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第五章 ひとつの結末 七

星来の身が、爆炎ばくえん霧氷むひょうのなす大渦おおうずに飲み込まれる。禍々しい光が黒竜たちの中心にいる彼を瞬時に包囲し、夜の闇に凶悪な瞬きを生みした。

「星来……!」

純は前のめりになって、彼の名を呼んだ。

敵に情けをかけるなんて愚の骨頂でしかないのであるが、それでも、純は星来の無事を祈った。そうせずにはいられなかった。

だって、彼の置かれた境遇はあまりにも理不尽すぎると思うのだ。

雌雄展開体ベータだからという、たったそれだけの理由で親族一同から迫害を受け、実の父親から母親ともども監禁され、あげくの果てに森の中に捨てられるなんて、考えるだけでやりきれなくなる。

しかし、純とて承知してはいるのだ。町の平和を破壊せんとする悪党に同情心を向けるなど、実に馬鹿げている、と。あいつに情けなんて無用なんだ、と……。

だけどそれでも、純は星来の無事を祈った。もはや敵味方という立場を越えて、「天宮星来」という人間の在り方に共感を覚えつつあったから。

もしも、彼が天宮の家に生まれなければ。

もしも、彼がただの雌雄展開体ベータとして、この世に生を受けていれば。

彼は何者も傷つけない真っ当な人生を送れたのではないかと、純は思うのだ。

その証拠に、彼の心には愛があった。母親に対する愛が、彼の身うちからたっぷりとあふれ出ていた。そして彼の怒りは自分でなく、母を見捨てた父に向けられていた。

天宮星来の中にひそむ破滅願望および破壊衝動は、「最愛の母を失った」という悲しみに根ざすものだった。「愛する母を見殺しにされた」という過去が、彼の人格形成に大きな影響を与えたのだ。

だから、純は祈った。

「星来が生きていますように」と、一途に願った。

黒い邪神たちが不気味な唸り声を発しながら、包囲網を少し広げた瞬間、よろよろと立つ人影がひとつ見えた。

星来は生きていた。

ただし、彼の着ている深紅のライダースーツはところどころ破れていた。あらわになった素肌には、火傷や凍傷とうしょうの跡がいくつも刻まれていた。

奇跡的に顔は無傷であったが、星来は苦しげな表情を浮かべていた。神たる黒竜たちの攻撃をいちどきに受けてしまったのだから、当然の結果といえよう。

「どうしてあんなことが……」

純の呟きに、月世が冷静な声で返した。「神と契約したためだ」

「神様の力を借りることは誰にだってできるわ。少しでも魔力を持ってさえいればね」

同じく冷静な面持ちをした時田が、会話に加わる。

「だけど、自分の魔力よりもはるかに強い神と契約すると、力が制御できなくなって、結果、神様が暴走してしまうことがあるのよ。……星来さんはかなり力の強い邪神と契約しているようだけれど、それがあだとなってしまったのね」

「なあ、月世」

純は再び、話を切り出した。

「あのままあいつをほっといたら、一体どうなるんだ?」

「おそらくは……、邪神に呪われて死ぬだろうな」

「死ぬ……? あいつが?」

「そうだ」

月世の表情はいつものものと変わりない。

「やがて邪神の呪いに飲まれて、魔力と生命力をすべて吸われて死んでしまうだろう」

「助ける方法はないのか?」

「そんなものはない」

純は歯噛みした。

けれど、魔術の才に目覚めたばかりの自分に、なにができるというのだろう。

神たる存在に打ち勝つすべなど、あるはずがないのに……。


やがて星来が力尽きたように倒れ伏した瞬間、公園内に新たな人物が現れた。


「あっ……!」

純は思わず高い叫び声を放った。

いつぞやの夢で出会った金髪美女が、結界の外に姿を見せたのだ。


【続く】

【裏話】

いま、第五章の十二話まで書いています。

純と月世が二人で話すシーンを書いたら終章に突入します。


※次回の更新は22時30分頃です。

※2026 4/4 加筆修正しました。

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