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とある中堅冒険者の生活  作者: テイク
第二章 新人と上級と中堅冒険者
25/54

第7話 初戦闘

 武技について説明したあと、数時間してある程度二人が武技を自在に使えるようになったと判断したアルフはエーファとリアンの二人に魔物との初戦闘をすることを告げた。

 アルフの時は数週間かかったので、二人がかなり優秀であることがわかる。アルフがその都度見てアドバイスばかりしていたのでそれもあるだろうが、嬉しいやら複雑やらなアルフ。


「まあ、とりあえずお前らのデビュー戦だな」

「は、はい!」

「そう緊張すんなよ気楽に行こうぜ」


 そう言ってアルフは捕まえてきた大きな岩蜥蜴であるロックリザードを縛っていた縄を射ぬいて解き放つ。


「まずは、エーファからだ」

「はい!」


 ロックリザードの前にエーファが立つ。目の前に立てば、初めて魔物と戦うと言う恐怖が徐々に湧き上がってくる。

 無意識にごくりと喉を鳴らす。ロックリザードは弱い。アルフにはそう聞いていた。だが、目の前に立つとそうは思えなかった。


 岩に覆われた巨体は否応なく威圧感を与えてくる。牙も爪も鋭く、眼孔は射殺さんばかりに睨んできていた。

 緊張で力が入り、構えた短剣がカタカタと音を立てる。ぶわりと噴き出した汗が額を伝い、頬を流れていく。髪がまとわりついて邪魔くさい。


 息が荒くなり、吸っているはずなのに吸っていないように錯覚してしまう。息苦しい。

 これが魔物。その恐怖は知っているはずだった。ただ相対するのと、戦うために、命の奪い合いをするために立つのはわけがちがった。


『GRAAA――――!!!』


 ロックリザードが吠える。びくりと身をすくませるエーファ。それを見たロックリザードがエーファへと突進する。


「エーファ!!」

「――っ!」


 アルフの声。確かな声に我に返ったエーファは咄嗟に横に跳ぶことによってその突進を躱す。濃密な死の気配。

 死の風が脇を通り過ぎていく。足が震えるが、止まることは許されない。


 通り過ぎたロックリザードが振り返り、再び向かってくる。それが気配でわかった。振りかえる暇などない。転がるようにしてその直線から逃げる。

 背後を通り過ぎるロックリザード。逃げる。逃げる。逃げる。


「はあ、はあ、はあ……」


 エーファは逃げ続けた。そのうちに、慣れてくる。次第に身体は動くようになってきた。恐怖はあるが、動けないほどではない。


「冒険者になるって決めたんだろ? ならやれよ。今のお前は一人だ。誰も助けてはくれない。あの時とは違うんだ。お前は出来るだろ?」


 ええ、できます。アルフに言葉にエーファは頷いた。深く、息を吐いてロックリザードを見た。行ける。大丈夫だ。自分は大丈夫。

 そう言い聞かせるように内心で呟きながらエーファはその身を魔力で覆っていく。感じるのは充足感それと高揚感。


 逆手に持った短剣にも魔力を流して、エーファは地を蹴った。殺さなければこちらが殺される。それは出来ない、旦那様の為にも。だから殺そう。


「やああああ――!」


 気合いを込めて、エーファは短剣を重ねて突っ込んできたロックリザードの額へと突き立てる。

 魔力が循環する。それに比例して高められた身体能力によってエーファは岩の体表を打ち砕きその肉へと刃を突き立てた。 


 暴れるロックリザード。魔物はまだ死なない。だから、エーファは更に押し込む、短剣を。ぐちゅりと、嫌な感覚が伝わってくる。

 それが生き物を殺す感覚。顔をしかめながらもただ突きたてる。そして、ロックリザードは動かなくなった。


 エーファは自らを抱きしめてその場にへたり込んだ。その瞬間、エーファの眼には噴き出す魔力が見えていた。


 それはエーファへと染み込んでいく。まず感じたのは身体が軽くなったかのような感覚。ある種の爽快感。全能感とも言いかえていいかもしれない。

 魔物を殺す前は一度たりとも感じたことのないような感覚。どこか満ち足りた感覚だ。自らが作り変えられていくかのような。


「はあ、はあ、はあ。こ、これは」

「大丈夫か? 良くやった。これが生き物を殺すってことだ。忘れるな。その感覚を。その思いを。生きるために俺たちは殺す。だが、殺すことに慣れるなよ。常に恐れを抱いておけ。あとは、お前の場合は戦う時は仲間の為ということを忘れるな」


