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とある中堅冒険者の生活  作者: テイク
第三章 ドワーフとエルフと中堅冒険者
37/54

第7話 事情

「――リネア」

「はい、(わたくし)も感じました」


 それは魔物が集まっている気配。ここからほど近い場所で誰かが襲われている。アルフが感じた気配は一つ。特有の気配はわかりやすい。

 それはリネアも感じたようだった。だからこそ、二人は示し合せることなく駆けだす。アルフにしても仲間を見捨てるという選択肢はなかった。


 だからこそ、全速力で走る。そして、その先で見つけたのは、


「ガルネク!」


 袋小路で襲われる半ドワーフのガルネク。魔物に囲まれる彼。だからこそ、アルフはリネアを見た。彼女はそれですべて察する。

 今まさに飛びかかっている魔物たち。それを一斉にどうにかするなどアルフには不可能。弓でどうにかするにも今からでは間に合わない。


 つがえるという工程が必要な以上、速射には限界がある。だからこそ、ここはリネアの出番であった。法剣であればここからでも届く。

 だからこそリネアは即座に法剣を抜いた。そして、振るう。柄に使われている魔法金属、それから刃を連結されている魔法鉱石の鋼糸によって彼女の意思が伝導する。


 さながら意志を持つ生物が如く、法剣は風切音を響かせながら伸びた。ガルネクに向かって飛びかかっていた魔物が全て同時に斬り伏せられる。

 彼を囲むように魔物の間を糸を通すように刃を通し、そこからその円を広げて斬り裂く。彼を守りそれですべてを斬り伏せるという言葉にすれば単純ながらやるには相当の技術を必要とするだろう斬撃にアルフは感心する。


 そして、少なからず間の空いたその瞬間にアルフらは魔物の包囲を飛び越えてガルネクの下へと走った。


「間一髪、間に合ってよかったです。これもまた我らが神の加護のなせる業でしょう」


 突然の出来事に目を白黒させるガルネクにリネアは良かったと言う。その間にアルフは、


「まあ、運が良かったのは同感だな」


 矢で集まってくる魔物を迎撃する。血の匂いにひかれたのか魔物がやってくる。もともとここにはかなり多くの魔物が住んでいたらしいので、これはある意味当然の結果だろう。

 だが、


「なんにせよ、間に合ってよかったよガルネク」


 まずは彼が無事な事に安堵する。


「アルフさん、シスター・リネアも」

「話はあとだ。行くぞリネア」

「はい、アルフさん!」


 それからこの状況を乗り切るために動き出す。数は多いがやってやれないことはない。幸いな事にアルフとリネアの相性は悪くないのだ。

 アルフもリネアも戦闘スタイルは似ている。近距離の剣に遠距離の弓。これだけでも大分似通っていることがわかるだろう。


 ゆえに、互いがどう動くかがある程度わかるということもあって即席の本格的なコンビ戦闘による連携であっても互いの足を引っ張ることはない。

 また、


「交代だ下がれ!」

「はい」


 前に出ていたリネアが下がり、アルフが前に出る。あるいはアルフが下がりリネアが前に出る。そんな役割の交代(スイッチ)もできるのだ。

 単純に考えて負担が大きいのは前線で直接相手と切り結んでいる方だ。負担が大きいほど疲労が大きい。もちろん、あくまで程度の差ということも出来るが疲労と言うのは馬鹿にできない。


 一つのミスが全ての瓦解に繋がる。負けられないならばそれはもっとも考慮すべき。だからこそ、後方で援護も出来れば前に出て戦う事も出来る二人というのは実に相性がいい。

 どちらかが疲れれば後方に下がり役割を交代する。後方で援護は前線よりはある程度疲労は少ない。少しは回復に当てられる。


 なにより矢の数には限りがあるのだから、メインは前線。援護だって散発的にならざるを得ないならば多少でも回復に当てるのが良いだろう。危ない時に援護さえできれば良いのだから。

