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第6話 幼馴染と二人だけの秘密

 翌日、学校にて。

 午前中の休み時間に、俺はクラスで仲の良い友人と話していた。


「そう言えば朝陽(あさひ)、『金髪幼馴染は僕にだけだけデレる』読んだか?」


 俺の前に座る友人、大橋(おおはし)孝典(たかのり)が振り返った。

 中学時代からの付き合いで、ふくよかな見た目通り、温厚な性格をしている。

 ライトノベルやアニメ、ゲームが好きなオタクだ。


「あのラノベなら、三巻まで読んだよ」

「『金デレ』良かっただろ? 人前では高嶺の花って感じのヒロインが、主人公の前ではデレデレしてさあ」


 最近、孝典が一押ししている作品だけあって、語り出すと饒舌になる。


「まあ、コミカルな感じでラノベとしては面白かったよ」

「なんだそのカッコつけた感想は。もっと性癖に素直になれよ」

「俺はキャラが好きになると言うよりは、ストーリー重視派だから」 

「まあそういう奴がいるのは分かるけどさ。実際面白いし。知ってるか? 『金デレ』はもうすぐアニメ化するんだぞ」 

「へえ。それは良かったな」


 好きな作品がアニメ化されるなら、孝典としても喜ばしいだろう。


「あー、オレの近くにもあんな美少女いないかな」

「アンタ、またくだらない妄想して……」


 俺たちの元に、呆れた様子でとある人物がやってきた。

 天南(あまな)胡桃(くるみ)

 黒髪に水色のインナーカラーを入れた髪、耳にはピアスと派手な外見をした小柄な女子だ。

 五年ほど前からネット上で孝典と交流があり、高校からはリアルでも行動を共にするようになったらしい。

 俺とは共通の友人である孝典がきっかけで、関わるようになった。

 胡桃もオタク趣味の持ち主ではあるが、どちらかと言えばゲーマーだ。


「ラノベかー。男向けのラブコメは読んだことないなあ」

「まあ、女子だとなかなか自発的に読もうってならないか。この機会に読んでみたらどうだ?」


 孝典が納得した様子を見せつつ、布教を始める。


「ふーん? じゃあ朝陽、貸してよ。ウチも読んでみる」

「悪いが無理だ。俺の手元にあった本は他の人に貸した」

「他の人って、誰?」

「……まあ誰でも良いだろ」


 はぐらかす俺を見て、胡桃はニヤッと笑った。


「なーんか怪しい。朝陽って、そんなに顔が広い方じゃないでしょ? ウチら以外にオタクの友達なんていんの?」

「別にオタクじゃなくてもラノベを読むことはあるだろ」

「まあ、そうかもしれないけどー? やっぱ、なんか隠してる気がする」


 胡桃はこういう時、勘が良い。

 その間にも、孝典は妄想に耽っていた。


「ハア……オレにも美少女の幼馴染がいたら」

「まだ言ってんの? いてもアンタじゃ何もイベント起きないでしょ」

「辛辣だな。まさか嫉妬か?」

「は?」

「すいません」


 睨みをきかせる胡桃の前で、孝典の大きな体が縮こまった。


「美少女の幼馴染とどうにかなりたいって言うなら、それこそ今噂の二人とかじゃないと」

「噂の二人ってもしかして、サッカー部のエースと生徒会長の話か? でもそれと幼馴染に何の関係が……」


 まさか二人の口から、深怜那(みれな)(れん)の噂について話題が出てくるとは。

 クラスの端で駄弁るオタクでも知っているくらい、あの二人は校内の有名人ってわけだ。


「あの二人、小学校が同じなんだって」

「まさか、幼馴染だったのか……!?」

「らしいよ。本当に噂通りだとしたら、絵に描いたようなキラキラカップルって感じ?」


 胡桃はそう口にしつつも、どこか半信半疑といった様子だ。

 一方、孝典はふと俺を見た。


水上(みかみ)深怜那とは、朝陽も幼馴染だったよな? 確か恋愛相談に乗っているとか言っていたけど……実際のところどうなんだ?」

「もしかして、それが成功したってこと?」

「あー……いや、なんて言えばいいのかな」


 俺は説明に迷った。

 偽装恋人になった、という話は伏せた方がいいだろう。


「深怜那本人の話によると、蓮とは付き合っていなくて、他に好きな人がいるらしいんだ」

「他に好きな人ねー……まあ、サッカー部のエースが相手じゃないってのは納得かも」


 胡桃は何やら、訳知り顔だ。


「どうしてだ?」


 胡桃は俺に恋愛相談をする目的で教室にやってきた深怜那と、何度も顔を合わせている。

 もちろん相談をこの場でするわけではない。

 深怜那はよく俺を訪ねてきて、別の場所に連れ出す。


「あの人が朝陽に会いに来る時、ただならぬ気配を感じるんだよねえ」

「ただならぬ気配って、つまり?」

「生徒会長は、朝陽が好きなんだと思う」


 胡桃は思わぬ言葉を口にした。


「いや……俺に恋愛相談をしている以上、それはないだろ?」


 俺と深怜那は幼馴染だ。

 それ故の信頼を実感する機会は、あるけど。

 あれを恋愛感情だとするのは、あまりに今の状況とズレている。


「んー、でもな。なんか勘ぐりたくなる気配が出てるんだよね」

「勘ぐりたくなる気配って……なんだよ」 

「や、それは言語化しにくいんだけどさ」


 俺の疑問に、胡桃は歯切れの悪い答えを返す。


「よく分からない奴だな」

「あ、例えばさ。生徒会長の恋愛相談は、実は遠回しなアプローチだったりして」


 胡桃は閃いた、とばかりにそう口にする。


「その可能性は……低いんじゃないか?」

「まあ、向こうの意図はともかくさ。実際、朝陽は自分の幼馴染のこと、どう思ってんの? 主に、恋愛的な意味で」


 胡桃から投げかけられた、素朴な疑問。


「どうって……」

 