 忘れなければ畜生に堕ちることはない。


「は、はいで、ございます」

「良し、じゃあ、リアン行ってみようか」

「はい!」

「お前の相手はこいつだ」

『SYAAAAAAAA――――!!』


 ロックマンティス。それはリアンにとっての雪辱の相手だった。


「行けるな?」

「はい!」


 剣を構えて、気合十分にリアンは返事をした。緊張はない。サイラスにロックマンティスの群れの前まで連れて行ってもらった。

 恐怖は既にそこに置いてきたのだ。何より、


「これくらいで怖がってたら、英雄になんてなれない」


 そう言い聞かせるように呟いてリアンは地を蹴った。


「オオオォォオオォオオォ――!!」


 ロックマンティスもまた同じようにリアンへとその鎌を振るう。

 剣を縦に、リアンはその一撃を受ける。受ける瞬間に全身に魔力を行き渡らせて身体強化し一撃を弾き返した。


 しかし、もう片方の鎌がリアンを襲う。


「――フッ!」


 短く息を吐いて、リアンは強化身体能力によって剣を引き戻す。逆手持ちになりながら鎌を受け止める。


「オオオォォオ!!」


 気合いと共に、リアンは鎌に剣を滑らせて踏み込む。硬質な音と共にリアンはロックマンティスの懐へと飛び込んだ。


「ヤァ――!」


 一閃。掬い上げるように鎌を滑っていた剣は関節に辿り着くと同時に振り上げによって鎌を切断する。


『SYAAAAA――――!?』


 悲鳴を上げるロックマンティス。だが、腐っても魔物だ。それくらいで戦闘不能にはなりはしない。残りの鎌を振り上げ、リアンを真っ二つに斬り裂かんと振り下ろしてくる。

 リアンはそれを剣はまっすぐ姿勢もまっすぐに、足は左を前にして肩幅に開き膝をリラックスさせた構えで受ける。


 ロックマンティスの鎌が切り下ろすのに対してリアンは切り上げでのカウンター。手首を捻り鎌を捩じり絡め取るように弾き、柄頭に左手をそえて押し上げるように首と頭の隙間を突く。

 剣を包むように流し込まれた魔力によって強化された剣の突きはするりと入って、捻る。脳をかき回され剣を引き抜くとともにロックマンティスは倒れた。


 剣を抜いて血振りをして粗方の血を飛ばして、布で血を拭っているとエーファと同じように魔力が流れこむ。

 やがり、感じるのは身体が軽くなったかのような感覚。それはやはりある種の爽快感とともにやってくる。全能感とも言いかえていい。


 魔物を殺す前は一度たりとも感じたことのないような感覚だ。どこか満ち足りた感覚であり、ある意味で待ち望んでいた感覚でもあった。

 それは自らが作り変えられていくかのような感覚だ。


「お、おお!」

「よし。二人とも倒せたな。じゃあ、今度は二人で戦ってみようか」


 一人ずつが終わったので今度は二人一緒。アルフはそう言った。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「そっち、行きましたでございますよ!」


 エーファがクロスボウの太矢(ボルト)を放つと同時に目の前を走っていた岩を纏ったイノシシの魔物ロックボアはそれを避けるように進路を変えた。その太矢が自身の体表を貫くであろうことがわかったからだ。

