気まずい生徒会
「えっと〜これから生徒会の会議を始めます」
選挙から一週間して生徒会が発足、今日からは二ヶ月後に控えている体育祭に向けていろいろ準備をすることになっている。なっているのだが・・・
会議室などで使われる長机とパイプ椅子が長方形に置かれた普段使っている教室よりも一回りほど小さな部屋、一真と向かい合って反対側に座っているのは惜しくも生徒会長選挙で次点となった浦木姫乃、そして姫乃の友達で内申点目当てで入部した湯沢結菜だ。
二人は高校一年生からの友達で仲良さそうに二人並んで座っている。
「その前に」
一真の進行を姫乃が遮った。
「生徒会長が掲げた公約はどう実行されるおつもりですか?」
姫乃は生徒会長になれなかった恨みを皮肉で包み込んだつもりだが、その言葉はストレートに正面に座る一真に突き刺さった。
「えっと・・・それは・・・考えます・・・」
一真は狼狽えたように、言葉を濁して下を向く。
その様子を見た二人は、仕返しが出来て嬉しいのか満足げな表情を浮かべる。
一真はこの後どうしたら良いか分からず黙り込んでしまい、姫乃と結菜も私たちは関係無いと長い髪の毛の毛先を指でクルクル回しながら一真が何か喋るのを待っていた。
一真が何か喋ろうとした時、扉がガラガラと音を立てて開き、静かな部屋に響き渡ったその音に三人は目線を向ける。
入室してきたのは陽斗、一連の事件の犯人だ。
陽斗は一連の責任を取って生徒会に入部、書記というポジションを与えられた。
更なる火種の入室に部屋の空気は一層険しくなるが、陽斗はそんなの気にしないと言わんばかりに一真にあるものを手渡した。
「先生から、生徒会長の証。絶対一年間無くすなよって」
山下高校生徒会では伝統として生徒会長には金、生徒会副会長には銀のネックレスが付与される。
一真は受け取ったネックレスを首に掛けると金属の冷たい感触と純金の重さが首に伝わる。
本来であればこの重みは生徒会長の責任の重みだと噛み締めるところであるだろうが、一真には生徒会長にふざけて当選してしまった罪の重みに感じた。
陽斗は姫乃にも銀のネックレスを手渡した後にこう忠告した。
「一真のそれ、無くしたら弁償百万円らしいから肌身離さず持っとくようにってさ」
マジか、今日から一年間は文字通り百万円の賞金首として生きて行かなければならないらしい。
ちなみに金のネックレスは百万円だが、銀のネックレスは十万円らしい。こんな高価なもの生徒に持たせるなよ。
ネックレスを貰ってからしばらくすると、生徒会担当の山下先生が駆け足で生徒会室に入ってきた。
「いや〜すまんすまん、ちょっとお腹を下して」
体育教師みたいな見た目なのに担当は数学の山下高校の山下先生は額の汗を拭いながら生徒会室に足を踏み入れた。
山下先生は慌ただしく手に持ったプリントを手渡すと、腕時計に目を通してから手短に説明を始める。
一真は手渡された紙の表題に目を通す。そこには「雑誌取材協力のお願い」と記されていた。
「今度、地元の広報雑誌を発行しているところから取材依頼が来てな、是非ウチの生徒会長と副会長にお願いしたいとのことだ」
配られた紙には雑誌名が記載されていた。「あおぞら」と言うこの辺の地域住民に無料で配布されるミニ雑誌である。ローカル情報がメインであり、家のポストに投函されることから一真も具体的な内容まで覚えていないも、雑誌名については聞き覚えがあった。
「今回の企画は"この春オススメ高校生デートスポット"」
ガタイの良い中年おじさんから発せられたアオハルな言葉にその場にいた生徒四人は先生の方を見つめる。
てかなんだ高校生オススメデートスポットって、もしかして生徒会長すなわち俺と副会長、すなわち浦木姫乃が地元の広報雑誌でデートスポットを紹介しろと、この中年おじさんはそう言ってるのか?
一真は先生の言っている事の真偽を確かめるために配られた紙を高速で読み進める。
紙を両手で持ち、目線が左右交互に高速に動いているのは一真だけではなく姫乃も一緒だった。
ーあんな最低ウケ狙いクソ男と一緒に雑誌に載るなんて、ありえない!
姫乃も必死に、丁寧な枕詞を添えて書かれた紙を読み進める。
先に本文を見つけたのは一真だった。
「是非山下高校の生徒会会長様、並びに副会長様に取材にご協力いただければと思い、ご提案させていただきました」
ご丁寧にご丁寧な文書が長々と記されていた。要約すると「イマドキ高校生の休日デートプラン」という内容の記事を今週の土曜日に撮影したい、とのことだった。
「そういうことだから、土曜日の十一時に生徒会室集合な」
山下先生は、そう言うと教室を後にした。すでに部活動が始まっている時間で生徒会と兼任している柔道部に顔を出すそうだ。
まさに嵐の後の静けさが生徒会室に訪れた。
一真は何か誤りがあるのでは無いかと未だに必死に配られた紙の隅々まで読んでいる。
姫乃はポカーンと魂が抜けたような顔をしていた。
その中で今回の件で部外者となった山崎陽斗、そして湯沢結菜は二人の様子を見てニヤニヤしていた。
そして一瞬だけ、二人の目が合った。その瞬間、陽斗と結菜は一瞬にしてお互いの意思疎通を行った。
利害が一致した二人は良からぬ企みをするのだった・・・




