結婚しているのに、もう一度求婚されました。【2000文字】
「セレーナ、私と結婚してほしい…!」
旦那様は大きな薔薇の花束を抱えて、私の目の前で跪いた。
結婚って、私たちもう結婚していますよね…?
旦那様は貴族であり、軍人であり、数年前の隣国との戦争にて武勲を上げたすごい方だ。
その旦那様は、1年前の今日、私と結婚したはずなのだけれど…。
意味がわからずに首を傾げていると、旦那様は気まずそうに言った。
「私は、この1年、あまり夫としては君に何もしてあげられなかった…」
「そんなことございません!恙無く暮らせたのは、旦那様のおかげですっ!」
「だが、まともに君と過ごせなかった…」
「だってお仕事が忙しいのは、旦那様のせいではないでしょう?」
戦争が終わったからと言って、すぐに平和というわけではない。
この国の軍人全員が、寝る暇もなくあちこちに派遣されているのは、誰もが知っていることだ。
「それに、君は無理やり私と結婚させてしまったし…」
「私は納得してこちらに嫁いできました。そんなこと言わないでくださいませ」
旦那様が私の言葉に目を見開いて、困ったように苦笑いした。
社交界では、私たちの結婚は不釣り合いだと今でもよく言われている。
主に私が辛辣な物言いで接せられているが、他の方が知らないことが一つだけある。
それは、私たちの結婚が王命だったということだ。
旦那様の顔には、横一文字の大きな傷がある。
戦争にて負った傷だったが、普通のご令嬢からしたら怯えるものだったらしい。
旦那様はこの国にとって必要な人材だが縁談に苦戦し、侯爵家の嫡男に嫁がいないのは問題でもあり、密かに王命が降った。
私が選ばれた理由は、傷に怯えるわけのない軍人の娘だったからだ。
あの傷だけで、まるで恐い人かのように囁かれていたが、実際はそんなことなかった。
このように薔薇の花束を持って、この1年のことを不甲斐なく思い、私の様子を伺いながらオロオロしている人が、恐いわけがないのだ。
周りで見ている使用人も、にこやかに微笑んでいる。
きっと、旦那様のこの計画を知っているんだろう。
だったら、妻としてとことん受け入れましょう。
私は跪く旦那様の頬を包んで、傷のある鼻の付け根に唇で触れた。
「…っ!?」
「旦那様。例え1年前に戻ったとしても、私はこの結婚をお受けしますよ」
私が笑うと、旦那様はさらにオロオロした。
旦那様は、女性に対して免疫がない。
私からキスされるなんて、思ってもみなかったのだろう。
そんな可愛くて、強くて、不器用な旦那様が、私は好きなのだ。
「他の誰にも譲ってあげません。ですから、私でよければぜひ結婚してくださいませ」
そう言って、旦那様から薔薇の花束を受け取った。
これで納得してもらえるのなら、何回でも「はい」と返事をしよう。
「…セレーナはかっこいいな」
「旦那様の方がかっこいいです」
「そんなことを言うのは、セレーナくらいだ」
「でしたら、皆さんに旦那様の魅力がバレていなくてよかったです。私が独り占めできます」
「…っっっ」
旦那様は顔を真っ赤にして、両手で覆った。
やっぱり可愛い。
「奥様、花束をお預かりしますね」
「ありがとう」
こんなに大きな薔薇の花束を旦那様が用意してくれたかと思うと、口元がにやける。
私はすっかり空いた両腕で、まだ跪いている旦那様を抱き締めた。
「セレーナ、あの…」
「旦那様も私と結婚されたいのでしたら、抱き締め返してくださいませ」
「…」
「ふふふ、私旦那様に抱き締めてもらうのが好きなんです。知っていましたか?」
そう言うと、旦那様は素直にギュッとしてくれた。
うん、やっぱり可愛いわ。
「セレーナ、私は結婚式でさえまともにできなかった」
「あら、結婚式はきちんとしたではありませんか」
「…晩餐は君ととれなかった」
「緊急で王城に呼ばれたのだから、仕方ないではありませんか」
「それでも、私は…。だから、今日せめてやり直させてくれないか?」
大きい体が嘘みたいに、子犬のような瞳が私を見上げている。
旦那様が他の方と結婚していなくて、本当によかった。
こんな可愛い人、私は他に知らない。
「もちろんです、旦那様。あなたと過ごせるなら、これほど嬉しいことはないです」
旦那様は私の許可が取れると、ヒョイっと抱き上げた。
「わっ」
「もう用意してもらっているんだ。セレーナが喜んでくれるといいのだが…」
そのまま、お姫様抱っこで食堂へと歩いていく。
その顔が内緒でプレゼントを用意して企んでいる子どもみたいで、笑ってしまう。
夕食は、結婚式のあとに旦那様と食べるはずだった晩餐のメニューと同じものを、今の旦那様と食べた。
寝室のベッドには、旦那様がくれた薔薇がたくさん舞っていた。
「そういえば、私たち結婚初夜はしませんでしたね」
「…っ」
旦那様は、緊急で呼ばれて帰ってきたのは翌々日だった。
「せっかくですし、それもやり直しますか?」
「…セレーナ、先に言わないでくれ」
薔薇よりも顔の赤い旦那様を、私は手を引いてベッドに連れていくのだった。
了
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