 俺は考える。

 幼馴染である深怜那のことを、どう思っているのだろう。

 主に、恋愛的な意味で。

 好きなのか?

 と聞かれたら、好きだ。

 長年付き合いのある幼馴染を、嫌いなはずがない。

 しかしそれが恋愛感情なのかと問われたら、分からない。 

 そもそも、恋愛感情ってなんだ?

 深怜那の相談に乗っていた間も、ずっと悩んでいた。

 恋とは、何なのか。


「……」


 胡桃(くるみ)からの問いに、俺は答えが出てこなかった。


「案外、朝陽(あさひ)と生徒会長って、お似合いだと思うんだけどねー」

「おい。オレたちみたいなオタクに対して、恋愛フラグがあるかのような期待を持たせるなよ」


 胡桃の言葉に、孝典(たかのり)が自嘲気味に言う。


「いや。アンタと朝陽じゃ話が違うでしょ」

「なに!?」

「それに生徒会長だって、なんとも思ってなかったら毎週のようにこのクラスに来なくない?」

「確かに、あの生徒会長がよく朝陽に会いに来るのは否定しないが」


 二人はそんな考察をする。


「会いに来るって言っても、あくまでも幼馴染だから」

「でも、実はお互いの家が隣どうしで、家族ぐるみの付き合いがあったりするんじゃない?」

「それはまあ、あるけど」

「あるのかよ……!」


 胡桃の質問に答えていたら、孝典が身を乗り出してきた。


「まさか、お互いの家に入り浸っていて、どこに何があるのか知り尽くしていたりとかはしないよな!?」

「それも大体合っているけど」

「おいおいマジか……!」


 孝典が驚愕していた。


「じゃあ……二人きりの時は、小さい頃からのあだ名とか愛称で呼び合っていたりとか?」


 胡桃がさらに追及してきた。


「さすがにそれはないな。俺たち、高校生だぞ?」

「そ、そうだよな……」


 なぜか孝典は安堵していたが。


「いや待て。『高校生だぞ』ってことは、まさか小さい頃は?」

「そうだな。昔は二人しか使わないような呼び方があった」

「ああああー!」


 孝典は叫んだ。

 さっきから様子がおかしいぞこいつ。


「二人だけの呼び方って、どんな感じ?」

「……それは言わない」


 小さい頃の呼び方なんて、今更口にするのはなんというか、照れくさいし。

 何より、二人しか使わない呼び方を他人に教えてしまうのは、深怜那に悪い。


「じゃあさ。それだけ仲が良いなら、小さい頃に結婚の約束とかしてないの?」

「さすがにそれはないよ」


 お嫁さんごっこ、と称しておままごとみたいな遊びはよくやっていた気がするが、実際に何かを約束した覚えはない。


「でも、キスくらいはしたでしょ?」

「あー……ノーコメント」


 あの事故のような小さい頃の出来事を、他人に言うつもりはない。

 あのキスは、俺と深怜那だけが知っていればいい。


「うわ。絶対これなんかある。じゃあさ——」


 胡桃は俺の答えを聞くまでもなく、確信していた。

 自ら止まることを知らない胡桃だったが。


「その辺にしておけ。オレたちみたいな日陰者をはやし立てて、勘違いだった時が悲惨だろう?」


 孝典が真面目な調子で、止めに入った。


「そうかもしれないけど……なんか、やけに実感がこもった言い方じゃない?」

「それは気のせいだ」

「アンタまさか、そんな経験が……」

「ちなみにオレの実体験ではないぞ」

「じゃあ誰の……?」


 胡桃が孝典の言葉を気にしていた、その時。

 休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「さあ、次の授業だ。席に戻るといい」

「なーんか、腑に落ちない感じ」


 胡桃は渋々といった様子で自分の席に戻っていく。


「助かったよ、孝典」

「おう。気にするな」


 孝典は中学時代の俺が巻き込まれた出来事を知っている。

 だからさりげなく、フォローしてくれたのだろう。


「だけどキスの件は詳しく聞かせろ。事と次第によっては許さんぞ」

「別に、孝典の許しは求めてないからいいよ」


 友人の追及を俺は軽口でかわした。


 授業が始まる中で、俺は改めて考える。

 深怜那とは、あくまでも幼馴染だ。

 そう分かってはいるのに、何か引っかかる。

 はたして、俺は。

 いざ本当に深怜那が他の誰かと付き合うことになった時。

 どう感じるのだろう。



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