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第9話 幼馴染はハンドクリームが余るとわけてくれる

「今回は、恋人らしい写真を撮りたいと思ってるんです」


 食後。

 生徒会室にて。

 俺は深怜那(みれな)から恋愛相談を持ちかけられていた。


「写真か。なんでまた」

「実は志乃(しの)さんと佳詩(よしか)さんに朝陽との交際を黙っていてほしいと話したら、「代わりに私たちには色々聞かせてほしい」と言われてしまいまして」


 深怜那は困った顔で事情を説明する。

 昨日、昇降口であった時の印象だけで語るなら、深怜那の友人たちは完璧お嬢様の恋愛事情に興味が尽きない様子だった。

 

「それで色々聞かれる中で、俺との写真を見たいと言われたとか?」

「はい。ですが恋人らしい写真なんてなかったので、ひとまずは以前から撮っていた朝陽(あさひ)の写真を見せて乗り切りました」

「俺の写真なんて、いつの間に?」

「ふとした瞬間に撮っていました。例えば、これとかですね」


 深怜那は俺にスマホの画面を見せてきた。

 家での写真や通学中の写真など。

 深怜那は画面をスクロールして、様々な俺の写真を見せてくる。

 けっこう多いな。

 基本的には俺だけが映っているようだ。

 料理をしている姿や、読書や勉強中の様子。

 そう言えば撮られたかもしれない、と思い返せるような写真が多かったが。

 中にはどうも身に覚えのない、明らかに俺の意識外から撮影したようなものが混じっていた。


「あれ? 今寝顔とかなかった?」

「あっ。気のせいです」


 深怜那はスマホの画面を消した。

 ごまかすのが下手すぎやしないか、完璧お嬢様。

 

「もしかして、俺が昼寝している時に写真撮ったりした?」

「その……かわいらしい寝顔だったのでつい」

「ツッコミどころの多い弁明だ」


 俺がかわいらしいというのはよく分からないし。

 つい、って。

 もはや開き直ってないか?


「すみません……」

「まあいいけど、次からは許可を得てくれ」


 深怜那に撮られること自体は、別にそこまで気にしていない。

 俺の写真を集めて何が楽しいのかは、よく分からないけど。

 

「はい!」


 深怜那の顔が、途端に明るくなった。


「ではさっそく、恋人らしいツーショットの写真を撮りたいので協力してください」

「分かった。それじゃあ、今から撮る?」

「快諾してくれるのは大変ありがたいですが……」


 深怜那は何か言いたそうだった。

 ふむ。

 どうやら今この場で撮りたいわけではないらしい。


「……どこか別の場所で撮りたいんだ?」

「はい。どうせなら私たちらしい場所に行って撮影したいと思いまして」

「俺たちらしい場所か。よく一緒に過ごしているのは、俺の家だよね」 

「いい選択ですが……あそこは私たちにとって、「日常そのもの」みたいな場所でしょう?」


 どうやら深怜那の望む答えは他にあるらしい。


「つまり、日常とは違う特別感のある場所に行きたいんだ」

「はい。せっかくなら、映える場所に行ってみたいです」

「映える場所か……」


 俺はあまりインスタはやっていないので、すぐには思い浮かばない。

 写真映えして、なおかつ俺たちらしい場所。


(俺たちらしさと言えば……)


 二人とも読書好きだ。

 あ、そう言えば。


「深怜那って、前からブックカフェに行きたいって言っていたよね」

「はい……!」


 深怜那の表情が分かりやすく変化した。


「その店に行く?」

「はい。朝陽は察しが良いですね」


 深怜那はそう言うが、あれだけ誘導されたらさすがに分かる。

 だがその回りくどいとも言えるやり取りに、俺は不思議と居心地の良さを感じていた。

 深怜那の笑顔を見ていると、答えたくなる。


「行き先は決定だな。いつ行く?」

「できれば今日行きたいのですが、朝陽は大丈夫ですか?」

「ああ。問題ないよ」

「では、放課後にお願いします」


 深怜那はそう言いながら、ハンドクリームを取り出した。

 最近寒くなって乾燥する時期になってきたからな。

 深怜那は完璧お嬢様とか美少女と言われるだけあって、美意識が高い。

 いや、女子なら普通なのか……?


「八事坂の上の方にあるお店に行きたいと思っているんですよ」


 深怜那はハンドクリームを自分の手に塗りながら、話す。


「あの辺って住宅街のイメージだけど、ブックカフェなんてあるんだ」

「はい。住宅街の中にひっそりと……あ」


 深怜那はクリームを塗るためにすり合わせていた手を、ぴたりと止める。


「どうした?」

「朝陽、手を出してください」


 俺は言われるがまま、深怜那に向けて手を差し出した。


「余ったのであげます」


 深怜那は俺の手を両手で掴んだ。

 そのまま、優しく包み込むように握られて、クリームを塗られた。

 さするように、撫でるように。

 

「……」

「……」


 それにしても、長いな。


「……いつまで続けるの?」

「あ、すみません……!」


 深怜那はそそくさと手を離した。 


「こほん。ところで朝陽、何か気づきませんか?」


 深怜那は胸を張って、俺に向き直った。

 言いたいことは分かる。

 深怜那の首元に光る、銀色のアクセサリー。


「ペンダントのこと? 着けていたのには気づいていたよ」

「そうですか。気づいてくれていましたか!」


 それよりも相談優先かなと思っていたから、いつ触れるか迷っていたが。

 何より、恋愛相談で聞いてきたということは、触れてほしい人は別にいるはずだ。


「ペンダントをつけてみて、手応えはあった?」

「さて、どうでしょう……朝陽はどう思いますか?」

「どうって?」

「これを着けている私を見た感想を、教えてください」


 銀色に輝くペンダントは落ち着いた雰囲気のデザインだ。

 小さいが、どことなく高級感が漂っている。


「さりげないけど、主張しすぎない程度の存在感があっておしゃれに見えるよ」

「おしゃれに見えますか……!」

「ああ。深怜那にぴったりだね」

「ふふ。そうでしょう?」


 深怜那は機嫌を良くして、いっそう胸を張った。

 この仕草は、他の男子の前では見せない方が良さそうだ。


「では朝陽。先ほどの質問に答えます」

「質問って……ああ、手応えの話?」

「はい。手応えはありました!」

「あー、それは何よりだな?」


 俺としては深怜那の恋に進展の様子を感じないが、当の本人は違った。

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