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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
一章    増える秘密と広がる波紋          

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28話  冬の授業 ~始めよう作戦会議~


 対策会議を終え、所長の屋敷をあとにする。


 わたしは三の鐘が聞こえる帰りの馬車の中で、今後の説明をエステラに伝える。

 

 今回は至ってシンプルだ。

 特に隠すような部分がない分、説明しやすかった。



「追求されたら、まぁ、しょうがないか」

「髪の艶が気になったらしくて、バレちゃってさ。なら、紹介は出来ないが、引き合わせてやるって。後は、わたしたち次第だってさ」

「ルルが商品に関わっているのが、バレなきゃ平気でしょ。それ、兄さんにも伝えた方がいいんじゃない?」


 エステラには、聴取の最中、髪の艶を言及され、商品の秘密を話してしまったと伝えてある。

 わたし的には、貴族の命令には逆らえない完璧な作戦である。


 ただし、所長のイメージダウンは免れない。

 後々、回復させるので許して欲しいところだ。


「もちろん、お兄ちゃんに言うよ。商会にも利益がありそうだし」


 ……商品関係は、お兄ちゃんに協力してもらわないとね。


「それにしても、後ろ盾を引き合わせるねぇ……あの所長、なんか企んでない?」

「……そうかなぁ?」


 ……今後のためなんだけどね。こっちはこっちで、勘が鋭いなぁもぅ。



 ◇ ◆ ◇



 わたしたちは貴族街から戻る途中、ノックスに事情を説明するため、ジークにお願いして馬車でレント商会前へと送ってもらった。


 お店の店員にお父さんへの伝言を頼み、ノックスがいる倉庫へ向かうが、扉の前で異臭に気が付いた。


 わたしは咄嗟に「うげっ」と、指で鼻を摘む。

 エステラに顔を向ければ、こちらも「くさ~」と、鼻をつまんで苦い顔だ。


「兄さんの実験?」


 ……何か腐ってる? これは臭い。


「お姉ちゃん。生ゴミの匂いじゃない?」


 ゆっくりと扉を開けて中の様子を伺う。


 ……あれかぁ。


 おろし金の調整中だったのか、実験用の傷んだ食材が大量に桶の周りに並べられ、アイナと二人ですりおろしている最中だったようだ。


 匂いの原因は大量の傷んだ食材だろう。


「あっ! エステラ~、もうノックスを止めてぇ。試作品が届いてから、ずっとこの調子なんだよ~」


 ……なるほど。


「ねぇ、兄さん、話があるんだけど……」

「ステラっ! 見てくれ、これはいいぞっ!」


 アイナの代わりにガッチリと腕を捕まれ、エステラが捕まったようだ。


 ……臭いけど、頑張ってお姉ちゃん。


 まずは倉庫内を換気するために、暴走中のノックスに捕まったエステラは、そのまま放置する。

 窓を開けて回りながら、アイナに事情を説明することにした。


 大まかな説明はエステラにした通りで、あとは会長に話を通すかの判断が欲しいところだった。


「後ろ盾にならない可能性があるなら、期待させるのもねぇ……」

「やっぱりそう思う?」

「それに、会長には妹ちゃんのことは秘密だしね。商品に興味を持ってからの方が自然かな?」


 ……ああ、それもあったかぁ。うっかりミス回避。


「妹ちゃん、そっちのお願い」

「うん」


 持っていた箱から香木を手渡すと、アイナが手渡された香木に火を付けていく。

 この消臭の香木と呼ばれている物は、成分は知らないが非常に優秀で倉庫内の臭かった匂いがどんどん消えていく。


 無臭というわけではなく、前世でいうと炭の香りが一番近いだろうか。


 ……これ、いいね。匂いは消臭剤の炭の香りっぽい。


 というか、先にこれを焚いてから作業すればよかったのではと思う。


「それがね、食材運んでる時にはもう、鼻が慣れちゃってさ……書類持って来た人は酷い顔してたけど」


 ……なるほど。本人たちは慣れたというか、麻痺したのか。


「外からでも、すごい臭ってたよ」

「はぁ、だいぶ、マシになったかな。外にも注意しないとだね」


 わたしは「ふぅっ」と椅子に座って一息つくと、ぐるっと周りの様子を伺う。


 ノックスは一旦作業を止めて、一杯になった桶に粉末状の物をパラパラと投入している。

 エステラの方はというと、臭くなった体の匂いを消そうと踊るように香の近くで煙に巻かれていた。


 匂いも落ち着いた頃、大きな作業机の周りに集まって話の続きを始める。



「そうだね。まだ、会長には話さないほうがいいね。そこは、貴族が興味を持って接触してきたら考えよう」


 やはり、ノックスもアイナと同意見だった。


「ただ、石鹸だけだと……ちょっと不安かな」


 ……そうなの?


「兄さん、あの石鹸はすごいと思うけど?」

「うん。確かにすごい。でも、一つの商品だけで後ろ盾は得られないと思う。その後に続く何かが無いと、それを卸して終わりなんだ」

「ねぇ、ノックス。仮に貴族に石鹸が流行ったとして、こっちが後ろ盾を得られない場合、マズイんじゃない?」


 ……そっか。流行ってしまうと、他の貴族にも目を付けられるのか。その前になんとか。


「それもあって、保留だったんだけどね……状況は進んでしまったわけで」


 レント商会をこの先も手放すのは惜しいと、思わせないといけないようだ。

 そのためには、その先に続く商品をと頭を悩ます。


 ……貴族が欲しい物ってなんだろ?


