エピローグ
「あ~る~ふ~、お前ものめ~」
艶やかに、猫なで声でゆったりと身体を預けしなだれかかってくる。女特有の芳香が鼻孔をついてどきりとするも、その相手が相手だけに情欲が起き上がることはない。
ただ単純に多少の役得感と煩わしさがあるだけであった。それも仕方がない。冒険者の肉体は魔力を身に受けるため、歳をとっても若々しい。そのため肉感的には三十代ではなく二十代の女と比べてもそん色はない。
「サラ! お前、また飲みやがったな! こっちくんな暑苦しい! おい、お前らのリーダーだろなんとかしろ!」
しかしだ、場所を考えてほしい、とアルフは思う。
場所。そう場所が問題だ。ここが酒場であるならば役得としてそのままその感触を享受することもやぶさかではないのだが場所が悪い。
アミュレントの中央といえばわかるだろうか。そうアミュレント中央とはつまり貴族の城館である。つまり、今現在アルフらはバジリスク討伐の功績を称えられてここにいるのである。
ベル曰く、彼女が最初の一匹を討伐した時にも同じようなことがあったらしいが、回数がかさむうちになくなっていったという。
今回の場合は岩の森付近というアミュレントからほど近い場所に出現したうえに、かなり巨大であったことから住民たちが危険を感じたために領主が大々的に討伐したことをアピールするために執り行われている。
より正確にいうのならば、住民の不安を取り除く目的でパレードが行われたのでそのままなし崩し的にパーティーが行われているというのが正しい。
それでもアミュレントの豪商などの著名人たちが一堂に介して、バジリスク討伐の祝賀会という名目で新たな取引の交渉を行っていた。商魂たくましいとはこのことである。
また、それだけでなくサイラスの面々にも多くの著名人たちが集まっていた。それは主に近隣の領主たちだ。つまり貴族たち。
村などを治める新興の貴族たちは年代を重ねて力をつけた貴族に早々逆らうことができない。そのため、力をつけるために、うちに仕官しないかという誘いをかけているのである。
「おー、美しいお嬢さーん、どうだい? この僕の盾となって死ぬ栄誉なんてどうだーい? そうすれば僕がモフりほうだーいなんだ」
「ぇ、あぁ、えっと、私夫がいる、ので」
ものすごいうざい貴族がラナリアを勧誘していた。くねくねうねうねと動きを見せながら勧誘を続けている。その目は彼女の耳一直線だ。
貴族にはたまにこういうのがいるのである。古い貴族には少ないが新興貴族は純血主義に染まり切っていないこともあってか、他種族に寛容な奴が多い。ただし、こんな変態もいる。
「…………」
「…………」
イグナーツは貴族と何やらにらみ合いのような無言の勧誘劇。しばらくそのままであったが、突然電流でも走ったかのように何かが通じ合ったのか、ともに握手をしてその場は終わった。
「ほうら、スキンナリ様、どうぞ」
「あーん、こっちにもー」
「っはっはっは、押さない押さない私はここですよー」
スキンナリに至っては勧誘どころか女に囲まれている。どうやら貴族の子女たちであり、教会関係者の血を入れたい貴族たちに囲まれているようだった。
ただし、こいつは妻子持ちだ。
「楽しそうだな、おい」
多少うらやましそうにアルフがそう呟く。
「あ~る~ふ~、さけが止まってるぞ~」
「頼むから、離れてくれよ。さっきから貴族どもの視線がこええんだよ」
「な~に~、わらひのさけがのめないってのか~、あるふのくせになまいきだぞ」
相変わらずサラは酔っ払い。アルフが酔わないのに対して、彼女はかなり酒に弱い。数杯でこのざまだ。見ている分には可愛らしいものであるが、絡まれているとまったくそうは感じない。
ただただ面倒くさいだけな上に、彼女が村のガキ大将だった頃を思いだして精神衛生上良くない。本当、面倒臭いこの一言に尽きる。
「押し付けやがって。ほかに、は……あいつらもか」
声をかけられているのはサイラスだけではない。ベルの口車によってアルフ一行らもつれてこられている。
弱いアルフに声がかかることは早々ないが、ゼグルドとスターゼルは別。特にゼグルドは竜人ということもあって多くの貴族たちに話しかけられていた。
「お酒は飲まれますかな?」
「え、ええ、まあ」
