ヴァンパイア・ナイツ18
勉強に集中できなくってボーっとしていた。被害妄想気味に考えれば保育園から、公平に考えても小学校高学年から『勉強しなさい』って言われてきた。勉強して高校に入って言われる事は『女の子は高校で成績が大きく落ちる。怠けるからだ。一生懸命勉強しなさい』。成績のいい大人しい女の子が集まる公立高校に赴任した先生は生徒に勉強を教えようとはしない。質問だって無視するか、まともに答えない。何もしないでいいっていう暗黙の了解が先生の間であるからだ。『今まで他の高校で大変だったよね。この高校にいる間くらいはサボっていいよね』
生徒の事は誰も考えない。親だって授業料を払っていれば十二分に子供の事を考えているっていう事になっている。食べさせて、着させて、家に住まわせて、その上高校にまで通わせている・・・・・・。何が不満かって。
成績が落ちる原因はバーンアウト。要するに疲れきってしまっているのだ。もっとも高校の先生や塾の先生はこんな事は言わない。『バーンアウト』なんて言えば、悪くすれば親からクレームがくる。それくらいなら生徒が自分を責めるように話を持っていけば問題はおきない。それが原因で仮に鬱になっても高校在学中に自殺までいく子は滅多にいない。卒業後は自分達の知った事ではない。生徒を責めても問題は解決しないから成績は下がってしまうけれども、まあ、成績がひどく下がっても元からの底上げ分があるから受かる大学はいくらでもある・・・。先生達曰く、あなた達、頭がいいんでしょ?何が不満なの?
こんな事を考えていたら、視界が曇ってきた。自分に腹を立てながらティッシュペーパーを探していたら、誰かがティッシュペーパーの箱を差し出してくれた。足音も何も聞こえなかったけれども、お母さんかと思ってとりあえずティッシュペーパーをもらって用事を済ませた。
「ありがとう。何か急に目が痒くなって、私もしかしたら花粉症になったのかも」
「それはいけないね」
全然違う人の声がして私は危うく飛び上がる所だった。顔を上げて、ティッシュペーパーの箱を持っている人の顔を確認する。・・・そして、生まれて初めて大きな悲鳴を上げてしまった。この人、お母さんじゃない。
私の悲鳴を聞くと、その人は瞬きする間にどこかに消えてしまった。しばらくして階段をあがってくる音がして、お母さんが部屋に入ってきた。
「梢、一体どうしたの?」
部屋に知らない男の人がいたとはいい辛かった。信じてもらえないか、窓を開けていた私が悪いと言われるか。
「えーと、例のあの虫が急にとびだしてきて・・・」
「あら、いやだ。どこに行ったの?」
お母さんは部屋の中を見回した。
「窓から飛び出していったから大丈夫」
「あら、そうなの?すごい悲鳴だったから虫もびっくりして逃げていったのね」
「そうかも」
「梢にあんな声が出せるとは知らなかったわ。あまりびっくりさせないで」
お母さんは私の顔を見ると、顔色が良くないわ、と言った。
「下に降りてきてお茶でも飲んだら?」
そうした方がいいかな。窓を閉めておかないと。私は窓に近づいた。
・・・あれ。手が震えてしまっている。私、本当に怖かったんだ。
「お母さん、悪いけれど窓を閉めてくれない?」
「やあね、梢。それくらい自分で閉めなさい」
「お願いだから」
お母さんは首を横に振って部屋を出ていった。私は仕方なく急いで窓を閉めようとした。