 しかし、それこそがエーファの狙いであった。


「わかってる!」


 待ち構えていたリアンが木上から飛び降りると同時に剣を振り下ろす。魔力を剣に纏わせ、その形を刃として振るう。

 ここ数日の武技の特訓のおかげで、きちんと形成された魔力の刃は岩の体表を斬りさきロックボアの肉を引き裂いた。


 肉が引き裂かれた痛みでロックボアの動きが止まる。その隙にリアンは剣を突き入れ、エーファもまた小剣を突き刺す。

 ロックボアはしばらく暴れていたが、次第にそれも弱弱しくなり終いには動かなくなった。完全に動かなくなったところで二人は剣を抜いて血振りをして粗方の血を飛ばして、布で血を拭ってからリアンとエーファは腰に吊る。


「いやー、倒せたね」

「そうでございますね。大分強くなったような感じでございます」


 二人で森の魔物を十体倒せと言われた当初よりもリアンとエーファの二人は、自分たちが強くなったと感じていた。

 九体の魔物を倒してきたが、魔力を吸収するたびに強くなっているのは若さゆえだろうか。アルフは彼らを見守りながら思う。


「おいおい、強くなったからって解体を忘れんなよ」

「あ、そうでございました」


 忘れていたとばかりにエーファがロックボアの解体を始める。岩の体表をリアンが引き剥がして、腹を切って内臓を取り出しそれは埋めてしまう。血を抜いて肉を小分けにして袋に詰めて、アルフが持ってきていたベル特製のポーチの中へ。