「ほほう、竜人の酒とはどのようなものですかな?」
やら、
「貴公はたいそう腕が立つのだと聞き及んでいる。冒険者などという根無し草の生活などやめて、我が一族の剣となり盾となってみんか? うん?」
「い、いえ、め、めっそうもない」
やら、
「これを見給えよちみぃ、どうだ、すごいかろう?」
「え、えっと」
「すごくないというのかねえ、ちみぃ? なんとか言ったらどうなんだねちみぃ?」
「す、すごいです」
「ひょっひょっひょ。そうだろうそうだろう。さすがは竜人、見る目があるねえちみぃ。これぞ我が魔法技術の粋を以て作られた溶けぬ氷の結晶であーる。これはだねぇちみぃ、魔力の結合と魔法による冷気の発生に関係があってだねちみぃ」
「お、えあ、えあ」
などなど。
物怖じしないというか、竜人以上にある意味で怖い奴らが跋扈している貴族社会を生き抜いてきた貴族たち。
どうにも彼らは竜の覇気くらいでは全然堪えないようで、珍しい竜人相手にうんちく披露をしたりやら、勧誘したり、酒の話をしたらとやたらせわしなく動き回っている。
ゼグルドはそれについていけず、というか宮廷言葉をほとんど知らない彼は聞き取ることで精いっぱいでもうどうしようもないという状態。
そのせいでまったく返答ができないでいるが、貴族どもは気にせず話し続けている。数人に囲まれて話しかけられているため、内心いっぱいいっぱいのゼグルドであった。
(あ、アルフどの~~)
(がんばれ)
アルフは内心でエールを送った。
「あ~るーふー! どこみてるー酒のめー、酒をつげー」
「ぐあっ、やめろ。首がとれる、とれる!?」
よそ見してたら、サラに首をつかまれて引っ張られる。力加減なんてない。首が飛びそうになるアルフであった。
「ほっほっほ、あんらー、シュバーミット男爵じゃございませんこと? おおー、これはとてもご無沙汰でございますねえ。ご機嫌麗しゅう?」
「はっはっは、実によいぞ」
「あんらーあんらー、それはようござんした。それにしても男爵はその服、お似合いですよ。まさに村の男爵と言った風情では御座いませんか。普通の貴族では考えられませんわ。とても、ええ、とてもお似合いですわよ。おーっほっほっほ」
一方のスターゼルはというと貴族たちに囲まれて何やらいろいろと言われているようである。今、彼の目の前にいるけばけばしい衣装に身を包み扇を持ったご婦人は言外にお前はそういうみすぼらしい格好が似あってるよと言っていた。
スターゼルはゼグルドとはまた逆で、話しかけられてはいるがそれはほとんど馬鹿にするような内容である。
というのもシュバーミットは貴族社会ではそれなりに古い家系のようで名の知られた一族だったらしいのだ。それが領地を失って貴族でなくなった。
貴族たちにとってそれはまたとない餌なのである。貴族社会ではいかに自分をよく見せ、他人を貶めるかのプロフェッショナルたちが集う場所だ。
そんな奴らに餌でもやってみるとあとはもう終わりである。宮廷言葉特有の回りくどい言い回しを用いて言葉巧みに相手を馬鹿にして悦に入るのだ。本当性格が悪い。
そういうわけで、まさに魔窟と比喩されるだけはある貴族社会の中を生きる魔物である貴族たちはスターゼルを馬鹿にしていた。
宮廷言葉を巧みに用いて、ものすごく回りくどく皮肉をスターゼルへと投げかけていたのである。さすがは貴族社会というべきなのだろうか。
しかしスターゼルは、
「はーっはっはっはっは。そうであろうそうであろう。ご婦人はなかなかお目が高い。ご婦人のドレスも素敵であるぞ。まあ、我輩には及ばんがな。ふはははははっ」
まったく堪えていなかった。むしろ、実に楽しそうに久しぶりの貴族らしい振る舞いをしている。ほぼ初めての貴族社会のパーティーだろうが緊張などもしていないようだ。
だというのに裏の事情というか言外の言葉など聞こえていない様子。ただ額面通りに受け取って貴族たちを愕然とさせていた。
「これだからシュバーミットの一族は馬鹿に出来ん」
それを遠巻きに見ていた一人の貴族が言った。まさにそのまんまの意味である。馬鹿にしても貴族特有の回りくどい言い回しではシュバーミットには通じない。
かといって真正面からいうのははっきりと侮辱になる。そのため真正面から馬鹿にしようとするような貴族はいない。
