がこんな場所に眠っているとは。確かに、迷宮化するのも納得だ。迷宮が誕生するには莫大な魔力が必要だ。それこそ、古の魔王ほどでなければ。

 こんなことが出来る何かがあるというのなら、そこから魔力が漏れ出しただけで迷宮が出来るのも頷ける話だ。


『OOOOOOO――――!』

「もぅ、うるさいわよぉ!」


 轟音が鳴り響く。ぎちぎちと膨張する筋肉から放たれた一撃は、ゴーレムの胴体をへこませる。これでもまだ倒れないのは、ゼグルド分もあるからだろう。

 しかし、だからどうしたというのだろうか。戦いというのは単純ではない。人間よりも強大な相手はいくらでもいる。それをねじ伏せ屈服させてきたリーンは伊達ではないのだ。


 振るわれる剛腕。一撃一撃、その全てが必殺。技術などない。ここにあるのは単純に力。スピードでもなく、堅牢さでもなく、全ての強化を力に振り分けた結果、もはやゴーレムなど及ばぬほどにその力は磨かれている。

 その上で、更に上がっていく。段階的に強化の段階が上がって行く。最初は緩く、徐々に強く。身体に強化を慣らしていきながら更に魔力が流れ強化術が重ねられていく。


 アルフによって仕込まれた魔力による強化法。強化術の極意とも呼べる凄まじいまでの強化。アルフに習った魔力操作技術においてこれだけはと体得した一つ。

 強化とは単純、魔力を体内に循環させることによって一時的に強化を行う技術のことだ。何も複雑なことはなく、魔力というのはそういう性質があるということだけ。


 しかし、その強化は一過性のものだ。時間と共に魔力が霧散すると同時に強化の質は落ちていく。張っていた力が落ちていくのだ。

 ゆえに、常に魔力を注ぎながら循環させる必要がある。それに必要なのは莫大な魔力。アルフにはそれがないからこそ出来ない。それでも魔力操作に長ける彼が編み出した弟子の為の強化術。


 普通ならば同じ量を常に流し続けるところを、強化による慣らしを行いながら増やしていき、普通の強化に強化を倍掛けしていくという方法。

 尋常な魔力操作技術ではない。少しでも循環経路が乱れれば最後、魔力は暴走し使用者に牙を剥くだろう。リーンはその手の事が得意ではない。だが、魔物使い(テイマー)という特殊な才能がリーンにこの技術を体得させた。


 それがもたらす結果は、一つ。今、リーンの一撃は誰よりも強い。ただそれだけだ。


『OOOOOOO――――!!』


 ゴーレムの悲鳴のような声が木霊する。悲鳴ではない。ゴーレムに痛覚はないのだから、これはそういう声ではないのだろう。

 魔導兵器とも言われるゴーレム。ただ操られるだけの泥人形の声は軋みだ。全身の軋み。悲鳴ではないと言ったが悲鳴と言ってもいいもの。


 それでもこの場に守護者、あるいは試練の相手としてお前は適格ではないのだから去れ、でなければ滅びよ。ゴーレムは与えられた命令にしたがって、拳を突きだすのだ。


「終わりよぉ!」


 それに対して、握られた拳。魔力の循環による強化の重ね掛けも既に十を越えて、二十に突入しようとしていた。まだまだ上がる。

 アルフが見れば驚くだろう。なにせ、これは彼が想定したこの術の限界を優に超えている。それは、アルフの下を離れたからも磨き続けてきた結果だった。


 轟音の風切音を響かせて、両者の拳がぶつかる。音が消えたように厳かに。されど、その結果は火を見るよりも明らかだ。

 砕ける。ゴーレムと比べて小さな拳が、巨大な拳を砕いた。その破壊はそれだけにとどまらない。岩の肘を、肩を破壊して全身へと亀裂が至る。そして、破裂するかのように砕け散った。


