ヴァンパイア・ナイツ13
会長が兄さんとエリカさんに梢ちゃんの件を話し、僕達はスケジュールを譲り合って梢ちゃんの家を見張る事になった。兄さんは思ったより僕に文句を言わなかった。会長が『幸成君の落ち度ではない』とすごくきっぱり言ってくれたのも大きかったと思う。僕は会長に感謝した。もっとも後から『今のところはね』と付け加えられてしまったので、感謝の念も半減してしまったのだけれども。
日が落ちて暗くなってから明け方まで、の張り番は退屈と言えば退屈かもしれない。でも、まあ、待つのには慣れているし、たまに会長やエリカさんや兄さんが様子を見にきてくれる。
今夜の見張り役は兄さんだ。僕はもう少し血の提供者を増やすべく、ナンパに精を出す予定だった。暗くなってきたので出掛ける準備をしていると、ドアが軽くノックされた。
「幸成、ちょっといい?」
エリカさんだ。僕はドアを開けた。
「エリカさん、今晩は。今から出かける所ですか?」
エリカさんは綺麗に化粧をして、お洒落をしていた。エリカさん、明るい感じの服が好きみたいだ。
「そうなんだよ。それで、ちょっと頼みたい事があるんだけどね」
「何でしょうか」
「この前、シゲが見張り番の時に声をかけに行ったら、いなくてね。それで、会長に聞いたら会長がシゲの様子を見に行った時もみつからなかったって言われたんだ。シゲの事だからさぼったりはしていないんだろうけど、気になるから見てきて欲しいんだよ」
「わかりました。様子を見に行ってきます」
「悪いね」
そう言ってエリカさんは廊下に戻って行った。僕はナンパ が終わったら兄さんの様子を見に行く事にした。
今日の僕はあまりついていなかった。何人も断られてすごく自信が無くなってきてしまった。梢ちゃんや菜摘ちゃんや美紀さんや陽菜ちゃんが血をあげてもいいよって言ってくれたのはやっぱり何かの間違いだったんだ、という考えが頭を離れなくなってくるに至って戦線離脱。
しょうがない。エリカさんに頼まれたし、兄さんの様子を見に行ってこよう。ナンパの成功率が悪いって嫌みを言われそうな気がするけど。
梢ちゃんの家に着いて、辺りを見回す。兄さんの姿は見えない。気配を消すのが当たり前だから、当然と言えば当然だ。でも僕だったら知り合いのヴァンパイアが来てくれたら、出てきて挨拶するけれどね。
エリカさんの言うように兄さんが当番をさぼるとは思えない。どこにいるのかな。僕は少し離れたアパートの屋根にこっそり登って視界を確保し、辺りの気配を探った。しばらく気配を探る。梢ちゃんの家を見張れる範囲で兄さんが居そうな所・・・・・・。
僕は集中して探さざるを得なかった。知覚範囲ぎりぎりで何となくひっかかる家がある。
あそこかな。コンクリート造りで屋根が平らだ。屋根に大きな太陽光発電パネルがある。あの陰にいるのかも。僕は気配を消して近づいた。
「兄さん」
僕が声をかけると、兄さんは億劫そうに返事をした。
「幸成か。犬に気をつけろよ」
ここの家は結構大きな犬を庭に放し飼いにしていた。気がつかれると、吠えられる。
「エリカさんと会長が来たけれど、兄さんに会えなかったって言っていたよ」
「来たのは知っている」
「折角来てくれたんだから、顔を見せてあげればいいのに」
「必要なら探せば見つけられる場所だ。向こうで見つければいい事だ。そもそも差し迫った用事では無かったのだろう」
兄さんらしい言い分だ。別にエリカさんや会長と仲が悪いという訳ではない、と思う。
「探してくれたみたいだけれど」
「ふむ、見ていたがな、会長もエリカも鈍すぎる。まあ、エリカは女性だからともかく、会長が見つけれないのは問題だ。幸成、お前は探せばここが見つけられただろう?」
僕は頷いた。
「それが普通だ、と私は思うがな」
「街に出てきてしばらく経つみたいだから勘が鈍った、とか?」
「どうかな。私達の村にも医者が居る。新村先生が村に戻ってきた時には狩りができなくなっていたか?」
「僕は小さかったから知らないけれど」
「そんな事はなかった。帰っていきなり熊三頭から血を貰って村長に小言を言われたものだ」
「そうだね、三頭は怒られるね・・・」
うーん、新村先生狩り上手なんだな。一晩で三頭か・・・。
「それから、今回の件だがお前はどう思う?」
「どうって?」
「記憶の件だ。複数のヴァンパイアが関わると人間の記憶のブロックが不安定になる事をお前は知っていたか?」
「全然」
「私もだ。今でも半信半疑だがな。しかし、会長はこの件に関しては随分自信があるようだ。でなければ見張りなどしないだろう」
「そうだね」
「新村先生からも村長からもそんな話は聞いたことがない。何故会長はそんな事を知っている?」
兄さんとの議論は面倒だ。それにこの調子で話を続けるとそのうち怒り出す可能性が高い。
「会長は街が長いから知っているんだと、僕は思うけど。前に何かでトラブルがあって知っているとか、だと思うよ。そういう事があると知識が増えるからね」
兄さんは珍しく反論しなかった。潮時だったので僕は先に帰るよ、と言って家に戻った。