「これいくらになるのかな~?」

「さて、どれくらいだろうな」


 魔物の素材や食材は結構高値で売れるが、商人の街アミュレントではそうとも言えない。各地から集まってくるものは何も各地の名産品だけではないのだ。

 魔物の素材や食材だって集まってくる。無論、加工されている為新鮮な魔物の素材や食材とくればそれなりに売れるだろうが他の街のようにはいかない。


「そうなんですか……」


 苦労して倒した魔物があまり稼ぎにならないと聞かされればテンションも下がろう。


「まあ、そう落ち込むな。お前らはこれからなんだ。だから、ゆっくり――っ!?」


 アルフが言葉を全て言う前に、リアンとエーファを突き飛ばし背後へと跳んだ。その瞬間――


『SYAAAAA――!!』


 巨大な岩の蛇がリアンとエーファがいた空間を喰らい千切って行く。


「チッ、ロックスネークか」


 剣を肩に掛けながらアルフが呟く。やれやれ、面倒な相手が出てきたと。

 ロックスネークが睨み付け、睨まれたリアンとエーファは身動きが取れなくなる。そんな二人の前にアルフが立ちふさがる。


 じっと睨みつけるアルフにロックスネークも動きを止めて観察するようにアルフを睨みつけた。


「さて、お前らやれるか? 別にこいつは俺が倒してもいい。少しばかりお前らにはきつい相手だ。だが――」


 お前たち二人で倒すというのなら、俺は手出しをしない。


「どうする?」


 アルフがそう問う。


「残り一体ですよね、ノルマは」

「ああ、そうだな」

「僕は、やります!」


 こんなところで逃げたら英雄になれないから。


「はあ、やれやれでございます」


 エーファは出来るならば逃げたかったが、リアンが聞きそうにないのにやれやれと溜め息をつきながらもクロスボウを抜いた。

 アルフはそんな二人を見て笑みをつくる。


「よし、ならやれ。危なくなったら助けてやるから安心してやれよ」

「「はい!」」


 アルフはとんっと跳躍し木の上で弓を構える。

 その途端、獲物二匹を視界におさめたロックスネークが二人へと突撃を開始した。


 大口をあけて二人へと突っ込むロックスネーク。二人は弾かれたように散開する。一瞬前まで2人が居た場所を咢が通り過ぎてゆく。

 感じるのは風の動き。それは濃密な死の気配。圧倒的な威圧に立ち止まりそうになる己を叱咤しながら二人はロックスネークへと立ち向かう。


 突っ込むのはリアンだ。その潤沢な魔力の全てを身体強化に回して、突っ込んできたロックスネークへとすれ違いざまに斬りつける。


「浅い――っ!」


 通り過ぎたリアンにロックスネークの尾が振るわれる。


「やらせないでございますよ!」


 それを魔力で強化したエーファの太矢が逸らす。リアンの真横に落ちた尾に剣を振り下ろす。


「堅いっ!」


 しかし、刃が通らない。魔力で強化してなお、力が足りないのだと自覚させられる。


「リアン様!」

「うわあっ!」


 考え事をしている暇などない。振るわれた尾を咄嗟に躱し、距離を取る。


「集中しないと」


 集中。ただ目の前の敵だけを目に留める。剣を正面に構えてロックスネークへと疾駆。


「ハァッ!!」


 裂帛(れっぱく)の気合いと共に上段から振り下ろし、即座に左から右へと剣を振るう。硬質な音が響き渡る。

 魔力で強化した肉体と剣によって斬りつけても岩は砕けない。少しの傷しかついていない。エーファの太矢も同じだ。


(どうする)


 ロックスネークの突撃を躱しながらリアンは考えていた。どうすれば勝てるのかを。このままでは、じり貧で勝てない。

 何か手はないかを考える。斬りつけ、避けて相手の眼を見る。


「あ、そうか! エーファ!」

「なんでございますか!!」

「僕が奴を引きつけている間に奴の頭に登れる?!」

「できますが――っは! わかりましたでございます!」


 目は岩の体表で覆われていない。そこに剣を突き立てれば倒せるかもしれない。リアンが何を言いたいか気が付いたエーファは即座に反転し森の茂みの裏へと飛び込み気配を消した。


「行くぞ!」


 それを確認し、リアンは魔力を放出する。魔物は魔力に引きつけられるのだ。ロックスネークは否応なくリアン方を向く。

 その瞬間、その背後からエーファが飛び出す。姿勢を低く、気配を殺し、小剣を片手に蛇の巨体の上を走り抜ける。


 ロック系列の魔物は体表に触れられても感じない。だからこそ気配を消したエーファはその頭部まで上がり、その眼へと小剣を突き刺した。


『GRAAAAAAAAA――――!!???』


 悲鳴を上げて暴れるロックスネーク。エーファは即座に飛び降りたが、まだ死んでいない。そのまま狂乱の中でロックスネークは大口を開けてリアンへと突っ込んでいく。

 リアンもまた、剣を顔の横で水平に構えて突っ込む。


「オオオオオオォォオオオオォオ!!」


 放たれるのは渾身の突き。大口を開けたロックスネークの口内へとその剣を突き立てた。体表と違い容易く肉を斬り裂く。

 その一撃を放ったまま、ロックスネークは動かない。数瞬のあと轟音を響かせたロックスネークは倒れた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 サイラスのチームリーダーであるサラはギルドでベルを待っていた。これから半月以上も何度も現れるバジリスクの調査を行うのだ。

 何度も調査しているが、結果は芳しくない。一応、ベルのおかげで誰かが気が付く前に討伐が出来ている為に問題にはなっていないがこれ以上続くのも問題なのだ。


 ちなみに遅いことに文句を言うと、お前が行けと言われるため誰も言わない。バジリスクが出て来るのに調査など引き受ける者などいないわけだ。


 だが、今回は調査にサラが同行する。それは戻ってきたアルフがサラに頼んだからである。ベルは強いが昼間起きていることが苦手だ。

 ベルは昼間はほとんど眠っているため、昼間は極端に思考能力が下がるのだ。そのおかげで調査が遅々として進んでいない。そのためアルフが調査を進めるために頼みサラが行くことになったのである。