 広い儀式場の一角で決着がついた。しかし、残りはまだ続いている。すぐに加勢に行こう。特に、師匠の所は危うい。


「ふぅ、アルフさんを助けないと」


 身を滾らせる強化はそのままにアルフを助けに行こうとする。その瞬間、感じたのは寒気がするほどの魔力の奔流だった――。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 火花が散る戦場。その火花を振り切って、振るわれた剛力によって広間には大穴を穿たれ、戦場は聖堂の中から外へと移り変わっていた。

 自らの戦闘は派手であることは自覚しているし、この相手に加減は出来ない。だからこそ、アルフらを傷つけない為に外へと出た。


「さて、行くぞ」


 吹っ飛ばしたゴーレムは一体。その前に立つのは人型の竜――ゼグルド。背の大剣を抜き放つ。無骨な竜骨より生まれた大剣。斬るものではなく、叩き、切るもの。

 ゴーレムという存在を相手にしてこれほど有用な武器もなかろう。斬撃ではなくほとんどが打撃の大剣だ。どこまでも堅い相手には有効。


 先ほどのように炎で焼き尽くすのも良いが、それをもう一度やるのは少しばかり手間であるし、あれほどの火力。早々連発できるほど便利なものではない。

 あれは、竜人の火炎臓と呼ばれる喉元にある特別な器官で生成した炎であり、そこに同居している火炎嚢と呼ばれる器官に溜めていたものだ。


 リーゼンベルクから旅立ってより、さほど使う機会がなかったために今まで溜めこんでいた火炎。その全てで以て先ほどの一撃を再現できる。

 つまるところ、今は空っぽの状態だ。あれほどの火力を出そうと思ったら多少無理をする必要がある。しかし、それをやってしまえば今後に差し障りが出る。


 だからこそ、剣を抜いた。問題はない。実力だけならば既にゼグルドは王国級である。アルフからも習い、自らが学んでいた竜の武術。

 それが在れば問題はない。問題はアルフたち。彼らは集団ではあるが、リーンやゼグルドのように強者というわけではない。それは見下しているというわけではなく客観的な事実だ。アルフでも同じように言う。


「手早くいかせてもらうぞ」


 だからこそ、宣誓。早く行って加勢するのだ。そのためになりふり構わず攻めることを、竜の暴威を魅せることを彼は宣言した。


「OOOOOOO――――!!!」


 大地を砕く咆哮。ただのそれだけで、周辺一帯の建物が分解され消し飛ぶほどの威力。この場の意思すら関係なく、迷宮の方が許容量を超えた衝撃に震える。

 ゴーレムはしかし、ガードしてそこに立っていた。砕けることなく。魔力量が増えている。リーンとゼグルドの分。


『お前ではない。資格を有さぬ者よ、去れ』


 振るわれる巨剣。轟音を鳴らして、大気を引き裂くように振るわれる。ただのそれだけで砂煙が巻き上がり、瓦礫が吹き飛んで行く。

 それを掲げた大剣で受けるゼグルド。


「――ぐお!」


 凄まじい衝撃が彼を伝わり大地を砕けさせる。しかし、大剣を折ることもゼグルドを押しつぶすこともできない。振り下ろした姿勢に固定されているかのようにゼグルドは微動だにしていなかった。


