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どんな願いも叶える猫

願いを叶える猫と、呪われた王子

掲載日:2025/12/19

どんな願いも


何度でも


代償なしで叶えるにゃ!


ただしちょっと気まぐれだよ

いつもの犬の散歩道。

夕方の空気は少し湿っていて、首輪の金具が歩くたびに小さく鳴る。


「ヤバ、ペットボトル忘れてきた!」


足もとには、ついさっきこの子が残したオシッコ跡。見なかったことにするには、良心が元気すぎた。


「それなら任せるにゃ」


声がした。

ガードレールの上に、猫が一匹。口元だけ白いキジトラの、やけに自信ありげな顔。


「なんでも願いを叶える猫だよ」


「えー、かわいー。喋った!」


「オネーサン、願い事ない?」


「あるある。ちょうどよかった。この子のオシッコ跡、ちょっと水で流してくんない?」


猫の瞳が金色に光った。

次の瞬間、跡は跡形もなく消えていた。


「すっごーい、ありがとう!」


「ふふん。“どんな願いも叶える猫”だよ。今だけだよ? もっと凄い願いを言うにゃ!」


私は少し考えた。


犬の頭を撫でると短い毛越しに体温がじかに伝わってくる。

大きな耳がぴくぴく動き、つぶれた鼻がふごっと鳴った。

この重みと熱と、少し不器用な呼吸が、当たり前であってほしい。


「このコと、これからも楽しく暮らせますように!」


また、金色の光。


「その願いは叶えられた」


……でも、何も変わらない。


「もう叶ってるにゃ」


猫はそう言って、散歩についてきた。

犬と猫。

二匹の間に、不思議な沈黙が流れる。


ほどなく猫はいなくなり、犬はやけにご機嫌だった。


+++


オレは異界の王子だ。


王子のくせにオシッコしたり、鼻をぷごぷごさせたりするなって?

仕方ない。生理現象なのだ。


呪いで犬の姿にされこの世界にいるが、条件を満たせば元に戻れる。

犬の姿でも心から愛してくれる人間がいたら、帰れる。


だから、あの猫に頼んだ。


彼女の本当の気持ちを、確かめてくれと。


「確かめた! じゃ、完了するね?」


猫の金色の瞳が輝く。

願いは叶えられた。


結果、彼女はオレを愛している。

でも王子としてじゃない。

ただの犬として、家族として。


ま、現実は、だいたいこんなものだ。


つまりオレは帰れない訳なんだが、少しだけ残念で、でも悪くない。


「帰りたくなったら呼んで。気が向いたら叶えてあげる。」


そう言って猫は、するんと路地に消えた。

呼ばれて来るタイプでもないくせに。


オレは挨拶がわりに短いしっぽを振る。

だけどオレは当面、ここでいい。

ここがいい。


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