ヴァンパイア・ナイツ6
ごはんを食べて、何となくテレビを見て、シャワーを浴びた。自分の部屋で本でも読もうと思ったけれど、何となく窓が気になる。寒いけど、窓を少し開けて空気を入れ換えようかな。
窓を開けてから、本棚から本を出して振り向いた。
・・・私は一瞬自分の目が信じられなかった。誰かが部屋にいる。後ろを向いているけど、泥棒?大きな声なんて怖くてだせない。私がそっとドアの方に後ずさりしていると、その人が振り向いた。
「いい部屋だね」
私は気が抜けてハンドバックを抱えて座り込んでしまった。
「ヴァンパイアの人・・・」
「・・・やっぱり魔力のコントロールが効きすぎていると思うんだけれどなぁ」
彼はそう言うと床の上に座って私と視線を合わせた。
「僕は黒谷幸成って言うんだ。君の名前を教えてくれる?」
「桐原梢」
「桐原梢さんか。梢ちゃんって呼んでいい?」
名字以外で呼ばれた事はあんまり無いけど、なんかもう別にいいや。私は頷いた。
「僕達ヴァンパイアは、血を飲まないと生きていけないんだ。基本的に哺乳類の血なら飲めるんだけれど、ある程度の量の血を飲まなければならないから小動物の血は飲まない。割にあわないんだ」
「じゃあ、大型犬の血とか飲むの?」
「ヴァンパイアは動物に嫌われるんだ。一回血を飲むと動物はそれを覚えていて、次に近づくと嫌がって暴れる。飼われている動物からは飲まないよ。繋がれていて僕達から逃げられないとストレスでまいってしまうんだ」
「そうなんだ」
「僕は実家では、主に熊とか鹿の血を飲んでいた。すごい田舎なんだ。でも街だと人間から血をもらうしかない」
私は頷いた。
「月に1回、体に負担がかからない程度に数人から血を貰う。勿論、嫌だって言われなければの話だけれど」
彼はそこで一旦言葉を切った。
「僕に血をくれる?」
真剣に尋ねられて、私はちょっと戸惑った。
「血をあげると、私もヴァンパイアになるの?」
「それはない」
「じゃあ、いいよ。私献血しても全然平気な方だし」
彼はホッとしたようだった。にっこり笑う。
「正直、助かるよ。有り難う」
「どういたしまして。他に何か?」
「血を貰った後30分くらいお喋りをしていたい。体調が悪くならないかどうかを見たいしね。でも、30分以上は残れない。情が移ると困るって言われていて時間制限があるんだ」
「私、話すの苦手で」
冗談抜きで苦手。無理に愛想良くしようとしていると、涙目になってくるくらい。
「大丈夫。僕が話すから聞いていてくれれば」
黒谷さんは軽く受け合った。正直、羨ましい。
「迷惑はかけないって約束するよ」
黒谷さんは立ち上がると、窓の方に歩いていった。窓を背に私の方を振り返る。
「僕や僕の同族がいない間は、僕との記憶にブロックがかかる。記憶が無くなる訳ではないけど、その記憶にうまくアクセスできなくなるんだ。もし不安感が強いようだったら次に会う時に言ってくれれば、少し強く暗示をかけるから」
そう言って黒谷さんは窓から姿を消した。ドタッとか、ドッシーンとかそういう種類の音は聞こえなかったから、きっと上手に庭に降りたんだと思う。