 交代で休めるというのは継続戦闘時間に影響を及ぼす。つまり、交代で回復しながらならば少なからず長く戦えるということだ。


 だからこそ、魔物の大群を前にして戦えているのだ。


「さて、どうするか」


 前線から後方に戻り矢をつがえ要所要所でリネアの援護をしながらアルフは考える。このままでは負ける。

 そう負けるのだ。別段戦闘能力が魔物と比べて劣っているとうわけではない。最奥とは言え生まれたばかりのダンジョン。そう強い敵はいない。問単純に数の差の問題なのだ。冒険者や武装シスターと言えどもいつまでも気力体力が持つわけがない。


 必ずいつか限界がくる。だから、その前にどうにかこうにかこの場を収める必要があるのだ。いつものアルフならば逃げの一択なのだろうが、問題なことに魔物の巣をガルネクが踏み抜いてしまっている。

 比喩でもなんでもなく踏み抜いたのだ。穴ネズミの巣を。とりあえず穴ネズミは地面に穴を掘って暮らす群れをつくる大きな鼠型の魔物でいわば蟻だ。


 鼠でありながら蟻の性質を持っていると言ったらわかるだろうか。そんな魔物であるため巣を破壊されたことへの怒りは何よりも強いし、悪いことに産卵期だ。

 いや、正確に言うと発情期というか、まあそこらへん微妙なのだがともかくもっとも刺激してはいけない時期であったことは間違いない。


 そうでなければこれほどまでに彼らが目を赤く輝かせて怒りを表しながら、その鋭い牙と爪を以て襲ってくることはないのだから。

 奴らの目の前で撤退したところでどこまでも追ってくる。奴らは執念深い。そういう時期。だからこそ、ここではうまい撤退の方法を考えねばならないのだ。真正面ではない逃げ道を。


「アルフさん!」

「おう!」


 しかし、悠長に考えてもいられない。リネアとポジションを交代しながらアルフは右手の剣と左手の小剣を振るう。

 器用に両の手の剣を手繰りながらリネアと共に定めた前線のラインで奮闘する。まったく良いことに袋小路にガルネクがいたことがこの状況を二人で回せるくらいの難易度にしてくれていた。


 ただし言い換えれば容易に逃げられないことも示している。入り口を限定し、相手の数を制限している為戦えているが逆に言えばここから先が困難。

 逃げる場所が前しかないのだ。そして、そこには魔物の大群がいる。


「すんません、おいらのせいで」

「いえ、貴方のせいではございません」


 ガルネクの謝罪をリネアは受け取らない。この状況に飛び込んだのは自分たちであるし、依頼主を助けるのは当然だとアルフは言うだろう。

 リネアにしても弱きを助ける為のオーニソガラムに武装シスターだ。だからこそ、謝罪などもらう必要などない。


「しかし、このままでじり貧です。何か逃げる為の方策を考えないといけません」

「では、おいらが穴を掘ります」

「穴?」

「この壁を崩し向こう側に抜けましょう」

「しかし、相手はどこまでも追ってくるのでは?」

「ええ、しかしそれは縄張りの中だけでしょう」


 如何に狂乱しているとはいえども、追ってくるのは奴らの縄張りだけ。それはそうだが、その突破が難しいのだ。

 しかし、そこまで考えてリネアは気が付いた。


「なるほど、このこの向こう側は違うと?」

「ええ、土の精が教えてくれやした」


 壁一枚向こう側は縄張りではない。土の精霊が教えれくれたこと。なんとも都合がよいことではあるが、ダンジョンの体内ではそういうことも起きる。ならば今はそれに賭けるのが一番だろう。

 いつまでもここで戦い続けて相手の全滅を待つよりは幾分かは建設的であることにかわりはない。


「では、お願いします」

「ええ、まかせてくだせえ」

「アルフさん!」


 リネアは前線にいるアルフに作戦を伝えた。


「なるほどね。それが本当なら行けそうだなっと!」


 剣と小剣をクロスさせて少しばかり図体の大きい魔物を弾いて飛ばし、その隙に寄ってきた鼠共を蹴っては斬りつけていく。

 背後の守りは気にしない。後ろに回られれば後ろから援護が来る。腕は信用しているから、ここは信じて前だけ見て戦う。狭い通りを精一杯、壁なども使いながら懸命にアルフはここで通せんぼ。