「オオオオォォオォ!!」


 ゼグルドの鬨の声が響く。咆哮。それと同時に地面へと叩き付けられた尾。地面を穿ち、その衝撃はゼグルドを伝わる。

 それをそのまま利用してゼグルドは巨剣を弾き返した。ゴーレムがたたらを踏む。そこを見逃すゼグルドではない。


 うしろに体勢の流れたゴーレムの態勢。尾と共に地面蹴って、跳躍する。地面に穴を穿ちながら、ゴーレムの頭頂部へと右の拳を叩き込む。

 音が響く。大地を穿つ音が響き、一瞬遅れて激震が空間を振るわせた。その一撃は頭部を穿ち、その衝撃は後頭部を抜けてさながら頭部が内部から弾けたようになる。


 それほどの一撃を受けてなお、ゴーレムは稼働する。失った頭を気にせずに、その巨剣を振るう。そのままゴーレムを蹴って離れるゼグルド。


「これがごぉれむという奴だったか? ええと、全部破壊すればいいとアルフ殿は言っていたな。良し」


 轟音を立てて倒れたゴーレムの足をひっつかみ、力を込める。全身に魔力が通っていく。強化と共に筋肉の膨張。


「オオオオォォォォォオオオオオ!!!」


 咆哮と共に込めた力で足を地面に沈めながらゼグルドはゴーレムを持ち上げた。これが竜人の力。最強の種族と称される人類至高の力だ。

 そして、そのままゴーレムを投げ飛ばした。土煙と轟音を立てて空間をわずかながら飛んだゴーレムは重力に引かれ地面へと叩き付けられる。


 それでもまだ動いていた。しかし、それもすぐに止まる。砂煙を引きちぎり衝撃を撒き散らしながら疾走し、その拳を叩き付けた。

 ゴーレムを通り過ぎ後ろへと抜ける衝撃。その一撃は、地面を引き裂き割り砕く。しんと静まり返り、音が消えたかのような静寂。


 そして、ぴしりとゴーレムが砕け散った。


「良し! アルフ殿、今行くぞ――!?」


 その瞬間、感じたのはゼグルドですら寒気がするほどの魔力の奔流だった――。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 吹き飛ぶ二体のゴーレム。それはただ二人の人物が起こした事象だった。王国級冒険者リーンと、弟子であるゼグルド。

 凄まじいまでの力だった。これが最高峰に位置する冒険者と竜人の実力。圧倒的。それ以外に言葉はない。そんな二人にこれから肉薄せねばならないのだ。


 そうしなければこの状況を乗り切ることはできない。目標は足止め。二人がゴーレムを倒し、残りの一体を倒せるように。

 高望みなどしない。己の分はわきまえている。しかし、あんなものを魅せられて、奮わない男はいない。たとえ、届かないと言えども負けたくないと思うのが人。出来ることならば倒す。何も破壊だけがゴーレムの倒し方ではない。


「行くぞ、負けてられないだろ?」


 だから、やろう。そういうように仲間たちへとアルフは語りかける。


「うむ、我輩の力、見せつけてやるであーる!」

「あまり無茶はしないで下さいでございます」

「ええ、負けていられません。武術神オーニソガラムに仕えるシスターとして、負けるわけには行きません」


 やる気は十分。ならば、あとはやるのみ。


「ガルネク、ゴランを頼む」

「はい、御武運を」

「おう! 行くぞ!」

『応――!!』


 リネアの回復魔法によって回復したアルフ一行がゴーレムへと戦いを挑む。まず飛び出したのはアルフだ。

 その手にあるのはメイス。打撃武器だった。剣では硬いゴーレムを倒すことはできない。斬れないのだ。斬鉄すら可能とする剣聖ランドルフの力には及ばないアルフは、迷うことなく重しとなるであろう剣を捨てた。


 両手で重いメイスを持ち戦闘を駆ける。迫りくる巨大な拳。それを掻い潜る。生じる風圧に押し流されそうになりながらも耐えて、ただ前へと進む。

 それに続くのはエーファとリネアだった。アルフの影から広がるように三人はゴーレムへと向って行く。狙いを分散させる三方からの攻撃。


 法剣が縦横無尽に駆け巡り、エーファは小さな身体を利用して足下まで接近する。そして、アルフから習ったお手製の爆弾を放った。

 刹那爆裂し、法剣が爆炎を切り裂いてゴーレムの腕の一部を打ち砕く。法剣は剣である前に鞭である。ゆえに、彼女の攻撃は斬撃ではなく打撃となりゴーレムへのダメージとなるのだ。


