勇気と会話
「で、出来ます」
姫乃はカメラマンに対してそう返事をすると、早速自分のフォークでケーキを一口大に切り分け、それをフォークで突き刺した。
こんなこと、簡単なことよ。この突き刺したケーキのカケラをアイツの口に入れるだけ。
別に身体的接触を伴う物ではない。ただ食べさるだけなのだから。
ここで時間を使うと、まるで私が恥ずかしがって緊張しているみたいじゃない。もう十七歳だしこんなこと平気よ。平気。
自分にそう言い聞かせながら着々と「あ〜ん」の手順を踏んでいく。
フォークで突き刺したケーキを一真の口目掛けて垂直に差し出す。写真を撮られているので出来るだけ平常心で顔に出さないように心がける。こんなことで照れている初心な女と思われないように。
その見せかけの平常心を、何度もシャッターのカシャっという音とフラッシュが妨害してくるが、負けじと心を保ちつつ遂にケーキは彼の口元へと到達した。
それを一真は照れながら口に運ぶ。他人に食べ物を食べさせてもらうなんて記憶のない赤ん坊の頃以来だろう。
姫乃はこれまで以上に顔を赤くしており、それをフォークを持った右手と反対の左手で頬杖を付いて隠そうとしている。
必死に、ケーキと姫乃の目線が合わない絶妙な一点を見つめて照準を合わし、口を開けてケーキをフォークから奪う。
パシャ
人生で最も他人に見られたくない瞬間は、カメラによって永遠に刻まれてしまった。
そして最悪なことにいつの間にか店内に入店していた陽斗、そして結菜にその瞬間を目撃されており、口に入れた瞬間に「お〜!」という謎の歓声が二人から上がった。
一真は一番見られたくなかった陽斗にその瞬間を見られてしまったことから、顔を合わせずに下を俯いて口の中にあるケーキを咀嚼していた。
すると肩に手がポンっと伸びてきて背後に立った陽斗が悪魔のような笑みを浮かべながらこう話す。
「別に口に運ぶフリで良いって言われてたのに本当にやるなんて大胆だね〜」
「「はぁぁあ?」」
思わず一真と姫乃は同時に大きな声を上げる。そして二人は陽斗の発言の真意を確かめるため、胴体そのまま顔だけ九十度回転し、カメラマンの方を見つめる。
「一応、フリでも良いとは言ったけど本当にやってくれても構わなかったよ。それに、お陰でいい写真が撮れたし」
そう言いながらカメラマンの首元にぶら下がっている一眼レフの液晶画面をこちらに向けてきた。画面には、頬杖を付いて照れながらフォークを差し出す姫乃と、それをぎこちないような慣れない表情で受け取ろうとしている一真が写っていた。
「まさにツンデレ姫乃と初心な初デートだね」
姫乃の背後から結菜が勝手に写真にタイトルを付けた。それに対して姫乃は「もう!」と怒っているが、一真はツンデレ姫乃という表現に妙に納得してしまった。
人通り弄られた二人は、残ったケーキと冷めかけのコーヒーを急いで口にする。
「なんなよ全く」と姫乃は怒った表情でケーキをバクバクと次々に口に運んでいく。
そのフォーク、さっき俺の口に入ったやつなんだけど・・・と一真は思ったが、それを指摘すればただでさえ羞恥で赤面している彼女にトドメを刺しかねない、と自重した。
喫茶店を出ると時刻は午後三時前、次に向かう場所が最後のようだ。
「さて、次の取材のタイトルは・・・”午後のアフタヌーンティーでドキドキリラックスタイム”です」
このカップルはまた食って飲んでリラックスして喋るのかよ。しかもなんだよドキドキリラックスタイムって。心拍数上がってたらリラックスもクソも無いだろ。
これまで”あおぞら”という雑誌にしっかり目を通したことは無かったが、今度から見てみることにしよう。
三連続飲食デートが確定した一真は、こっそりベルトの紐を緩めた。
車は再び数分走ると、久松公園という元々鳥取城が聳え立っていた山の麓に造られた芝生を基調とした公園に到着した。既に城は解体されてしまったが、石垣が当時のまま保存されており元々城が立っていた痕跡が窺えられる。
そんな歴史ある公園には県立の博物館が併設されている。そこのカフェでテイクアウトをして、購入した商品を芝生の上で食べるらしくカフェからはテイクアウト用の紙袋を掲げたスタッフさんが慌ただしく走って準備が進められる。
背後に大きな木を背景にして、それにもたれかかってリラックスしながら談笑する写真が撮りたいとのことで、一真と姫乃はそれぞれ巨大な木の幹にもたれかかる。
そして先ほど紙袋から手渡された透明な容器がカメラからよく見えるように手に持ち、自然な作り笑いを作ってカメラのシャッター音が収まるのを待ち続ける。
カメラマンは、いろんな角度から二人を撮るが、どうも笑顔が不自然で中々納得できる写真が撮れなかった。そこでこう指示を出した。




