ヴァンパイア・ナイツ17
梢ちゃんに会いに行くにあたって色々と注意された。
「梢ちゃんがその『第2のヴァンパイア』の事を言わないのは梢ちゃん側の事情ではなくて、魔力による暗示を受けての事かもしれない」
こう言ったのは会長。
「なんでそんな暗示をかけなければならない」と、兄さんが口をはさんだ。
「可能性の話だよ。理由についてはさっぱりだ」
話の腰をおらないでくれ、と兄さんに言って会長は話を続けた。
「その場合、梢ちゃんが避ける話題がある筈だ。それに注意して話を聞いてみてくれ」
「それはちょっと難しいと思うけどね」と、エリカさん。
「幸成がまだその子は打ち解けてくれていないって言っていただろ。避けられている話題っていっても難しいよ」
意識しすぎるとどの話題も避けられているように感じるかもね、とエリカさん。
「そうかもしれないけれども、そういう事を意識して聞くのと聞かないのでは違いがある筈だ」
会長はイライラし始めたらしい。机をコツコツと指で叩き始め、僕はちょっと引いてしまった。
「それから、幸成が行かなければそれで済む事ではないのか?」
兄さんは全然気にせず口を挟んだ。
「幸成君が行かなければこの件はウヤムヤになる。原因をはっきりさせなければ、私達は今後安心して血を貰えなくなる」
「リスクは少ない方がいい。昼間の見張りは行う事にして幸成は、幸成に限らず私達もだが、この梢という子には接触しない事にする。見張りの結果、その『第2のヴァンパイア』が見つかればそのヴァンパイアと話をつけてこの件は終わりだ」
「私はもう1回くらい話を聞いた方がいいと思うけどね。何かヒントになる事を聞けるかもしれないし」と、エリカさん。
「昼間の見張りは短ければ短いほどいいよ。シゲだってそうだろう?」
「昼間の見張りは気は進まないが、必要なら仕方の無い事だ」
「はいはい、わかったよ。それでどうする、会長?」
会長は机を叩くのをやめて、こう答えた。
「ヴァンパイアを集めるのには時間がかかる。幸成君には梢ちゃんとの接触を保って欲しい。私としては梢ちゃんに関する情報がもう少し欲しい」
会長はちょっと迷った後、こう続けた。
「本当なら記憶がうまく抜けなくなる現象は10人くらいのヴァンパイアが関わった時に起きる現象なんだ」
「なんだ、それは」
兄さんは唸るように言った。
「ただ、この事に関してはあまり情報が無い。最低何人かかわれば記憶がうまく抜けなくなるかはわからないんだ」
「10人のヴァンパイアが昼間に出歩いていると言うのか?」
「私もそんなに多くのヴァンパイアが関わっているとは考えていない。現実的ではないしね。今回関わっている人数は少ないと思う。そして、人数が少ない分梢ちゃんの記憶が本格的狂ってくるまでまだ時間がある。だから幸成君には梢ちゃんに会って色々と話を聞いてきて欲しい」
会長の言い分はわかったけれども、正直言って聞きたい事がある。どうしよう。
「梢ちゃんの事はわかりました、会長。頑張って話を聞いてみます。・・・でも、何でそんな事をご存じなのですか?」
会長は質問を予期していたみたいだった。ちょっと皮肉に見える笑みを浮かべる。
「そうだね。長い話ではあるし、そのうち機会があったら話すよ」
「その『機会』は昼間の見張りが始まる前に作ってくれ」と、兄さん。
「そっちが知っていてこちらが知らない事ばかりではやる気がおきない」
「それは困ったな」
会長はおおげさに驚いて見せた。
「頼りのシゲがやる気が無いのは困る。では、早いうちに機会を作ろう」
それで話が変わるけれども、と会長。
「梢ちゃんの家に行く前に質問する事のリストを作った方がいいと思う」
「そうだな」と、兄さん。
え。質問リスト?
「少ない時間を最大限に活用したい。『聞くのを忘れました』なんてみっともないからね」
兄さんも頷いている。
「質問リスト、ですか?」
その時僕の脳裏には、なるべく明るい雰囲気で質問リストを読む僕と、気が進まない様子で質問に答えている梢ちゃん、という情景が浮かんだ。聞けば答えてはくれる気がするけれども理由を正直に言わないと梢ちゃんとの溝は深まる気がする。
「『第2のヴァンパイア』の件を梢ちゃんに打ち明けて、その上で質問に答えてもらうという事でしょうか」
会長は困った顔をした。
「うーん、そうだな。打ち明けるべきかもしれないけれどね。エリカはどう思う?」
「夜の間、自分の家を見張られていたと知ったらいい気分はしないだろうね」と、エリカさんは答えた。
「それにこれから昼間も見張ろうっていうんだろ?嫌がられると思うね。言わない方がいいよ」
そう言われると、そういう気がする。それにもともと言いづらい話でもある。保留って感じかな。
「質問の件だが」と、兄さん。
「昼の見張りを考えると、学校のスケジュールは抑えておくべきだ」
「友達関係も聞いておいて欲しい。ヴァンパイアが友達って事は考え辛いけれどもね」
「学校までの通学路を確認しておけ」
「よく行くお店とか」
「休日の予定もだ」
「部活のこともね」
「・・・ちょっと、そこの二人」と、エリカさん。
「そこら辺で止めておきな。それから梢ちゃんが幸成に血を提供してくれているっていう事を忘れちゃ駄目だよ」
エリカさんは僕を見て真面目に言った。
「質問リストは消化しなくていいから梢ちゃんと楽しくおしゃべりしてきな。ヴァンパイアの事は忘れても、楽しく過ごしたっていう印象は残るんだからね。それは提供者にとってもプラスになるんだよ」
兄さんはエリカさんに抗議している。これは部屋に帰っても何か言われそうだ。
「・・・えーと、それで30分の時間制限は」
「時間厳守」
会長にきっぱり言われた。やれやれ。