「おらぁああ!!」


 遅れて足下へと到達したアルフがメイスを振りかぶる。


『OOOOO――!』


 それを見たゴーレムが巨剣を振るう。真っ直ぐにそれはアルフへと振り下ろされる。


「させぬよ。我輩は、過去を振り返らぬ。しかし、一度失敗、失策を我輩は二度とするつもりはない。ゆえに、まずは、その邪魔な剣を封じさせてもらうであーる」


 その瞬間、詠唱を終えたスターゼルの魔法が発動する。


「大地を隆起せよ。壁となれ――大地の壁(アースウォール)――!」


 魔法の名を結び魔力が猛る。アルフの背後より壁が生じるは巨大な壁だった。振り下ろされる巨剣は真っ直ぐにそれにめり込み、半ばほどで止まる。

 それ以上降ろそうと力を込めるゴーレム。だが、巨剣は壁半ばまで割いてそれ以上動かない。止まる。


「これぞ、我輩最高硬度の壁であーる! フハハハ! どうである!」

「良くやったスターゼル!」


 その隙をアルフは見逃さない。振りかぶったメイスを振るう。その身に一瞬、打撃の瞬間に青を迸らせて力いっぱい殴りつけた。

 凄まじい衝撃と音を鳴らしてアルフのメイスはゴーレムの脚を少しだけへこませる。小さな一撃だ。何の意味もない。少なくともそう見えた。


『OOOOO――』


 その証拠に、ゴーレムはそれに対してまったくと言ってよいほど反応を示していない。巨剣を引き抜こうとして出来ないから、引き抜くのを諦め、足下にいるアルフへとその脚を振り上げる。

 それはいとも容易くアルフを圧殺するだろう。街級の冒険者でしかないアルフには、巨体を受け止める力はない。


 だが、無意味なことなどないのだ。小さな一撃だろうが、攻撃は攻撃だ。ゴーレムという魔物は遠隔操作でもしていなければ決められた行動をとる。

 魔力の流れは感じるが、それはこのゴーレムを動かしているものだ。いわばエネルギーを供給しているに過ぎない。テイマーの使うそれと同じ。何度も見てきたアルフはそれを看過した。


 だからこそ、決められた通りに攻撃されればそれに対してゴーレムは優先的に攻撃を行う。他に対して何かを思考するということはない。

 ゆえに、二つの声が響く。


ArD(アルド) eclept(エクレプト) xt(エクスト) crlart(クーリレアリト) oxduge(オクドゥジ) tbsef(タブセフ) svnant(スヴナント) aft(アフト)_xedre(クエドア) rospt(ロスプト) nls(ニルス) svegvld(スヴェジヴァルド) izn(イズン)_rqa(ラクア) ramSlX(ラムスレクス)


 粛々と謳い上げられる詠唱。鈴の音の如き荘厳なる声が響く。詠唱が響く。魔法言語に乗せて、清廉な魔力が高まって行く。


ArD(アルド) eclept(エクレプト) xt(エクスト) xt(エクスト) vqcs(ヴァグクス) oxduge(オクドゥジ) xt(エクスト) xt(エクスト) excll(エクシル) svnant(スヴナント) xt(エクスト) xt(エクスト) ml(ミル)_xedra(クエドラ) rospt(ロスプト) lnzランゼ svegvld(スヴェジヴァルド) xt(エクスト) xt(エクスト) izn(イズン)_rqa(ラクア) ramSlX(ラムスレクス)


