ヴァンパイア・ナイツ5
帰りが遅くなって急いで歩いていて、誰かの前を通り過ぎてちょっと気になって振り向いた。あれ、今の男の人知り合いだっけ?
「ごめん、僕から声をかけなければいけなかったんだけれど」
きまり悪そうにしている。その人の顔を見て、思い出した。
「あ、昨日の、ヴァンパイアの人?」
言ってしまって少し混乱する。私、今、変な事言ったよね。
その人は周りを気にしている。ちょっとおどおどしているみたいだ。急にヴァンパイアなんて言われたら、びっくりするよね。ごめんなさい。
・・・・・・あれ、でもこの人ヴァンパイアだよね?
「ごめん、ちょっと歩きながら話を」
私は頷いてその人と一緒に歩き始めた。この人、目立つ。背が高いし、格好いい。もっと堂々としていればいいのに。
「昨日は有り難う。助かったよ」
こちらを見ながら言う。そうだよね、私この人に血をあげた。
私は手首を見てみた。傷跡は無い、と思ったら凄く薄く跡がついていた。
「傷は残らないから」
申し訳なさそうにその人は言った。
「僕も慣れていなくって慌てて説明が全然できていなくって」
「説明って?」
「えーと、そうだね。例えば、その、血を吸った手首や首には傷が残らない、とか」
「それから?」
「そうだね、えーと、できれば月に1回血を吸わせて欲しいとか」
「月に1回?」
「・・・その、できれば」
「ヴァンパイアって月に1回くらい血を吸うくらいで生きていけるの?」
「その、何人かから貰うんだ。一人から沢山貰うと体に負担だから」
「ふーん」
歩いているうちに、家の前に着いた。
「できれば、家にあげて欲しいんだけれど。まだ話があるんだ」
その人はこっちを見て真剣に言った。まともに目があってしまって、一瞬視線を逸らす事ができない。
「・・・いいけど、家族がいるよ」
何となく断り辛くってそう言った。
「自分の部屋はある?」
私は頷いた。
「じゃあ、部屋で一人になったら窓を開けてくれる?」
「わかった」
私が家に入ろうとしたら、慌てて引き留められた。
「あ、ごめん。忘れる所だった」
「?」
彼は私の顔をのぞき込んだ。
「ご飯を食べて一休みして落ち着いた気分になってから、自分の部屋に戻る。それから、窓を開ける」
「・・・・・・はい」
「こうしないと、全部忘れてしまうからね」
彼に軽く背中を押されて私は玄関に入った。