それは先代も、そのまた先代の時も同じだったようでその頃をしっている貴族たちは総じてシュバーミット、つまりスターゼルには近づいていなかった。
それを知らずに近づいた新興貴族の皆様はご愁傷様である。通じないので、むきになっていろいろと回りくどく言っていて空まわっていた。
「ふーはっはっはっはっはー」
それを遠巻きに見ているのは従者も同じで、
「ああ、情けないでございます旦那様……」
言外の言葉をしっかりと聞き取っている従者であるエーファは、彼女の父や祖父たちが同様に抱えていた頭痛に悩まされることになっていた。
「ちょ、大丈夫!?」
その隣でリアンが心配そうにしている。
「だ、大丈夫でございます、少し頭痛がするだけで」
「それ、大丈夫じゃないよね」
そう言う彼もあまり大丈夫ではない。なにせ、貴族の立食会である。ベルの高級料理屋などとはわけが違う。
偉そうな人たちが来ていたのではなく、まさに偉い人しかいないのである。彼らが連れてきている従者の執事ですら上流階級の人間なのである。
何が言いたいかというと、ここはリアンからしたらというかスターゼルとエーファ以外からしたら生きる世界が文字通り違う人間しかいないのである。
緊張で胃に穴が空きそうな気分をリアンは味わっていた。岩の森で色々と強くなったがこういう場にだけは慣れれそうにない。
オーラが違うのだ。自分やアルフのようなザ・平民のようなオーラではない。キラキラと輝くようなまさに別世界の住人というべきオーラがあるのだ。
平民というか農民根性が焼き付いてるリアンにこの場所は地獄とほとんど変わらなかった。
「アルフさんは、すごいな。あんなに堂々としてる――って、あれいない?」
「り~あ~ん」
「うわあ!? こっちに来たあああ?!」
アルフがどこかに行ったのでリアンに来たらしい。
「あ、アルフさーん!」
残念ながらリアンの声は届かないようであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふう、ようやく落ち着ける」
アルフは、なんとかサラを引っぺがしパーティー会場から抜け出してテラスに出て涼んでいた。ここにはわずらわしい目もなければ、厄介な酔っ払いもいない。
片手に葡萄酒のグラスを手にして優雅にアミュレントの夜景を見下ろしていた。リーゼンベルクもそうであるが、大都市というのは夜でも明かりが絶えることが少ない。
転々と通りを照らす街灯の明かりに、歓楽街などの店の明かり。高いところから見下ろすとそれらは地上で輝く星のようにも見える。
その代わりといってはなんだが、天の星が見えにくくなるのがアルフには少々もの悲しくもあった。
「おや、アルフ先生も抜け出したのか?」
「なんだ、ベル。いないと思ったらここにいたのか」
背後からの声に振り返れば、テラスの柵に腰かけているローブの少女がいる。
「ああ、このローブの中身を見たいという御仁が多くてな。面倒になったから二度目以降は出てきているのだ」
「なるほど。確かに、お前のそれは見せられんわな……」
「ふふ、そうだな」
アルフはそういって笑みを作る彼女を見る、風に揺れる白い髪と血のように、あるいは燃える炎のような金を宿す深紅の瞳を。
それから視線は自然と彼女の額へと移る。
「純白と金を宿す赤の瞳、それとこれは、な」
紅い眼と白い髪、それから額の端に存在する一本の一度曲がり天を指す角を指さしてベルは笑う。
その笑みの中にはどこか自嘲を多分に含み、それでいて気がかりがあるようにアルフには見えた。
「……あの男のことか? サラに聞いた。あんまり気にすんなあの男のことは」
「ふふ、やはりアルフ先生にはわかってしまうか。……あの男、ヴェンディダードと名乗ったのだろうアルフ先生?」
「ああ、そうだ。お前とミリアのあれも認めていた」
「ははっ、そうか。やはり、そうなのか」
「おい、あまり気にし過ぎるな。お前は――」
それから先をアルフが口にすることは出来なかった。ベルの人差し指がアルフの唇に押し付けられたからだ。
「良い。わかっている。アルフ先生がその先に何を言うのかわかっている。何度も聞いた。だから、言わなくていい」
「…………」