 そういうわけでサラがとんとん、とギルド会館の席の一つに腕を組んで指を弾いていると、微かな魔力と小さな鈴のような音と共にベルが現れる。


「ふぁ、待たせたかな、サイラスのリーダー」


 あくびをしながらベルはサラの前に座った。


「いいや、今来たところだ。それよりも眠そうだな。問題はないか七炎?」

「む、眠いから問題は大ありだが、あのバジリスク程度ならば問題はない」


 問題大ありでバジリスクという国を滅ぼせるレベルの魔物が倒せるとは流石はSランクと感心すればいいのか呆れればいいのか。


「あの? とはどういうことだ」

「ふぁ~ぁ、うん? ああ、あのバジリスクな、弱いのだ。あれでは良くて州級。いや、地方級くらいか? 王国級とはいえんよ」

「それはお前が強いから、というわけではなさそうだな」


 魔法使いは特に魔力に敏感だ。魔物の強さは魔物自身が持つ魔力の量に比例するという統計結果がある。つまり、魔力が多ければ多いほど強い。それは人間とあまり変わらない理屈だ。

 ベルほどの魔法使いになるとそれを肌で感じることが出来る。つまり、彼女が王国級の魔物ではないと言うのならば本当なのだ。


「信用しよう。お前の腕は知っている。しかし、どういうことだ」

「ふぁ、そうだな。ぁふ、いくつか、ふぁ、そういくつか仮説はあるぞ?」

「……言ってみろ」

「うん、単純に若いからという理由。若い個体はいかにバジリスクと言えど弱いからな。

 だが、これはないはず。ふあ、むはふぅ。こっちが本命だが、誰かが作っているとかな」

「繁殖ということか?」

「いいや、そうではないよサイラスのリーダー。どちらかというと迷宮と同じ理屈さ」


 迷宮で魔物が生まれるのと同じ理屈。つまり、あの場で作っているという仮説。まばらなのは魔力が関係しているという。


「それこそ現実味がないな」


 そんなことが出来る魔法使いがいるならば噂になるか、早々に国に組み込まれているだろう。


「そうか? 若い個体がそれこそ十体以上も出るよりは幾分かは現実的だぞ。古い魔法使いならそれくらいできる。この私が言うのだ、間違いなふぁふ」


 あくびをしながら言われてもまったくそうは思わないが、彼女が言うのならばそうなのだろう。彼女ほど魔法に精通した人物はいない。

 彼女を越える知識を持ち得ているのはおそらく宮廷魔法使いの筆頭くらいだ。それくらいに彼女の魔法に関する知識だけは他の追随を許さない。


「なるほど、だがそうなると問題だな」

「なにがだサイラスのリーダー?」

「自然発生でないのなら人為的な現象という事だろうが」

「ふむ、面倒になったわけか」


 ベルはそう言うが、逆に楽になったとサラは思う。自然発生ならばその大元がどうにかできないこともあるのだ。下手をすれば地形を変える必要までで来るだろう。

 もしくは地面を流れる世界の血管である地脈と呼ばれる魔力の流れを変える必要すらあっただろう。だが、人為的な現象であるならば簡単だ。その原因となっている人物をぶちのめせばいい。


