ヴァンパイア・ナイツ12
会長が僕を訪ねて来てくれたは、それから数日たってからの事だった。夕方の比較的早い時間で、兄さんとエリカさんはまだ寝ている時間だ。
「幸成君、邪魔するよ」
会長の声がして僕はドアの鍵を開けた。ドアの隙間から日の光が射し込む。僕は日に当たらないように後ろに下がった。
「エリカから話は聞いていたけれど、来るのが遅くなって悪かったね」
「いいえ。こんな早い時間にわざわざ申し訳ありません」
隣の部屋とはいえ、僕だったら外に出たくない時間帯だ。
「それで、梢ちゃんだっけ。どんな感じなのか詳しく教えてくれる?」
僕は梢ちゃんの家のドアが閉まった後、梢ちゃんの僕に関する記憶が消えなかった事を話した。
「他の提供者の所にはもう行った?」
「ええ。そちらでは特に何ともありませんでした」
「そうか」
会長は落ち着かない様子で机を指でコツコツと叩いた。
「私の知っている限り、記憶のブロックが上手くいかないのは、提供者が複数のヴァンパイアと接触している時なんだ」
「それは、知りませんでした」
「知っている者はまだ少ないと思う。驚いた?」
僕は頷いた。本当に初めて聞く話だ。
「そうなんだけれど、ここら辺に他のヴァンパイアはいない筈なんだ」
会長はまだ指でコツコツと叩いている。
「梢ちゃんは、僕に他のヴァンパイアの事を言わなかったという事ですか?」
「どうだろう。普通なら幸成君に声をかけられた時にヴァンパイアに関する記憶のブロックが解かれて、他のヴァンパイアに血をあげている事を思い出す筈だ。そしてその事は幸成君に言うと私は思う」
会長はそう言った。僕もそれはそう思う。
「順番が逆でも、同じ事だ。普通のヴァンパイアだったら幸成君の事を聞けば、梢ちゃんに血は貰わない。それにその場合でも、梢ちゃんは幸成君が2回目に会いに行ったときに第2のヴァンパイアの事を幸成君に言うと思う」
僕は考えてみたけど、それらしい理由は何も思いつかなかった。まさか、僕があんまり困っているように見えて血をあげなきゃ大変だと思って遠慮して黙っていたって事はないよね。
「よくわからないな・・・」
会長はそう言ってため息をついた。
「梢ちゃんの様子を一度見に行った方がいいでしょうか。記憶にブロックがかかっていないのではないかと少し不安なんですが」
「うーん。原因がわかるまでは接触する回数を最小限に抑えた方がいい。このまま一ヶ月様子を見て欲しい」
「わかりました」
「それから、その”第2のヴァンパイア”がいるかどうかはっきりさせたい。今日から梢ちゃんの家を順番に見張る事にする」
「え、本当に?」
結構な負担だ。僕は勿論、他のヴァンパイア達にも。
「本当だよ。記憶のブロックのオン・オフは私達にとっては重要な問題だ」
会長は真剣にそう言った。皆に迷惑をかけるようでとても心苦しい。それに、第2のヴァンパイア何て本当にいるのかな?