ヴァンパイア・ナイツ10
私は黒谷さんがどうやって窓から入るのかが気になって庭から二階に上がる様子を見ていた。ふわっ、ふわっという感じであっという間に登ってきて、体重はある筈なのに屋根は軋みもしなかった。私も小さい頃やってみて親に怒られたけれど、屋根が軋んでよくバレたんだよね。
入ってきた黒谷さんは落ち着かない様子だった。お腹が空いたのかも。私は手を差し出した。
「ああ、ありがとう。・・・そうだね、先に貰ってしまおうかな。それから貧血で倒れると困るから座ってね」
私が座ると、黒谷さんは手をとって血を飲み始めた。
大体十五分くらいだろうか。黒谷さんは血を飲み終わると、私の手をじっとみつめた。血がとまって、傷口があっという間にふさがっていく。
「魔法みたい」
私が言うと、黒谷さんは頷いた。
「僕達ヴァンパイアもそう思っている」
黒谷さんは、壁の時計を見て時間を確認した。そう言えば、30分の時間制限があったっけ。
「梢ちゃん、この一月どうだった?何か思い出せない事があるようで不安だったりしたかな?」
私は首を横に振った。
「それはよかった」
黒谷さんは真面目に頷いた。
「僕も人の血を貰うのは初心者で色々と不安なんだ。気をつけてはいるんだけれどね」
黒谷さん、初心者なんだ。ま、別にどちらでも構わないけど。
「それで気になったから確認したい事があるんだけれど、さっき窓をすぐ開けてくれたよね。・・・ドアが閉まった後も僕の事を覚えていたのかな」
私は頷いた。黒谷さんが待っている事を覚えていたから、手を洗ってうがいをして急いで部屋に戻って窓を開けた。私がそう話すと、黒谷さんはまずいな、という表情になった。
「本当ならドアを閉めた後、僕の事を一旦忘れる筈なんだ。うーん、どうしたのかな」
「暗示が強すぎた?」
「原因としてはそれくらいしか思いつかないけれどね。でも、そんな事は無いはずだしな」
悩みようにも、経験が無いから情報少なくって悩めない、そう言って黒谷さんはため息をついた。
「ごめんね。何でもいいから気になる事はない?」
うーん、何かあったかな。私が困って黙っていると、黒谷さんも困った顔になった。
「そうだよね。帰って先輩達に聞いてみようかな」
「先輩達?」
「そう。人と一緒に暮らすと色々面倒な事になるかもしれないからヴァンパイア同士固まって暮らしているんだ。数は少ないけれどね」
「ふーん、どこに住んでいるの?」
「ごめんね、場所は秘密なんだ」
私はムッとした。何となく気になる。
「絶対、秘密?」
「そう。絶対秘密」
黒谷さんはにこやかに答えた。怒るに怒れない。
「なんだかわからないけど、すごく気になる・・・」
それでも私は諦めきれずにぶつぶつと言ってしまった。
「そうなんだ、ごめんね」
黒谷さんは困った顔をしたけれど、口は割らなかった。
「別に誰かに話したりはしないよ?」
「うん、まあ。僕がいない間は僕に関する記憶もなくなる筈だし。でも規則なんだ。怖い先輩達もいるし、破る気にはならないな」
黒谷さんは時計を確認した。
「時間だね。そろそろ失礼するよ。体調は大丈夫みたいで安心した。また血を貰いに来てもいいかな?」
私は頷いた。よっぽど『住所を教えてくれたらね』と言おうかと思ったけれどあんまりみっともないから何とか我慢した。