 後ろから聞こえるハンマーを振るう音は早い。幾許もせず穴が空くだろう。だから、それまでガルネクの死守だ。


「もうひと踏ん張りだな、こりゃ」


 自分を鼓舞するように言いながら剣を振るう。下から掬い上げ左の小剣で腹を突き刺しその死体を相手の集団に投げ飛ばして崩して、崩して、崩す。

 そんなアルフの戦い方を後ろから見ていたリネアは思う。アルフの戦い方は嫌がらせじみていると。そして、それだけに戦いたくないと。


 アルフは絶命を狙っていないのだ。殺して数を減らすことも肝要であるが、群れを成す魔物というのはそれだけ仲間意識が強いということでもある。

 群れの中核にある思いは紛れもない人間と同じもの。それは魔物でも普遍的なものであるとアルフは知っている。


 だからこそ、そこを突く。如何に狂乱していようとも仲間が傷つけば彼らは心配するのだ。少なくともそういう風に本能的に守るように動く。

 特に、少しばかり図体の大きい群れの中で、いわば群れの中間管理職的役割を持った奴。ボスとの間を取り持つ奴は傷つけられて瀕死になると仲間が守りに行く。


 例え(アルフ)の近くでも。いいや、敵の近くだからこそだ。そして、それを逃すアルフではない。意識が自分ではなく守る対象の向いているのであれば、攻撃を当てるのは難しくない。

 薄くされど動けない程度には重く。だからこそ、両手で片手持ちで剣を扱っている。二刀流という概念だが、手数が増えると同時にこれは攻撃力が下がるのだ。


 それも当然だろう。両手と片手では威力が異なるのは道理。力というものはどうやたって片手と両手では差がでるものだ。

 ゆえに、だからこそ。


「寄ってきすぎだお前ら。そんなに俺が好きかよ」


 まあ、そうなるように仕向けているのだが。寄ってきたの斬る。そして、屍ではなく重症の生者を積み上げえていく。

 さあ、お前らどうする? こいつらはまだ助かるぞ? 魔物は魔法を扱える。超自然的なそれ。勿論、再生という普遍的かつ単純なものは有している。


 だからこそ、この手の群れは仲間を見捨てない。ああ、何とも素晴らしい絆だろう。だからこそ、ここでは弱点だ。

 寄ってきて、馬鹿正直に守ろうとするから意識が裂かれる。そんなものはアルフにとっては御しやすい。誘導し、一人であろうとも迂闊にここから先に行けない。そう言う風な状況を作り上げる。


「アルフさん!」

「おう!」


 その時、ちょうど穴が空いたのだろう。一矢と共に声が来る。だからアルフは球体を破裂させた。

 生じるのは強烈な臭い。お得意の臭い玉。嗅覚の鋭い魔物たちが一斉に散って行くがすぐに追ってくるだろう。


「おお、くっせええ!」


 だから、アルフもそう叫びながら穴の向こう側へと飛び込んだ。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ふう、どうやら逃げ切れたようだな」