 今ある商品を改良して、貴族に気に入られる物を作る。

 しかし、レント商会は元々、貴族向けの商品は作ってもおらず、ノウハウもない。


 エステラは腕を組んで唸り。

 ノックスはブツブツと呟き。

 アイナは人差し指を顎に当て、何か良い案はないかと、各々頭を捻って考える。


「お兄ちゃん、貴族が欲しがる物っていえば?」

「う~ん、名誉とお金かな?」

「兄さん、貴族ってお金を何に使うの?」


 ……どの時代も、お金は大事か。


「事業だったり、部下の給料や軍備費用、調度品とか装飾品……すぐに思い当たるのはこんな感じかな」


 ……商人から提供できるのは、調度品か装飾品かぁ。すぐには作れないよね。


 実のところ、ぬか石鹸はどれくらいすごいのだろうと疑問に思ったことはある。


 今、流通している貴族御用達の品を大きく上回るレベルであれば、ぬか石鹸単体でも十分に後ろ盾を得るのは可能だと思うが、ノックスの意見も十分わかる。


 ……効果はバッチリだし、所長は興味を示すって言ってたけど、正直どうなんだろ?


「お兄ちゃん、ぬか石鹸って貴族が興味を示すぐらい、すごい効果なの?」

「うん。ぬか石鹸は間違いなく売れると思う。ここまで効果が高い物は、そうそうないよ」


 ぬか石鹸の評価は高い。

 だとすると、他の商品はどの程度なのか調べる必要がある。


「お兄ちゃん、貴族が使ってる化粧関係の商品ってある?」

「化粧? うちは専門じゃないからね。いや……ちょっと待ってて、会長の奥さんなら持ってるかも」


 ノックスが席を立とうとした時、アイナが「わたしが借りてくるよ」と、代わりに倉庫を出ていった。


 ……奥さんの品なら、女性の方がいいかもね。


 三人で桶をどけたり、換気していた窓を閉めたりして待っていると「借りてきた~」と、倉庫の扉を開けてアイナが化粧品を持って戻ってきた。


 机の上に置かれたのは、今も貴族に流行っている物だという。

 子供の手のひらサイズで、平民用にしては凝った装飾が施されている。

 わたしは蓋を開けると、指先ですくって手の甲に伸ばしてみる。


 ……伸びが悪い。ドーランというより、白粉に近い。


「お兄ちゃん、これが最新の化粧品?」

「あっちこっちで人気だったよ。火の月に平民にも普及し始めたんだよ」


 ……貴族って、着飾ったりするの好きだよね? でも、美容関係の商品ってあんまり品質が良くないのかな?


「兄さん、これ肌が荒れそうだけど」

「人によるかな。毒性は無いけど、どうしても肌に合わない人もいるからね。ステラも化粧してみるかい?」

「貴族って、こんなの塗ったくってるのね。わたしは勘弁ね。なんか窮屈そう」

「エステラも女の子なのに、その感想は勿体ないわよ」


 アイナがエステラの頬を指でツンツンしているが、エステラは全く化粧には興味が無いようだ。

 その横でノックスがガッカリした顔なのは、この際どうでもよかったが、わたしも勿体ないとは少し思う。


 ……お姉ちゃん、将来、いい線いくと思うけどなぁ。まぁ、これからだよね。


 わたしは、手の甲に伸ばした化粧品を見て、勝算はありそうだと確信した。

 この化粧品が最新だというのなら、美容関係なら勝負できるかもしれない。


 ……ぬか石鹸って、全身用シャンプーみたいなもんよね。だったら……。


「お兄ちゃん、ぬか石鹸を二つに分けるとか、どう?」


 言ってみたものの、みんなはポカンとしている。

 わたし自身、言った後で、これじゃ説明不足すぎると思ったぐらいだ。


 ……これじゃ駄目だよね。


 依然として頭の上にハテナマークを並べている二人よりも、いち早く我に返ったアイナが困惑した表情で聞いてくる。


「えっと、妹ちゃん、どういうこと?」

「相手を騙すようで悪いんだけど、ぬか石鹸って髪も体も洗えるでしょ? だから、髪用と体用って分けちゃえば、商品が二つに増えるかなって……全身用で三つ……とか」


 ……説明下手くそすぎるっ!


 エステラがポンッと手をうつと、ノックスが机を両手でバシンッと叩いて椅子から立ち上がった。


「「それだっ!」」


 どうやら、うまく伝わったようだ。


 ノックスは「香りを付ければ、さらに種類は増えるぞ」と、付け加えた。さらに増やすつもりらしい。

 なんだか騙しているようで気が引けるが、その分、全身用を薄めたり、値段を調整すれば問題無いだろう。


 効果は同じだが、わざわざ髪用で体を洗わない。

 貴族なら尚更らしい。「そんな失敗を侍女がするはずがない」と、ノックスも賛成した。


「新しい商品を作るのは厳しいけれど、これならいけそうだ」

「妹ちゃん、やっぱりすごいね」


 わたしは、笑顔のアイナとハイタッチを交わす。

 後は、わたしたちが興味を引くことができれば、上手くいくかもしれない。

 これで全体的な流れは決まった。


 ……これ、上手くいったら、すごいお金になるんじゃない? うへへへぇ。


 ノックスは商品の改良を、エステラとアイナは作戦の成功を、わたしは儲けの計算をと、笑顔の理由は様々だが、これもいいだろう。


 四の鐘が鳴って間もなく、倉庫の扉がギィッと開く音がする。

 どうやら、お父さんが迎えに来たようだ。



「どうした? 揃ってニコニコして……」










ここまで拙い文を読んでいただきありがとうございます!


「面白かったなぁ」

「続きはどうなるんだろう?」

「次も読みたい」

「つまらない」


と思いましたら

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面白かったら星5つ。つまらなかったら星1つ。正直な気持ちでかまいません。

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