第四章 エクストラオメガ 三
食堂では、いつものように、月世が掘りごたつに座って待っていた。
ほかほかの白ご飯に、豆腐となめこの味噌汁、豚の角煮に香り豊かなお新香という豪華な食事が、テーブルの上に所狭しと並んでいたのである。
だが、扉を開けた純が絶句し立ちすくんだ理由はそこではない。
──見えるのだ。半透明の文字列が。
「天宮月世。二十七歳。職業は、会員制魔導書専門書店の店長。気温調整の術、使用可。防御系呪文、使用可。攻撃呪文、若干使用可。補助系呪文、使用可」という文章が、月世の顔のすぐ傍に映り込んでいるのである。
「純……。どうしたんだ? 具合でも悪いのか」
「いや、そうじゃねえ」
月世の表情がわずかに曇る。
「悪かったな、純。ゆうべは無理やりキスなんかしたりして……」
「いいよ。あのときはああするしかなかったんだってことくらい、ちゃんとわかっているからさ。自分を責めることはねえよ」
「しかし……」
「大丈夫、大丈夫。それより、なんか変な文字がおまえの顔の傍に見えるんだけど、なにか魔法でも使っているのか?」
「なんだそれは」
月世が声をひそめて訊ねてくる。
掘りごたつにいそいそと入りつつ、純は彼に顔を向けて告げた。
「いや、なんかさ、さっきからおまえの顔の近くに文字列みたいなものが見えるんだ。いまもくっきり見えてるんだけど」
純は自分が目にしているものについて、つぶさに話した。そして話を終えるなり、「これって幻覚なのかなあ。おれ、病院でも行ったほうがいいのかな。それとも、魔術師に治療してもらったほうがいいんだろうか」
と、ひとりごとを呟いた。
だが、月世からの反応は意外なものであった。
「幻覚ではない」
そう断言すると、彼は不安げなまなざしで純の顔を見つめたのだ。
「え、なになに? おれの顔になにかついているのか?」
「それは違うな」
「じゃあ、なんでそんな顔をするんだよ。おれ、変なことでも言ったのか? だったら謝るけど……」
「その必要はない」
「じゃあどうして、おれの顔をじっと見つめてくるんだ?」
「それは……、」
もったいぶったようにひとつ咳払いをすると、彼は言った。
「純よ。おまえ、ついに……、ついに力に目覚めてしまったようだな」
「力?」
「つがいの片割れたる絶対女性体こと、エクストラオメガなる存在だけが得ることのできる能力だ。絆を結んだ完全男性体の体液を体内に吸収した絶対女性体は、特殊な力に目覚めるらしいのだが、あの話はまことのものであったのか──」
「えっ、それって……。おれ、神能者かなにかになっちまったってこと!?」
「それも違う」
彼はそう言うと、
「さあ、まずは食事をするぞ。せっかく作った料理が冷めてしまうのでな」
と、話を切り替えた。
「あ、う、うん……」
返事は一応したものの、しかし、純の気持ちは一向に晴れなかった。
──この文字列は一体、なにを意味するんだろう?
湧き出た疑問に対する答えをつかむことができなくて、ひとり悶々としてしまったのである。
【続く】
【裏話】
月世はぬか漬けも作れます。
彼の趣味は、魔導書とレシピ本の収集です。