 あのあと、臭い玉から逃れながら追ってきた魔物たちをなんとか撒いて建物の一つでアルフらは一息ついていた。

 時間的に言えばおそらくは夜になるような時間だ。今日はこれ以上動くことはできない。地下であろうとも時間の流れはある。魔物が活性化する時間だ。


 だからこそ、ここは魔物の巣でもない建物の中で晩を明かす必要がある。冒険者であればわかっていることであるのでおそらくは仲間たちもこうやって休んでいることだろう。

 外に煙が出ないようにして起こした火を囲んでアルフは簡単な料理を作っていた。本来ならばそんな悠長にしている暇などないが、食事は少しでも気分を良くする効果がある。


 うまい料理はそれだけで人を幸せにできる。この状況で暗い気持ちに沈まないためには良いものだ。

 それに腹が減っては満足に動けない。食べられる時に食べるべきだ。そう言いながら作るのは簡単な串焼き。


 あの場で死んだ魔物から持ってきた肉を焼いたものだ。少し贅沢に香草などを使い味は濃いめにして少ない量でも腹が膨れるようにした。


「良い匂いですね。女として妬けてしまいます。自戒しなければならないというのに」

「まあ、冒険者で一人身が長いからな」

「そうなのですか? 気が利く方なのでご結婚しているのかと思っておりましたが」

「まさか」


 そんなわけないだろう、とアルフは肩をすくめる。


「とりあえず出来た。オーニソガラムには食べてはいけないものはなかったよな?」

「はい、大丈夫です。明日は肉は食べられませんでしたが、今日は大丈夫。ありがとうございます」


 リネアに肉を渡してをついで次はガルネクの方へ。


「ありがとうございやす」

「いいさ。明日も動かないといけないからな、しっかり食っていてくれ」

「へい」


 とんだことになってしまったがまだ希望はあるだろう。まあ、稼ぐどころでなくなったのはあれだが。


「では、いただきましょう。恵みを与えてくれた神に感謝を」


 決まりの聖句を唱えて食べ始める。


「う、うまい!」

「おいしいです」

「そいつは良かった」


 アルフも食べる。さっさと食べ終わって残った骨などは燃やさずに埋める。下手に燃やして匂いでも出たら問題だ。

 焼いている時は魔物避けの香草も入れていたので魔物は寄ってきていない。まさか、食べ残しを処理する為に香草を使うわけにもいかんだろう。


「さて、食い終わったなら早めに寝るとしよう。ああ、見張りは俺がするから安心して寝てくれて構わない」

「ならば、私が交代を――」

「いや、良い。一晩くらいなら大丈夫だ。あんたは初めての実戦だと言っていたし、こんな状況も初めてだろう。知らないうちに疲労がたまっているはずだ寝てくれ」

「しかし……」

「良いから。気にすんなよ。こっちは専門家だ。慣れてる」

「わかりました。では、何かあれば起こしてください」


 そう言って毛布が割りのマントにくるまりリネアは眠りにつく。疲れていたのだろうその眠りは早く、すぐに寝息が聞こえてきたほどだ。


「ガルネクも寝てくれ」

「…………」

「ガルネク?」

「あ、いえ、な、なんでしょう?」

「いや、寝てくれって話だが、何か考え事か?」

「いえ、こんなことになってしまって稼ぎが、と思ってしまって。考えるべきではないのに」

「こればっかりはな」


 まさか、あそこで下が崩されるとは思わなかった。そして、こんなところに落ちるのもだ。全てが予想外だった。

 それでも思うことはある。もとより何か目的があってこの祭りに参加しているのだろう。でなければ三日間潜り続けるなど普通ならばしない。


 鉱山夫でもそれ相応に、いや鉱山夫だからこそ危険なのだ。だから、何かあるのだろう。


「……なあ、良かったらでいいんだが、聞かせてくれよ。どうして、稼がなければいけないのかをさ」


 見張りは暇なのだ。寝るまでの間、少しくらい話し相手になってくれ。そんな意図でアルフは聞いた。別段詮索する気はない。

 ただ、力になりたいとは思う。三日間潜り続けるという決死の覚悟で挑んだその理由を。それだけの覚悟だ、何か重大なことがあるはずで。アルフはそれに力になりたいと思っているのだ。


「それは話せない類のことか?」

「い、いえ! そうではないのです。……わかりやした。おいらの話を聞いてください。こんなことになったのはおいらの責任でもありますから」

「別に、あんたの責任だとかは思っちゃいないさ。できればあんたの力になりたいと思ってる。こういう遺跡には金になるようなものもあるかもしれないしな」


 そうですね、とガルネクはおずおずと話し始めた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 昔々のことだ。まだガルネクが子供であったころ。今もそうは変わらないが、それよりも幼かった頃のことだ。