「だから……アルフ先生がいつ結婚するのかということでも考えるとしようか」
「おい」
なぜそうなる。
「アルフ先生もいい年だろう。37だったか? 普通ならばとっくの昔に結婚していてもおかしくない歳だろう?」
「うるせえよ」
「これでも気にしているのだ。長い付き合いだからな」
「…………もう、11年目になるのか。お前と会ってから」
「そうだな……。アルフ先生が剣聖と旅をしていた頃か、懐かしいな。本当に懐かしい。あの頃とは何もかもが変わったが、アルフ先生は変わらないな」
これ以上変わり様がないとも言う。
「それはお前もだろう」
「ふふ、そうだな」
変わらなければいいと思う、このままの日々が――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
リーゼンベルクより西。バルックホルン公爵が治めるバルックホルン州。海に面したそこでは今の大規模な工事が行われていた。
「…………」
男も女も皆が皆、土木作業に従事している。水路のようなものを張り巡らせていく。何をしているのかわかっているものはいない。主導している者すらもそう。わかっているのはこの領地を治める者だけ。
それは領主に雇われた一人の冒険者ですら例外ではなかった。
「大規模な工事。水路をつくるということらしいが……」
それは黒衣に身を包んださながら死を纏うかのような鋭い雰囲気を持った男であった。軽装の鎧ですら黒の様はさながら幽鬼のよう。
だが、死を纏うかのような雰囲気を強くしているのは男自体にある。男は獣人であった。黒い体毛が全身を覆う黒豹。
その鋭い気配は見る者全てに死を予感させる。しかし、首の冒険者証はシルドクラフトのもの。男の名はナズル。魔物狩りで死神の異名を持つ王国級冒険者であった。
今はバルックホルン公爵の依頼でバルックホルン州に来ている。依頼内容は来てから話すとあった為向っているわけだが、獣人特有の鋭い感覚からもはや予知にまで昇華された直感がきな臭いものを感じ取っていた。それは彼の同行者たちも同じようで頷いている。
「そうじゃのう。まあ、儂らには関係なかろう。武力で来られてもどうにかできろうて」
「そうやっていつも肝心なところでうっかりと失敗するのは誰だ。鍛冶の腕もドワーフ最高の称号であるグランドスミス級のくせして、うっかりやらかしたせいで家を出る羽目になったんだろうが」
「カッカッカ、そうじゃが、そうはっきり言わんでもよかろうナズルのや。儂泣いちゃうぞいっと」
そう言いながら下手な泣きまねをするのはナズルよりも幾分も背が低い髭面で、がっしりとした筋骨隆々のドワーフの男だった。
深々とした三角の巨大石帽子をかぶった様から石頭という二つ名で呼ばれる王国級冒険者である。名はアルヴォス。
そんな彼もドワーフとして大地に施されている加工の心意が別にあることを感じ取っているのだろう。
「おや、穴倉ドワーフもたまにはそういう事言うのですね。大雑把で単純なあなたにそんな泣くなどという高尚な感覚があるとは思いませんでしたよ」
そんな彼に嫌味なことをいう女の声が降りかかる。その声はこの世のものとは思えぬほどに澄み切っていた。それを発した人物もまた同じく。
まさに神の造形とはこのことをいうのだろう。すらりとした手足に美しい腰のくびれ。まさに黄金比とはこのことを言うのだとでもいうかのような抜群のスタイル。
見た瞬間、常人の男ならば五体投地してしまうのも当然というほどの美貌を持つのは一人のエルフの女性だ。
金糸と見まがい、風にゆれる度に金の粒子を発する黄金の髪にエメラルドの如き瞳はどこまでも澄み切って見る者全てを魅了する魔眼のよう。
「ケッ、エルフにゃ儂らの感覚なんぞわからんだろうがえ? 高潔なエルフ様よぉ」
「ええ、わかりませんしわかりたくもありません。私は好き好んで穴倉に入る感覚を理解しようとは思いませんので」
魔弾と呼ばれる女性――フェミニア・フォレスガーナとアルヴォスの間で険悪なムードが漂い始める。ドワーフとエルフは仲が悪いのだ。
(うおおおおお、やめてくれよ。なんで、オレを挟んで一触触発な雰囲気醸し出してんだ! やめろよ、オレが死なないからって、オレ挟んで戦い始めようとすんな!)