 実に彼女好みだった。うだうだと考えるのは性に合わない。そもそもこうやって調査などに繰り出すこと自体彼女としてはまれだ。

 それもこれもアルフに頼まれたからだ。一度、岩の森から戻ってきたアルフと酒を飲んで記憶を飛ばしている間に約束したというのならばそれは果たさなければならない。


 あの醜態を広めるとか脅されたら従う以外ないだろう。言いたくはないがサラは酒癖が良いとは言えないのだ。

 それを広められたくはない。一応は女なのだ。


「ならば、現場に言ってその痕跡でも探すとしよう」

「ふぁ、そうだな。じゃあ――」


 寝ると続けようとして、


「お前も来い。行くぞ」


 サラに先手を刺される。


「むぅ、しかし――」


 それでもごねようとして、


「アルフ」


 最も効果的な言葉を言われてしまった。


「わかった。直ぐ行こう。今すぐ行こう。私がんばる」

「では、行くとしようか」

「飛ぶか」


 ベルが魔導書を開く。魔力を流し込むと同時に魔導書の開いたページから呪文が浮かび上がり次の瞬間には、二人の姿はギルドから掻き消えた。

 次に二人が現れたのはアミュレントから数日の距離にある岩の森の隣ともいえる砂塵の荒野だった。


 何もない。本当に何もない荒野だ。この辺りは魔物の生息域ではあるが、それだけだ。冒険者もあまり来ない場所である。

 バジリスクが出現するほど魔力が溜まっているということもない。枯渇しており、砂漠と化している。確かにバジリスクの伝承通りではあった。


「ふむ、ついた」

「バジリスクは――っ!」


 サラが構える。岩陰からバジリスクが姿を現した。頭部に冠状のトサカが隆起している巨大な蛇。身を起こしてずりずりと音を立てながらサラたちに向かってくる。


「ほら、見ろ、弱弱しいだろ?」

「……確かに」


 しかし、二人は逃げもしない。直視すれば死ぬという魔眼もベルには通じないため問題なく、サラも遺跡から発掘された魔法具をかけているため問題にはならない。

 それでもバジリスクにはその強靭な身体や牙、毒が残っているはずだが二人はそんなもの歯牙にもかけていなかった。


「確かに薄いな」

「だろう? サイラスのリーダーでも倒せるはずさ」

「良いだろう」


 ドンッ、と片手に持っていた鈍器を地面へと叩き付ける。鉄塊に取っ手をつけただけの鈍器。指を鳴らして彼女は疾走する。

 一歩。二歩。一歩目よりも速く。姿勢を低く彼女はバジリスクへと疾走する。


「試してみるさ」


 サラへとバジリスクが突っ込む。刹那、両者は激突した。凄まじいまでの衝撃で周囲の地面が爆ぜたかのように吹き飛ぶ。

 ごずん、とベルの横に鈍器が落ちてきた。


「なるほど」


 砂煙を突き破りサラが現れる。ぎちぎちと音が鳴るほどに握りしめられた拳がバジリスクの頭部へと叩き付けられバジリスクが跳ね上がった。

 すかさず腹を払うかのように蹴りぬく。強烈な蹴りによってバランスを崩されたバジリスクが倒れる。そこに更にサラの蹴りが炸裂した。


 吹き飛ぶバジリスク。岩へとぶつかり岩を爆ぜさせる。だが、腐ってもバジリスクと言うべきなのか。未だに生きていた。

 バジリスクは猛スピードで地面に潜ると息を潜めた。


 現れるのは当然、サラの直下。地面を崩しながら大口を開けてサラを飲み込まんとする。

 だが、サラは冷静に跳躍し飲みこまんとする大蛇の咢を蹴っ飛ばす。轟音を響かせて倒れるバジリスク。起き上がった未だ衰えぬ戦意でまだバジリスクは向かってくる。


 真っ直ぐに体勢を低くバジリスクが向かってくる。轟音を響かせて、大地を削りながら。国喰らう蛇の超巨体がサラへと向かってくる。

 サラは息を吐き、構える。さながら弓を引き絞るかのように拳を引く。そして、踏み込む。同時に出した右の拳、それにバジリスクの頭部が触れた瞬間バジリスクの頭部が爆ぜた。