 ハーフだから、迫害されていた、とまではいかないが多少のいじめにあっていた。母親は人間だったし父親はいなかった。


 必然母親が働いていたし、そういうこともあって友達もおらず基本的にガルネク少年は一人で過ごすことが多かった。

 街の中でも、あるいは外なんかで。外に出るなど正気の沙汰ではないが、子供ゆえに本当に1人になれる外なんかは心が安らいだのだ。


 林の中なんかで一人、何もなく座っていた。もちろんそんなことをすれば魔物に襲ってくださいと言っているようなものだ。

 案の定、魔物に襲われた。そんな時だ、風が吹いた。優しい風だ。それは飛びかかってくる魔物を包み込むとどこか遠くへ運んでしまったのである。


 何がなんだかわからず混乱していると、背後から声がかけられた。精霊言語。木と森の精霊訛りの強いその言語はエルフの言語であった。


『大丈夫ですか?』


 そうそこにいたのは美しいエルフだった。絶世の美女。生きた芸術とすら形容される美の種族。そんな存在とガルネクはであった。


 黄金に煌めく金糸の髪は貴族の令嬢が霞むほどの美しく風に揺れるだけで竪琴のようにさらさらとした音色を奏でている。

 深く、深く何よりも深い青は空か、水のようであり覗きこむ全てを魅了するかのような澄み切った穢れのない瞳。


 見ただけで瑞々しさが分かる白玉の如き肌は、傷一つなく光を浴びて光を蓄えているかのよう。薄く色を帯びた肌色はまさにどのような画家が目指そうとしても到達不可能な色の芸術だった。