 朗々と豪胆に謳い上げられる詠唱がある。我こそが最高であるという自負。何よりも強い貴族の誇り。この一撃こそが全てである。

 そう言わんばかりの魔力が猛っていく。かつてはただの一度、これを放てば終わった。だが、その自分はもういない。今の己は、強くなった。


「神の名の下にこの一撃、手向けと受け取りなさい」

「我輩のものに手を出した罪を教えてやるであーる」

「――神々の光(ゴッズシャワー)――」

「――大地の槍(アースランス)――」


 リネアとスターゼルの二つの声が詠唱の最終節を結ぶ。その瞬間、アルフとエーファは飛び退いて逃げていた。同時に名を結び魔力は形となる。二つの魔法が猛威を振るう。

 光の柱が降り注ぐ。頂点から降り注ぐ裁きの光。教会の精鋭たる武装シスターの魔法が今、ここに結ばれる。同時に、地面からゴーレムを貫く大地の槍。巨大にして装飾過多なそれは、されど何よりも鋭い。


 あのゴーレムすらも貫いた。しかし、


『OOOOO―――!』


 未だ、ゴーレムは健在。威力が足りないということはない。片腕は落ち、胴には深い穴が空いている。何のことはない。つまるところ、これがゴーレムだったというだけのこと。

 動く身体があれば動く。リーンとゼグルド二人分の魔力に物を言わせてその軋む身体を動かしている。ただ命令に従って。


 動く。しかし、その動きは緩慢だ。


「エーファ!」

「はいで、ございます!」


 そこにアルフらが走り込んでいる。ゴーレムの背後から近づいて、アルフは背を向けた。走ってくるエーファへと両の手を合わせて足場とする。

 それを足をかけてエーファは跳んだ。それに合わせるようにアルフはエーファを放り投げる。一瞬だけ身体へと浸透した青の輝きは力強く、アルフはエーファを宙へと放り投げた。


「――――っ!」


 わずかな浮遊感。それから感じるのは目の前の圧倒的な魔力による圧力。圧倒的なまでの魔力は恐ろしい。魔力だけで宙へ浮いた身体が地面へと叩き付けられそうになる。


「行け! ゴーレムがお前を襲うことはない!」


 委縮しそうになった身体をアルフの言葉が押す。そうだ、ゴーレムは攻撃した相手を狙う。今、狙われているのはスターゼルとリネア。

 だからこそ、行け。もしもの時は、アルフの弓がゴーレムを狙う。


「はい、でございます!!」


 だからエーファは恐れずに手を伸ばした。上昇が落下へ変わるわずかな間にその手はゴーレムのでこぼこした背を掴むことができた。

 次いで訪れる衝撃。肩が外れそうになる重力の鎖。魔力を漲らせてそれに抗う。右手で掴んだものを離さないように左手もまた掴めるものを探して掴み取る。


 足で踏ん張り体重を支えた。これで落ちることはない。しかし、ここは動くゴーレムの背。振動は凄まじく、鈍重な動きで動くとはいえ振り下ろされそうになる。

 それを歯を食いしばって耐えながら彼女はゴーレムを昇って行く。辿り着く頭頂部。光の柱によってゴーレムのほとんど全身が黒く焦げ、大地の槍によって刺し穿たれながらもそこだけは出現したままの状態で保たれていた。


「口の中に命令を書きこんだ魔導書がある、でございましたね」


 正確に言えば頭の中だ。そこに弱点がある。ゴーレムにとってそれは生命線ゆえに隠されている。だが、先の二つの魔法によってそれが浮き彫りになった。

 あれだけの一撃を受けて無傷に近い頭部。明らかに守りの固いそこは、弱点が入っていますよと言わんばかりだ。古いタイプの人間が作ったゴーレムだとアルフは言っていた。今のゴーレムは大抵取り出し不可能な、あるいは処分不可能な分厚い岩に覆われた胴体の中に命令書を入れるのだ。