そんな二人の間でまるで死人のように顔色の悪い男が顔芸をやっていた。どこか育ちの悪そうなそれなりに鍛えていそうな外見の男はカイルと言った。この業界では不死身と呼ばれる男だ。
いつも顔色が悪いが、フェミニアとアルヴォスに挟まれ一触触発の雰囲気に晒されている為か、常に白い顔が、純白に染まりそうであった。
ナズルの話など一切聞いていない。聞ける余裕すらなくなっていたし、そもそも聞いたところで理解はできないだろう。
彼には学などないのだ。常に適当。出たとこ勝負が彼のスタイル。それですべて勝てるのだ。カイルという男は。だからこそ不死身などと呼ばれている。まあ、本当の理由は別にあるのだが。
「(うおおお、頼む、クレイン! 助けてくれー!)」
そんなカイルはやばくなってきたので少し離れた位置を歩いているクレインへと助けを求める。
輝く金髪のまさに王子とでも言われても問題ないような貴公子然とした男。常に薔薇でも背負っているような輝きを放つ男はふぁさぁっと髪をかきあげて、無駄に歯をきらめかせて、
「何ですかカイル。私様の美貌がそんなに気になりますか? 仕方ありませんねえ。まあ、私様くらいの美貌になると男ですら寄ってきますから。ああ、なんて罪作りなのでしょうか。私様は」
優雅な動作で何やら意味不明なことをいう男がクレインである。微笑みの貴公子なる二つ名を持っているが、カイルからしたら微笑みの奇行子だった。
まず一人称がおかしい。なんだよ私様って。意味がわからん。そのくせ、女には人気があるのだ。その顔と、誰にでも優しい紳士的な態度で。
口を開けばこんなだが、良く女に幻滅されないものである。
「ちげーよ!? 助けろっていってんだよ! 気づけ!」
「気づいていますよ。カイル君。諦めないでください。いつか、貴方に好きと言ってくれる方がいますよ。ああ、そうそう、私様の友人のニールさんが貴方に求婚したいそうなのですが」
「なんで、今その話をしたー! しかもニールさんって、完全に名前が男じゃねーか!」
「はい、貴方男受け良さそうな顔してますから。ああ、私様ほどではありませんが」
「てめえ、顔こっちに貸せ、殴ってやる!」
「ああ、殴りたくなるほど魅力的というわけですね。ああ私様の罪作りな美貌が憎い」
こんなカオスな状況にナズルは嘆息する。殺すわけにもいかないのが厄介なところだ。殺してしまえば妻であるラナリアに何を言われるか。
それにラナリアに仲間を斬ったとか言ったらそれもアルフに伝わる。そうなればアルフに何を言われるかわかったものではない。
別にアルフのことなどどうでもいいが、あの弱い師匠に何か言われるのはどういうわけか癪だった。だから、穏便に濃密な殺気をぶつける。
「――!」
全員が一気に反応した。即座に武器を構え、ナズルへと向ける。争いはどこへやら、エルフとドワーフが背を合わせ、クレインとカイルが互いを補うように剣を構えていた。
「お前たちいい加減にしろ。ここら一帯を焦土にする気か。あの弱い師匠に何を言われるかわかったもんじゃないぞ」
その一言で全員黙る。
「利口だな。それで、どう考える」
「そうじゃのう。これな大規模工事、ここには必要なかろうて、どちらかというと無駄なことしちょる。大地の精霊も騒いでおるわ」
「あるとすりゃあ、工事に見せかけた何かってか?」
「ふむ、私様の頭脳曰く魔法的なものかと。思うのですがどうでしょう? 兎ちゃんや七炎ちゃんの話にあったあれですよ」
ナズルはクレインの一言に目を細めた。思い出されるのはあの凄惨な事件だ。
「その可能性はありえます。全体を見なければわかりませんし、私は人間の魔法には疎いので、わかりませんが」
「なんじゃい、わからんのか。ひりょろひょろ」
「あなたも同じでしょうずんぐり」
ばちばちと火花を散らすアルヴォスとフェミニア。
「さて、何もならなければいいのだがな」
もはやそれは恒例行事なので無視してナズルは歩く。
どうにも嫌な予感がしていた。
前半はアルフら一行のその後。
中半はアルフとベルの話。
後半はアルフの弟子ら五人の登場。
の三部構成です。ともかくこれにて第二章を終了とさせていただきます。
なにやら盛大なフラグが立っているような気がしないでもないですが、第三章ではそこまで何も起きないはず、たぶん。
次回は閑話を予定。予告通りアルフ以外の視点による過去編となります。
第三章はその後ということで。
このところあまり執筆が進んでいませんがゆっくり頑張りますので応援よろしくお願いします。
では、また次回。