かき氷
『今年は去年より一段と気温が上がり新しい予報用語として【熱暑日】何て言葉が出来る程ですが、これからの日本はどうなるのか今日は専門家の方にスタジオへ来てもらっています…』
テレビを点ければどこも似たような話題一色である。
現在の日本では気温45度を超える日が続き、真夏日という言葉はもはや死語、いつの間にやら熱暑日なんて言葉が定着してしまった。
死語といえば他にも無くなっていった物はある。例えばスポーツは屋内でやるのが殆どで学校では体育館、プロ野球やプロサッカーでも必ず天井があるドームの中で実施をしている。
そしてお祭りで人気の食べ物【かき氷】も時代と共に消えいっている。
「水野! お前、今度の夏祭りかき氷を出すだぁ~!?」
この時期になると地元の祭りで町内会の人達が屋台を出しており、そのミーティングの後水野は町内会長である木元に相談していた。
「もう5年も前に出さないっていう方向で決まっただろ」
エアコンを弱めに設定している事務所で木元に案の定詰められる。
1.暑さで氷が高騰している事
2.作ってる間に溶けてしまう事
3.そもそも手に入りずらい事
「この三つの条件をクリアしないといけないし、利益も出ない、やる意味ないだろ」
ご丁寧に何故やらなくなったのかを説明してくれた木元のいうとおりだ。
5年前高くなった氷を大量に購入し、例年どおりかき氷は売られていた。
だが当時言われたのは「こんなすぐに溶けてたらただ色が付いた甘い水じゃん」という子供の純粋な意見だ。
そして他で売っていたお酒やジュースは温いという踏んだり蹴ったりの状況であった。
「もうかき氷は店内で食べるスイーツなんだよ、諦めろ」
木元はこれで話は終わりと言わんばかりに目を伏せた。
こうなる事は百も承知の上で相談しているのだ簡単には引き下がらない。
「木元さん見て下さい」
そう言って水野は自分のポケットから氷を出した。
「なんだよこれ? というかお前ずっとポケットに氷入れてたのか?」
呆れたように笑いながら木元は水野を見つめる。
「それは溶けない氷です」
「溶けない氷って…」
そう言われ木元は氷を手に取る、それはひんやりと冷たく間違いなく氷であった。
そして驚いた事にこの蒸し暑い部屋で手に持ったにも関わらず溶けてないのだ。
「これをお前が作ったのか?」
「はい、5年前から作り始めました」
自信を持って水野は応えた。
「確かに凄いが食べれるような代物じゃないんじゃないか?」
この質問も想定内でその答えを既に水野は持ち合わせている。
「何の問題もありません! この氷は熱には強く溶けないのですが、胃酸には耐性が無い為、体に接種しても問題ないのです」
「いや、それもそうだが成分とか…」
「そしてこれがこの氷の成分表で、ちゃんと専門機関にて調査して頂いた結果です」
そう言って水野は一枚の紙を見せる。
「お前ここまでしてたのか…」
「えぇ、頑張りました」
木元は先程までの呆れ顔など無くなり、真剣な顔で水野の話に耳を傾ける。
次に水野は「この氷で作ったかき氷食べてみませんか?」と家庭用のかき氷機を出し氷を中に入れて回し始める。
削られ出てきた氷はキラキラと輝きながら設置してある紙コップへと積み上がっていった。
その懐かしい光景は想像を促し、身体がその味を欲しているのが分かる。
「シロップは?」
水野の問いかけに「じゃあ、えーっとイチゴで」と返事をした。
小さな紙コップに出来た氷の山に綺麗な赤が染み込んでいき、まるで紅葉しているようだ。
未知の氷を使ったなどという事は忘れ木元は一口食べる、このかき氷は全身を駆け巡り、全ての細胞が美味しさに喜ぶ。
まさしく【生きてる】と実感させられる程であった。
そして一瞬で食べ終えた木元には既にある考えが浮かんでいた。
「なぁ、その氷ってどこで作ってるんだ?」
自分の考えを実現する為、木元は水野に案内させるのだった。
着いたのは水野の自宅、そこで見たのは強盗にでも入られたのかという印象を受ける部屋で滅茶苦茶な状態であった。
案内された先は居間、そこには大きな穴があり梯子が掛けられている。
「5年前たまたま見たんです」
水野は突然語りだした。
「何万年も前の氷が発見されたっていうニュース…、あれを見た瞬間【これだ!!】って思いました」
「えっと…」
木元は何かを言い掛けたが声には出さない。
「だから俺は自分の家を掘りました」
「掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って…」
「やぁっっと見つけたんです、この氷を大量に!!」
水野の狂喜に満ちた演説に恐怖を覚えはしたが木元はこの溶けない氷の存在を知ったからには恐怖よりも勝った感情があった。
この時には木元も既に狂喜の世界に入ってしまっていたのかも知れない。
梯子を降りた先に見たのは言葉では表現出来ない程、美しい氷の世界が広がっていた。
「なんだこれ…」
呆然と立ち尽くす木元へ自慢するかのように水野は「これだけあれば何年間もかき氷を作れますよ!」
満足そうに大きな声を出す水野へ木元は歩み寄り囁く。
「なぁ、相談なんだが…」
「この大量の氷で商売をしないか? かき氷に使うだけではもったいないだろ?」
「えっ…」
水野の反応は悪い。
「この量を売り捌いたら俺達は大金持ちだぞ」
「うーん…」
決めかねる水野を見て木元は聞いた「何か不満があるのか」と。
水野はそれに応えるように「そうですね…、木元さん一つ見て頂きたい物があるんです」
それだけ告げてズカズカと一人奥へと進んでしまう。
「おい、何かあるのか? それを見たらこの氷売ってくれるのか?」
木元の頭の中には既に商売の事しか無い。
そして案内された先にあったのは人、大量の人の氷像であった。
「えっ? これは?」
予想だにしない展開に木元は間抜けな声で疑問を口にした。
「これは歴史ですよ」
「歴史?」
「えぇ、一番手前、そう丁度木元さんの目の前にある氷像は私です」
水野の言っている意味が分からず、木元は氷像を見つめる。
すると固まった眼球が動き木元にだけ聞こえる声で言った。
「た、す、け、て」
「ひぃ」と声を上げ腰が抜け後ずさる。
ドンッとぶつかったのは彼【水野】だ。
「そんなに震えて寒いですか?」
「お前は一体何なんだ」
「あなたが知る必要はありません、いつか次の氷になってくれれば良いんです」
彼の言っている意味が理解出来ないと思った、だがもう既に身体が知っている。
あの氷の正体を全ての細胞が凍っていく感覚を。
「さて新しい氷も入ったしかき氷屋の復活だ」
今年はいつもより涼しい夏が来そうである。
(了)




