ヴァンパイア・ナイツ7
アパートに戻ると、エリカさんがアパートの廊下で月を眺めていた。
「こんばんは、エリカさん」
僕が声をかけるとエリカさんはこっちを見て手招きした。
「月光浴ですか?」
「そんなところ。それで今日の首尾はどうだった?」
「昨日の女の子に会いに行って血を貰う約束をしてきましたよ。それから一人血をくれてもいいって人をみつけて」
疲れたけど、充実した気分。
「頑張ったね」
エリカさんの方はいつもより元気が無いみたいだった。そのまま放って置きたくなかったので僕は少しエリカさんと話をしていこうと思った。そう言えば前から聞こうと思っていた質問があったんだ。
「エリカさんはどうして街にでて来たんですか」
「村が無くなってしまって、祈が街に出てくるっていうから付いてきたんだよ。祈とは同じ村の出身でね。・・・まあ、好奇心もあったしね」
村が無くなってしまったという話はたまに聞く。人口が減少し、村が維持できなくなってしまうのだ。残ったヴァンパイアは交流のある村に引っ越す。でも住み慣れた、思い出の残る村を離れるの辛いだろう。僕の村は当分大丈夫そうだけれども。えーと、それから。
「祈?・・・会長の名前は祈って言うんですか」
「私も口が滑ったね。祈は自分の名前が嫌いなんだ。それもあって会長って呼んでいるんだけどね。会長の名前の事は忘れてくれるかい?」
「ええ、わかりました。今まで通り会長って呼びますよ」
「ありがとう。いい子だね」
エリカさんは少し憂鬱そうな笑みを浮かべた。
「そうそう、血をくれるって言った女の子達の事はよく気をつけてあげな。血を吸った後体調が悪くなっても私達に言わない子が殆どだ。様子を見てまずいと思ったら記憶を消してもう行かないようにするんだよ」
僕は頷いた。
「そう、それからナイーヴな子が多くってね。きっと性格的にそういう子が私たちに血をくれるって返事をするんだろうね。時々騙されている子がいるんだ。最近あったのは、携帯詐欺にあっている子だよ。携帯詐欺の件は知っているかい?」
僕は最近見たテレビ番組を思い出した。
「あの、携帯の返信を受け取る度に料金をとられるっていう・・・」
「そう、それだよ。もしあんまり携帯のメールを気にするようだったらちょっと聞いてみた方がいいかもしれない。まあ、友達のメールを常に気にしている子もいるし、最近は各種サービスに夢中な子もいるしで、なんとも言えないけどね」
「気をつけます」
「幸成ならうまくやるれるよ。大丈夫」
エリカさんは話していて少し調子が戻ってきたらしい。いささか無責任な調子で受け合った。
「はあ・・・」
「シゲだってうまくやっているんだし。そうそう、シゲが何で幸成が田舎から出てくるのにあんなに反対したかって言うとね・・・。幸成、知りたいかい?」
エリカさんは人の悪い笑みを浮かべた。
「え、何ですか」
僕は思わず聞き返した。
「それが、えーと・・・。シゲも悪運が強いね」
エリカさんは僕の後ろに向かって手を振った。僕が振り返ると、兄さんがこちらに歩いてくる所だった。
「エリカ、月光浴か」
「あんたら、兄弟だね。幸成にも同じことを言われたよ」
「月光浴は肌にいい。それに魔力を高めてくれる」
兄さんは重々しくそう言った。
「まあ、そう言うね」
エリカさんは曖昧な感じでそう言った。
「そうとも。・・・それから幸成が月光浴の邪魔をしてすまなかった」
え、僕?
「幸成は邪魔なんかしていないよ。私が引き留めて一方的に喋っていてね。ちょっと気がくさくさしていたんだけれど、お陰で気が晴れたよ」
「そうか」
シゲ兄さんはちょっとぐずぐすしていたけれども、部屋の方に歩いて行った。
兄さんが部屋に入るのを見届けてから僕はエリカさんに訊ねてみた。
「それで、さっきの話ですけど」
「ああ、それでね」
残念な事にエリカさんはそこで言葉を切ってしまった。僕の後ろに向かって手を振る。
「会長、早かったね」
「そうかな?」
会長はエリカさんにそう答えて、僕の方に注意を向けた。
「どうだった?」
僕は梢ちゃんと血を貰う約束をしてきた事、もう一人血をくれる人をみつけた事を話した。
「そうか。頑張ったね、幸成君」
会長はそう言ってくれた。よかった。これでゆっくり休める。
「じゃ、君の部屋で反省会をしようか」
僕がちょっと呆気にとられている間に、会長はそのまま僕と兄の部屋に入って行った。
「私も参加してあげるから」
エリカさんが慰めるように言ってくれたけれども、疲れていて前向きな反応ができなかった。みんな、タフだよね。