三
「私も妖怪だったら一緒にいれたのかな?」
伊織は遠くを見つめ、ポツリと呟いた。
「私と一緒にいるなんて、大切な人生を棒に振るのと同じよ」
大きな目から大粒の涙を流した。そして、声を出さずに静かに泣いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。泣くつもりは無かったの。…私はあなたと一緒になれません。もう私のことは忘れて下さい」
浴衣姿で伊織は駆けた。こちらを振り向くことなく、丘を下った。
「夜神さん、どうしました?」
化け猫が不思議そうに顔を覗き込む。
そういえば、ここは何処だ?
「聖さんが縁側に案内してくれました。妖怪ならここからでも人里全体が見えるかもって。忘れたんですか?」
「ちょっと考え事してたもんで」
化け猫は笑いながら何か言ったが、忘れた。
伊織…。あれからどのくらい経つのか分からない。江戸時代初期あたりに俺は生まれ、伊織に会ったのは幕末。それから、昔から変わらぬ容姿を俺は保っている。妖怪特有だが。
「夜神さん、化け猫さん、お茶です」
盆に湯呑みと急須、お茶菓子を載せ、カラクリ人形のように聖が縁側に来た。
伊織のことを考えていたからなのか、不覚にも聖を伊織と間違えた。