 魔力を浸透させそれを内部から爆ぜさせたのだ。これも武技に当たる。魔力抵抗の大きい生体の強力な魔物には通じないがこの(・・)バジリスクには通じるようだった。

 だが、頭部の爆ぜたバジリスクはまだ動いていた。肉がぼこりぼこりと内部から湧き上がるようにして失った頭部を形成しようとしている。


 サラはその光景を見て目を細め、鈍器を取りに戻りバジリスクの前に戻った。ほとんど形成された頭部。動き出す前にサラは鈍器を振り下ろす。

 出来立ての柔らかい鱗を砕き、肉をすりつぶし、骨を砕いて再び頭部を叩き潰した。返り血を避けるように一度離れると再び鈍器を叩き付ける。


 何度も、何度も、何度も。鈍器を叩き付け、蹴り飛ばしバジリスクの肉を抉る。それはバジリスクが絶命するまで続けられた。


「弱いな」


 終わった末、彼女が言った一言がこれだった。普通のバジリスクならば州級冒険者が倒そうとすると凄腕の州級冒険者四人チームが二つはいる。

 それをサラ一人でどうにかできてしまった時点でこのバジリスクは弱いという事になる。また、それだけでなく、


「消えたか」


 死体が消えた。粒子となって。まるでこれでは迷宮の中の魔物のようではないか。

 迷宮の中の魔物は倒せば粒子となって消える。学者曰く、迷宮の魔物は迷宮が作り出した紛い物の魔物であり魔力生命であるらしい。


 だが、ここは迷宮ではない。もちろん近くに迷宮の気配はない。つまり完全なイレギュラーということだった。


「な? 弱かったろう? サイラスのリーダー」

「確かにな。だが、そうなると死体を調べように調べられんのが痛いが、作られた魔法生物であることにかわりはないようだ。魔力探査はどうだ?」

「ふぁ、ん? じゃあやる」


 欠伸をしながら彼女は魔法の詠唱を始めた。


ArD(アルド) eclept(エクレプト) xt(エクスト) ixzwonl(イクスザウォニル) oxduge(オクドゥジ) xt(エクスト) qziqs(クジックス) svnant(スヴナント) aft(アフト)_xedre(クエドア) rospt(ロスプト) aft(アフト)_nls(ニルス) svegvld(スヴェジヴァルド) xt(エクスト) izn(イズン)_rqa(ラクア) ramSlX(ラムスレクス)


 開始音から始まり、属性を指定、魔法の現象を指定、効果範囲を指定、魔法の形状を指定、魔法の規模を指定、最後に終了音を紡ぐ。

 属性と効果範囲、魔法の規模それぞれに強化音が組み込み、通常よりも強力な魔法を彼女は構築していく。


 それは以前も使用したこの場の時間を追跡し、その場所で起きた出来事を術者に教えてくれる魔法を発動する。

 励起された魔力が発声された魔法言語を彼女の周りへと浮かび上がらせ、真上へと向けた杖先へと複雑な紋様として幾重にも円状に規則正しく配列された呪文(スペル)となる。


「時間の中を迷い人を追え――時間追跡(タイムチェイス)――」


 時間を遡り、ベルの魔法がこの場所で起きたことを彼女に教えてくれる――はずだった。


「――ぐっあ!?」


 突如、雷にでも撃たれたかのようにベルが仰け反る。


「ベル!」

「だ、大丈夫だ。目が覚めた」

「何があった」

「視えなかった。何かに妨害された。おそらくはこの事態の元凶だろう」

「なるほど。まずます人為的というわけだな」

「そうなる」


 調査は進んだが、謎は多い。

 そして、これ以降、バジリスクの出現は止まる。それはまるで嵐の前の静けさのようであった。


どうもです。

活動報告でも言いましたが、第二章が終わるくらいには、プロローグに当たる始まりと第一章について大幅加筆修正と言う名の大改稿をしちゃおうかなと思います。


具体的には第二章から実はプロットの作り方を変えてまして、それに則した形で再構成+の加筆をしていこうかなと思っています。

始まりの部分と第一章の部分は現在合わせて14話ですが、これを一章単独で十話まで上げようかなと思って現在改稿用の話をちびちびと作成中。

まあ、第二章が終わるくらいにはプロローグくらいは差し替えられるかなと思ってます。


別に大筋は変わりませんが、そこに至るための流れが多少変わったりしますので、出来れば読んでもらいたいかなと思います。

差し替えになるので、その都度活動報告などでお知らせする形になると思われます。

まあ、いつ出せるかはリアル次第。切羽詰ってるのでどれくらいかかるかちょっと不明です。


あと加筆修正に伴う変更点。

冒険者ランクの表記がアルファベット表記から変更になります。

変更前→ 変更後

 S → 王国級

 A → 州級

 B → 地方級

 C → 街級

 D → 村級 

 E → 集団級


何かしら意見などありましたら気軽にどうぞ。

皆さまの意見はできるだけ反映してより良い作品にしていこうと思います。ただし、ただの要望や願望、中傷などはご遠慮ください。

では、また次回。

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