 だが、このゴーレムは頭にある。昔の人間が作ったということだ。


「取り出せばゴーレムは止まる。私たちの勝利でございます」


 そう呟いてそろりそろりとゴーレムの頭頂部を移動し、目の位置にあるくぼみへと手をかけてぶら下がる。そして、その口の中へと手を伸ばした。

 指先に触れる紙片の感覚。それにしたがって手を伸ばし掴み取った。


「取った! ――あわわっ!?」


 それと同時にゴーレムが倒れるように崩れ落ちる。思わず飛び降りたが、何も考えていなかったエーファは着地をどうしようかと思う。

 ゴーレムは大きかった。そこから落ちた。巧く着地できればいいが、そう思いつつ魔力を全身に巡らせて強化を施す。これでどうにかなるだろう。


 そう思っていると余計なことをした男が一人。


「おおおお、エエエーファアア!」

「ちょっ!? 旦那様ァ!?」

「ぐぼぁ!?」


 受け止めようとしたスターゼルにわず足を出してしまったエーファ。下敷きになるスターゼル。ぴくぴくしているが生きているようだった。

 同時に轟音を響かせて倒れるゴーレム。


「大丈夫か!」

「大丈夫ですか!」


 そこに走り込んでくるアルフとリネア。


「あ、大丈夫でございます」

「わ、我輩が、だめ、であ、る」

「元気そうでございます」

「まあ、勝ったな」


 快挙だろう。もちろんアルフはこれで自分たちが強いなどということはない。それでも、やってやったぞとはいえる。

 ゴーレムだから勝てた。他の魔物がリーンとゼグルド二人分の魔力を宿して襲ってきたら一瞬で瞬殺されただろう。ゴーレムだから勝てたのだ。それを忘れてはいけない。


 それでも、勝ったのだ。それはゆるぎない事実で。


『汝らの資格を確認した』


 それは、


『最後の試練を開始する。有資格者よ、心せよ。汝の望みを示すが良い。それをもって、聖鍵の資格を是非を問う』


 新たなる試練の幕開けにすぎなかったのだ。


「――――!?」


 圧倒的な魔力の奔流が聖堂の中心に生じ、その瞬間、アルフらはどこか見知らぬ場所に送られていた。幾何学的な魔法陣が構成する特殊な空間。


「な、に? どこだ、ここは」


 アルフですら、この事態は想定していない。何が起きた。ゼグルドは、リーンはどこへ行った。ここにいるのは、アルフ、エーファ、スターゼル、リネアの四人の人間のみ。

 あとは資格なしとでも言わんばかりに姿形もありはしなかった。いや、いいや違う。ここにはもう一体、何かが存在している。


 それはまるで大地のようであった。人型をした大地。そう形容するのが正しいと思える。そんな土色の人型。あるいは泥人形とでも言った方が正しいか。

 それが抱くのは圧倒的なまでの敵意か。四人は咄嗟に構えを取った。まだ終わっていない。ゴーレムはただの試金石。これと戦う資格を問う。ただそれだけのもの。


 今こそが本番なのだと目の前の人型は告げていた。唐突に、戦いは始まる――。

遅くなりもうしわけありません。台風で休みなのを良いことに執筆しました。


リーン、ゼグルド、それからアルフ一行の戦い。ゴーレムに皆無事勝利。しかし、アルフ一行を襲う次なる試練。

だいたい次で終了。あとはエピローグの予定。ただしどうなるかは未定。中々執筆時間がとれないのでまた遅くなりそうです。


とりあえず第三章も終わりが見えてきたので第四章の話でも。

一応の構想では、ついに伝説が幕を開けるという感じです。いわばRPGが開始される時まで来た、そんな感じを予定してます。

果たしてアルフは活躍できるのか。


それはそれとして六花の勇者面白いですね。原作大人買いして読みました。五巻まで読み終えたあとの絶望感が半端なかったです。スパイラルという漫画を思い出しました。

まあ、それは良いとしてアドレット君良い主人公ですよね。道具使う主人公、弱いけど自分の持てる選択肢で頑張る彼は今期最高の主人公と言っても良いでしょう。私の独断と偏見ですが。


では、そういうわけでまた次回。


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