第四章 エクストラオメガ 四
屋敷を後にし、七吹から網連橋に出、急ぎ足で歩く人々でごった返す橋上を歩いた。
月世に送られつつ登校する間も、奇妙な文字列はそこかしこに見られた。どれも人間の顔の付近に浮かんでいた。
「吉瀬真文。第二性は雌雄展開体。職業は銀行員。魔術適性なし」
「宮野裕。第二性は雌雄展開体。職業は無職。魔術適性なし」
「田添渚沙。第二性は雌雄展開体。職業は公務員。魔術適性なし」
文字列が表示する文章の多くは、こんな具合だった。
時々、「完全男性体」や「絶対女性体」、あるいは「魔術適性あり」などという言葉も表示されたが、その数はとても少なかった。
「月世。おれ、おまえの顔を見たときからずっと、変な文字が浮かんでいるのが見えるんだけど……。これってどういうことなんだ?」
家でしたのと同じ問いを口にしたところ、車道側を歩いていた月世が事もなげに言った。
「おまえは、エクストラオメガだけが持つ力に目覚めたんだ」
「は……? なんだよ、それ」
「つがい同士がなんらかの形で粘膜接触をすると、互いに莫大な魔力を得てしまうんだ。そうして力を獲得した完全男性体は、アルティメットアルファと呼ばれる存在になる」
「じゃあ、エクストラオメガというのは……、」
「つがいと密に接触した結果、魔力を扱えるようになった絶対女性体のことだ。俺自身、この話は眉唾ものだと思っていたのだが、そうも言っていられなくなったな。実際、おまえの目は、『他人の能力を見抜く』という能力を得た。
つまり、千晴が語っていた情報は本物だったというわけだ」
「なんでそこで、ハルさんの名前を出すんだよ」
「あいつから聞いた話だからだよ」月世が言った。
橋を渡り、車両のひしめく大通りに出る。信号待ちをする人々の大半は、手にしたスマートフォンに目を落としていた。
「法術局で内々に流れている情報を、局員から教えてもらったらしい。だから千晴は、つがいに関する話を知っているんだ」
「でも、運命のつがいってさ、そうそう見つけられるものじゃないだろ?」
「そうだ。『つがいが成立するのはこの世の奇跡』と表現しても過言ではない。この話題が噂の域にとどまりつづけているのも、それが理由だ」
「ふうん……」
純は前を見た。信号はまだ赤のままだった。
「ここにいる人たちの個人情報、いまのおれにはばっちり見えるぜ。月世、おまえの情報だって例外じゃない」
「ああ。そうだろうな」
月世が浅いうなずきを返す。
「その目のことは、俺や千晴以外の人間には語らないほうがいい。というよりも、そうすべきだと俺は思う。他人の個人情報を覗き見ることができるなんて知られたら、純、おまえの身が危うくなるからな」
「……うん。わかった」
歩行者用信号が青に切り替わる。大勢の人がスマホから目を上げ、忙しく足を動かし、前へと進んでいく。
横断歩道をゆっくりと渡りながら、月世が、
「再三言っておくが、力に目覚めたこともその目のことも秘密にしておけ。俺と千晴以外の誰にも話してはならん」
と言った。
純は首を軽く縦に振ると、
「わかった」
と、短い返事をした。
【続く】
【裏話】
一時間ごとに更新をしているのは、締め切りまでに全話投稿したいからです。
ごめんなさい。




