ヴァンパイア・ナイツ11
僕がアパートに戻ると、エリカさんが手を振ってくれた。
「幸成、お帰り。どうだった?」
「ええ、血は貰えたのですが。でも、梢ちゃんの事でちょっとおかしな事があって」
「おかしな事って?」
僕は梢ちゃんの記憶がうまく抜けなかった事を話した。
「うーん、そういうのは私もあまり聞いたことがないね・・・」
エリカさんは首を捻った。
「何か僕のやり方がまずいのでしょうか?」
やっぱり魔力のコントロールが悪いとか。
「うーん、でも、他の子は別になんともないんだろう?」
「血を二回貰ったのは今の所、梢ちゃんだけなんです。もし、二回目に現れるような異常なら、他の人達にもこれから異常が出るかも」
「二回目に現れる異常っていうのは聞いたことが無いけどね。魔力のコントロールを誤るのは大抵一回目で、様子を見ればすぐわかる筈だよ」
それを聞いて僕は少し安心した。
「そうだね、後で会長に相談してみよう。こういう事は会長が詳しいからね。今日は駄目だよ。忙しくって帰りが遅くなるって言っていた」
「忙しいんですか?」
「そう。今日は血を貰いに行っているんじゃなくて、病院の手伝いを頼まれて、そっちに行っているんだよ」
「はあ」
「もう少しゆっくりすればいいと思うんだけれどさ、あれも性分だね」
エリカさんは首を振って言った。
「それから梢ちゃんの事はシゲには黙っておいた方がいいよ。何か色々聞かれてうるさい事になりそうだからさ」
「そうですね」
黙っていて後でバレでもそれはそれでうるさい事になりそうだけれど、とりあえず黙っておこう。
「兄さんはもう戻ってきましたか」
「まだだよ。シゲも真面目だからね。血を貰った後、色々辺りの様子を見て回って来るんだよ」
僕は肩をすくめた。遠回しに咎められた気がする。慣れるまで、と思っていたけれどそろそろ辺りの様子にも気を回した方がいいかもしれない。
「おやすみなさい、エリカさん。兄さんに鉢合わせしないうちに自分の部屋に引き上げる事にします」
「ああ、それがいいね。おやすみ、幸成」
ドス。
鈍い音がして黒い物体がエリカさんの後ろに降ってきた。
兄さんだ。
僕とエリカさんは無言で同時に一歩引いてしまった。
「・・・シゲ、屋根から直接飛び降りて一体どうしたんだい?」
兄さんはちょっとバランスを崩しかけたけれど持ち直して何とか威厳を保った。
「何でもない。ちょっと急いだけだ。エリカ、今日の首尾はどうだったんだ?」
「・・・いつも通り、血を貰って楽しくお喋りしてきたよ」
「それは何より」
兄さんは重々しく頷いた。僕はその話題がこっちに振られないうちに逃げてしまおうとさりげなく部屋の方に移動しようとした。
「幸成」
「・・・何、兄さん?」
「どこへ行く」
「自分の部屋」
そうか、と兄さんは頷いた。
「私も今日は早く休もうと思って急いで帰って来たところだ」
兄さんはそう言うと僕より先に部屋に歩いて行った。
「急いで帰ってきたのは本当みたいだけれど、何やっているんだろうね、シゲは」
エリカさんは呆れたようにそう言った。
「全く何なんでしょうね」
僕は改めてエリカさんにおやすみなさいを言って部屋に引き上げた。