ヴァンパイア・ナイツ15
一月経ったけれども、僕たちは会長の言う『第2のヴァンパイア』を見つける事ができなかった。
「では、梢ちゃんは昼間にヴァンパイアに接触している事になる」
会長は不機嫌な調子でそう言った。
「昼間にかい?」
エリカさんがすごく迷惑そうに応えた。
「他にどういう可能性がある?」
「いや、言いたいことはわかるんだよ。でも、昼間ねぇ」
エリカさんはわざとらしくため息をついた。
「昼間に血を貰いにうろつくヴァンパイアなどありえない」と、兄さん。
兄さんの言うことはもっともだ。でも会長は意見を変えなかった。
「必ずいる筈だ。昼見張りをしなければ」
エリカさんと兄さんは首を横に振った。僕は問題が梢ちゃんの事なので気が引けて正直に反対と言えなかった。嫌かと言われれば勿論嫌だし、それに兄さんの言う通り昼間に血を貰いに行くヴァンパイアがいるとは思えない。
「私が取りまとめ役だ」
会長は冷たい表情になった。怒ったらしい。
「・・・・・・取りまとめ役の意志は尊重しよう」と、兄さんはしぶしぶ頷いた。でも少し考えてからもう一度首を横に振った。
「4人で昼間に一ヶ月人間を見張るのは無理だ。まず見張りの体制を整えなければ」
「まず4人で監視を始める。応援のヴァンパイアを急いで集めるから・・・・・・」
「ちょっと、会長。そこまで急ぐ理由がどこにあるのさ」
今度はエリカさんが口をはさんだ。
「ヴァンパイアを集めるにはどこかの集落の長に頼むしかないだろ?時間だってかかるし、多分同じ事を言われるよ。『ヴァンパイアは昼間に血を貰わない』」
会長はコツコツと机を指で叩き始めた。僕達は何となく黙ってしまった。少しして会長が前よりも落ち着いた声でこう言った。
「そうだな。見張りの体制は始めに整えた方がいいかもしれない。見張りに穴があって見逃すのはバカバカしい」
会長は机を指で叩くのをやめて、手と手を組んだ。
「早く梢ちゃんの問題を解決してあげないと、幸成君の記憶だけでなく、その『第2のヴァンパイア』の記憶までうまく抜けなくなるかもしれない」
「それがそんなに深刻な問題か?」
原則にこだわる兄さんにしては珍しくそんな事を聞いた。会長は兄さんではなく自分の手をみつめながら答えた。
「そのうち記憶が抜けなくなり、幸成君の事やその『第2のヴァンパイア』の事をずっと覚えているようになる」
「それは確かに問題だがな」
会長はため息をついた。
「一定の魔力を持つヴァンパイアと定期的に接触があるうちは特に問題はない。ヴァンパイアに関する記憶がある事自体を問題視するなら話は別だけどね。問題はその後だ。そのうちヴァンパイアとの接触が切れてしまうと、ヴァンパイアの記憶がある期間の記憶がまとめて消えてしまう」
「まとめて消える?」
「そう。仮に梢ちゃんが幸成君の事を1週間ずっと覚えていたとする。その後、幸成君との接触が切れた時に1週間分の記憶がまとめて消えてしまうんだ」
「梢ちゃんの昼間の記憶も無くなってしまう訳ではないですよね?」
「無くなってしまう」
会長はきっぱりと言った。僕は動揺してしまった。僕達ヴァンパイアは血を貰っている間の記憶はそのうち提供者の頭の中から消えてしまう事を承知している。月1回、30分程度の時間なら提供者の生活に深刻な影響は及ぼさないだろう、という事を前提にして血を貰っているのだ。それが崩れるとなると。
「大変じゃないですか」
「大変だよ」
会長は頷いた。
「だから早くこの問題を解決してしまいたい。知り合いの村長に頼んでヴァンパイアを集めるから、幸成君は梢ちゃんに色々聞いてみて欲しい。もし梢ちゃんが『第2のヴァンパイア』の事を話してくれればそれで手間が省ける訳だしね」
僕は頷き、それから梢ちゃんが無口な女の子だった事を思い出した。
「わかりました。頑張ってみます。ただ・・・」
「ただ?」
「梢ちゃんなかなか打ち解けてくれなくって」
そういう事もあるよね、と優しく頷いてくれたのはエリカさんだけだった。会長と兄さんの非難の視線を浴びて僕はたじたじとなった。
「何でもいいから聞き出すんだ。わかったな、幸成」
兄さんに偉そうに言われて頭にきた。どう考えても人とのコミニュケーションをとるのが一番苦手なのは兄さんだと思うのだけれど。兄さんは一体提供者とどんな会話をしているんだろう。