31話 貴族の世界は面倒くさい ~成功の駄賃~
あれから数日経ち、今日は闇の月、後節三十日。
新年が明日に迫ったその日は、街のあちらこちらで雪が降っているにもかかわらず、祝いの品が売られている。
雪の中でも露店の周りだけは賑やかで、焼き菓子や香木の匂いが混ざっていた。
ノックスたちも、今日は大忙しだ。
どうやら、作戦はうまくいったらしい。
先日、追加注文のためにフレデリカの使いが再び来たらしく、朝早くから商会の倉庫へ出かけて行った。
商品を卸した翌日、講義中のフレデリカはご満悦の様子だったし、あちらも順調なようだった。
わたしたちはというと、役所へ向かう途中でチラチラと店先を覗いては、祝いの雰囲気を、お父さんとエステラの三人で味わっていた。
「街はこんな感じなんだね」
「そっか、初めてよね」
「よしっ! 欲しいのがあったら買ってやるぞ?」
お父さんが、興奮気味なわたしにプレゼントをしてくれるという。
……何にしよう?
飾りを付けた露天商の品を、あっちこっち覗いて、ふと店先に並んだキラリと光る石に目を奪われる。
その淡い紫色の光が、記憶の中の少女を思い出させた。
「なかなか良い目してるね。お嬢ちゃん」
「これ、なんですか?」
「これはな、元リックナー領で取れた鉱石を削った物だ」
「希少なんですか?」
「価値は正直、未知数だ。魔素が濃くてな、鉱石が変異しちまったんだよ。危険な物じゃない」
「未知数なのに、この値段?」
……銀貨三枚。それなりの値段だけど。
「使い道が無くてね。装飾ぐらいにしか使えねぇんだ」
装飾に使うなら、もっと綺麗な発色の物を使うはず。
だから他の石よりも安値なのだろう。
「お父さん、これがいい」
「わたしはこれかなぁ」
エステラも、ちゃっかりおねだりしている。
「可愛い娘に免じて、もうちょい安くならないか?」
……娘の前で値切るとは。
商人は指を四本立てて、笑顔で応じた。
「いいぜ、毎度ありっ」
手に取って光に当てると、キラキラと淡い紫色に光る石。
なかなか綺麗だ。
エステラも、淡い赤色が特徴的な石を選んで手に取った。
「お父さん、ありがとう」
「父さん、ありがとう」
「おう」
役所前に到着すると、お父さんと別れ講義室に向かう。
役所も新年を前に忙しいのか、受付には普段よりも人が多く、どこの部署も役人が走り回っていた。
本日の講義も終了して、わたしは気になっていた石をゴソゴソと鞄から取り出して、所長に見せた。
「所長、この石って何かわかりますか?」
わたしは露天で買ってもらった石を見せる。
「変異しているな。これはどうした?」
石を光にかざしている所長に、わたしは露天で聞いた内容をそのまま伝える。
「エステラも、買ったのか?」
「はい。これです」
所長は、二つの石を見比べて考え込むと、やや間があって「私に一日預けてみないか?」と、提案してきた。
わたしたちはお互いの顔を見合わせて、首を傾げた。
大丈夫だとは思うが「壊さないで下さいね」と、念を押して所長に石を預けた。
「君じゃあるまいし……」
……そこで嫌そうな顔しないで下さい。
翌日、光の月、前節一日。
新しい年が始まった。
毎年のことなのでわかってはいたが、正月なんてものは前世のみの風習で、こちらの世界では特に大きなお祭りはない。
新年よりも、春を迎える祭りの方が豪華だったりする。
今日も頑張って講義を終えると、所長が預かっていた石を取り出した。
「これを、できるだけ肌身放さず持っていなさい」
渡されたのは、一回り小さくなった石を金の装飾が施された金属の縁で覆い、ペンダントのような形に様変わりした物だった。
「おわぁ~」
「へぇ~、綺麗」
角度を変える度に宝石のように輝く石に、わたしたちは感嘆して見惚れた。
「いいんですか? これ」
「こら、ルル、言葉!」
「かまわん。分析した駄賃のようなものだ」
「「ありがとうございます」」
二人で、互いの首に首飾りをかける。
気になる言葉を聞いた気がするが、気にしたら負けな気がする。
今は深く考えてもしょうがないので、素直に喜んでおこう。
所長も、新年を迎えて新たな気持ちで頑張れと、応援しているに違いない。
いや、違いないと思いたい!