 本来ならばエルフとドワーフは険悪な関係だ。地の底に住む者と森の木々の上などに住む者たち。価値観が違いすぎて仲が悪い。


 古くは戦争すらあったと言われている。そんな存在が目の前にいた。だが、ガルネクは嫌悪を感じる前に、人の部分がどうしようもなくうずいたのだ。

 それが何であるのか当時の彼にはわからなかったが、この人にたまらない感情を抱いたのは間違いない。


『あ、あの、ありがとうございました』

『おや、小さき人にしては殊勝ですね。いえ、子供は純粋、そういうことなのでしょうか。もしくは、貴方だからなのでしょうか』


 そう悪戯っぽくいう彼女。どうやら少しの間この林に滞在するらしい。なんでかと聞いたが、そういう気分であったと。

 ならば、とガルネクは彼女に話をしてほしいと言った。自分と、会ったときは話をしてほしいと。それは子供特有の不器用な逢瀬の約束だ。


『ええ、良いですよ。これもまた変化でしょう』


 そうして彼と彼女はここで良く会うようになった。何も特別なことをしたわけではない。他愛のない話をしていただけ。

 街で何があっただの、自分はこういう奴だの。主に話していたのはガルネクであったが彼女はそれでも楽しそうに笑っていた。


 そんな逢瀬は百年ほど続いた。人間ならば一人の一生だろうが、長い時を生きる彼らにとっては直ぐに過ぎ去るくらいの時だ。

 ガルネクもまた、成長して鉱山夫となっていた。他のドワーフと同じく鍛冶や細工の技を持ちながら自分で鉱石を探す。


 そんな生活を始めていた。そうなると仕事が忙しくてなかなか会いにこれなくなる。百年、ほとんど毎日あっていた二人の交流はここで少しばかり途切れることになるのだ。

 それから十年くらいか、見習い鉱山夫を卒業して本格的に鉱山夫となった頃、ガルネクは再びエルフに会いに行った。


 久しぶりのため、まだいるだろうか。不安になったが、結論からいえば彼女はそこに変わらずいた。だが、問題が発生していたのだ。

 多数の人間に囲まれている。どうやらエルフがいるという噂を聞きつけて、是非とも手に入れたい裏の奴隷商人たちが動いたようなのだ。


 乱暴に彼女を連れて行こうとする奴隷商人ら。彼女は抵抗していたが、元来エルフは優しい種族だ。特に、人間を好いている。

 だからこそ彼女は傷つけることを良しとはしなかった。しかし、ガルネクからすればそんな話は知らず、彼女は恩人である。


 ガルネクは彼女を助けなければならないと思った。だから、愚直にも武装している彼らの前に姿を現したのだ。

 そこからは一方的だ。奴隷商人たちが雇った用心棒たちに囲まれて殴られ続けた。ガルネクとて戦闘技術は持っていたが相手が悪い。


 この時雇われていた用心棒と言うのは戦闘を得意とする冒険者たちだ。それが十数人。勝てるわけがない。

 だが、それでも彼は諦めなかった。何度倒されようとも立ち上がり、向かって行ったのだ。


『なぜ、逃げてください。わたくしならば平気です』

『いや、です』


 殴られ続ける自分を見て泣きそうな彼女。

 ガルネクのタフさに騒ぎは大きくなり街の衛兵に知られることとなりこの一件はどうにかこうにかおさまりを見せる。


『なぜ、あなたはなぜこのようなことを。こんなにも傷ついて』

『なんで、だろ。おいらにも、わかんねえ』

『…………そうですか。ふふ、お茶目さんですね。でも、ありがとうございました。かっこよかったですよ。ガルネク』


 そう言って彼女は一筋の涙を流したのだ。それは悲しさではなく、嬉しさからだった。


「……そうして、おいらたちは今のようになりました」


 衛兵に見つかってしまえば、もうここにはいられないだろう。ガルネクの一件もある。あの奴隷商人たちはそこそこの権力を持っていたから。

 だから彼女は領主の奴隷となることになってしまった。幸いなのか、領主が武人であった点だ。エルフの魔法にしか興味がなかった。


「でも、おいらは、助けたいんです。おいらは、あの人のことが好きだから」


 だから、彼女を自由にしたい。誰かにもらわれてしまったら酷いことになるだろう。だから、自分がやるしかない。


「……なるほど」


 アルフは事情を察した。男女の機微はまあ疎いためわからないこともあるが、とりあえず彼が必死で彼女を救いたいそう思っていることはわかった。

 ならば是非もないだろう。


「任せとけ。俺たちでなんとかしてやるよ」


 アルフがやることなど決まっている。困っている奴を助ける。見捨てない。ならば協力することに躊躇いなどあるはずがなくアルフは即決で協力することを決めていた。

 仲間たちが何を言うかはわからないが、何を言おうともアルフは協力すると決めている。そこらへんの説得は骨が折れそうだが、何だかんだ言いつつ協力してくれるだろう。


 今まで一緒に、旅をしてきたのだから。


「ならさっさとここを出るか、お宝を探さないとな」

「あ、ありがとうございやす!」

「良いって。早く寝ろよ。明日は忙しくなりそうだからな」

「はい!」


 そう言ってガルネクもマントにくるまる。


「…………」


 彼が寝静まってから、


「何とも青春というかなんというかだな」


 自分のことにはとんと疎いが他人の事になると無駄に鋭い。それにガルネク本人も言っていたことだ。好きだと。


「いやはや、こういうことがあるとはね」


 エルフの知り合いもドワーフの知り合いもいるが、こういう話は聞かないので新鮮だ。いや、下世話な意味ではなく純粋に。


「あいつらに話したらどんな反応するかね」


 信じられないと言うだろうか。笑うだろうか。まあ、面白い反応をするだろう。


「さて、なんとか叶えてやりたいもんだ」


 しかしそれには金がいるのだろう。少なくとも、賞品となっているのだからそれと交換できるだけの金や銀がいる。


「この手の遺跡にはそういうものはあると思うが、さてうまいことあってくれると嬉しいが」


 楽観はできないが祈ろう。純粋な二人の為にアルフが今できるのはそれくらいだから――。


更新できなくて申し訳ありませんでした。そして、さらに謝罪。ちょっと、六月は更新できそうにないというか、今完全にスランプに入って書けない上に、時間もないという二重苦に悩まされています。

そのため次回がいつになるか明言できません。失踪する気はないので、気長にお待ちいただけると幸いです。


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