第54話:京の都と島原の夜、そして新たなる旅立ち(第三章完結)
本作は、現代の経営理論で歴史を動かすビジネス思考実験フィクションです。
瀬田の唐橋を渡り、五条大橋のたもとを踏みしめた越前屋一行。
ついに、千年の歴史と文化が息づく日本の美の頂点――「京都」へ堂々の入城を果たした。
京都呉服株仲間の重鎮・錦小路勝右衛門の全面協力により、烏丸通りの超一等地に「越前屋・京都本店」の店舗用地と仕入れ拠点が瞬く間に確保された。
「若旦那ーーッ! お噂は伺いましたぞッ!」
大広間に駆け込んできたのは、大坂の頼れる仲間――善ちゃん(善兵衛)であった!
「善ちゃん! 大坂からよく来てくれた!」
貞次郎が立ち上がり、固い握手を交わす。
善ちゃんは汗を拭いながら、豪快に笑った。
「いやあ、伊勢の御師や古市を味方につけ、さらにはあの気難し屋で有名な京の呉服ギルドまで丸ごと『共生パートナー』に引き入れたと聞いて、いてもたってもいられず大坂から飛んできましたわ! 相変わらず若旦那の商いは天下一品ですな!」
「ふふ、善ちゃんが来てくれれば百人力だ。大坂の市場と流通のリアルな動向を知る君の力が必要なのだ」
貞次郎は善ちゃんの肩を叩くと、ニヤリと不敵に笑った。
「さあ善ちゃん。京の都における上方ドミナント戦略の仕上げとして……日本の社交・文化・トレンドの最高峰――【島原遊郭】へ市場視察(兼・挨拶)に参るとしよう!」
「へへっ! 流石は若旦那! 島原の太夫さんにお目にかかれるとは、最高ですな!」
男二人は意気揚々と、日本最古にして最高の格式を誇る花街「島原」へと繰り出したのだった。
だが――当然のことながら、あの二人が黙っているはずもなかった。
「(ピキピキ……)若旦那ったら……善兵衛さんと一緒になって、また『お仕事の視察』とか言って遊郭に行ったそうですよ、お艶さん……!」
「ふふ……まったく、貞さんも善ちゃんも、懲りない男たちだねぇ。行くよ、お春ちゃん。吉原と伊勢の次は、京の島原で私たちの力を思い知らせてあげなきゃね」
怒髪天を突くお春と、極上の笑みを浮かべるお艶が、島原の大楼閣「角屋」の宴席へ凄まじい気迫で乱入した!
バサァァッ!!
「若旦那ーーッ! 善兵衛さーーんッ!!」
「げぇっ!? お、お春ちゃん!? お艶さんまで!?」
酒を酌み交わしていた善ちゃんが跳び上がり、貞次郎も「む、むう……!」と大福帳を抱えて身をすくめた。
だが、ここからの展開はまさに狂乱の宴であった。
お春は、出された京都の名物和菓子「八ツ橋」や「京豆腐のあんみつ」を目にした瞬間、
「(ゴクッ)……な、なんですかこの上品で美味しそうなお菓子は……! お、お休み処の研究のために、私、ぜんぶいただきますッ!」と、怒りを忘れて爆食いモードに突入!
一方のお艶は、島原の最高峰である千両太夫たちの前に立ち、優雅に着物の裾をひらりと舞わせた。
「ふふ、京の太夫さんたちかい。吉原の元トップの私が、うちの越前屋の『手ぬぐい』と『色木綿』を使った、男を一発で落とす極上の魅せ方を教えてあげるよ」
島原の太夫たちは「まあッ! お姉様、なんて素敵な所作ですの!」とお艶を「大姉様!」と崇め奉り、吉原と島原の奇跡の美の競演が実現!
善ちゃんは大酒を飲んで「ガハハ! 楽しいですな!」と大満足。
お春は「京菓子も最高です〜!」とお腹を膨らませて大満足。
お艶と島原の太夫たちは華やかに舞い踊り大満足。
そして真ん中で、太夫たちとお春とお艶に囲まれ、美味しい京菓子をお春に横取りされた貞次郎が、
「む、むう……これが上方の文化経済学と、複雑系心理学の極致……(計算不能)」と頭を抱えて悶絶するのだった。
翌朝。
秋の澄み渡る青空の下、一行は鴨川の河原に立っていた。
清らかな川のせせらぎの向こうに、比叡山と京都の美しい街並みが広がっている。
「若旦那。京都本店の土台と、仕入れ・販売のネットワークはこれで完璧ですな。大坂の商人たちも、越前屋との取引を首を長くして待ってますよ」
善兵衛が頼もしく胸を叩いた。
「ああ。桑名、伊勢、四日市、関宿、そして京都……。東海道と参宮街道を繋ぐ『日本列島ドミナント戦略』の巨大な基盤が、ここに完成した」
貞次郎は胸の中の日本地図を見つめ、熱い情熱を瞳に宿した。
「製造直販、手ぶら予約配送、成果報酬型アンバサダー、店舗のお休み処、そして既存ギルドとの共生プラットフォーム……。この仕組みがあれば、日本中の商業を書き換えられる!」
お艶が煙管をくゆらせ、優しく微笑む。
「ふふ、どこまでもついていくよ、貞さん。全国の花街と遊郭を、全部うちの味方にしてみせるからねぇ」
お春も大満足の笑顔で拳を握りしめた。
「はいっ! 全国のおいしい名物を全部研究して、日の本一のお店を作りましょうね、若旦那!」
「よし……! 京都の次は、天下の台所【大坂】、そして日本中の海を繋ぐ【北前船・西回り航路】のハックだ!」
貞次郎の力強い宣言が、鴨川の風に乗って秋空へ高く響き渡る。
江戸から始まり、東海道を駆け抜け、伊勢をハックし、京の都へと到達した越前屋の冒険。
だが、彼らの目指す「天下布商(日本全国の商業改革)」の果てしない物語は、さらなる壮大な舞台へと続いていくのだった――。
これにて、第三章【日本列島ドミナント編】が完結となりました!
桑名での伊勢屋との連携、熱狂の伊勢神宮とおはらい町、古市遊郭での大修羅場、関宿での狭すぎる相部屋、そして京都呉服ギルドとの共生同盟から島原の夜まで——貞次郎、お春、お艶、そして大坂の頼れる仲間・善ちゃんたちの物語を温かく見守ってくださり、心より感謝申し上げます。
ここで一度、次なる舞台への構想練り直しと資料取材のため、本作品の執筆を休みさせていただきます。
よりパワーアップしたビジネスロジックと、さらにスカッとする展開、そして貞次郎・お春・お艶のラブコメ空間を準備して戻ってまいります!




