7話 夢 ~知った痛みと支える想い1~
なんとかして、魔法を使ったりできないのだろうか?
神様がいて、魔法があり、魔物が存在する世界。
これはもう、小説などで目にするファンタジーの世界そのものだ。
……だったら、妖精とか精霊もいるよねきっと。
どうせ出会うなら悪魔じゃなくて、妖精か精霊がいい。
それに妖精や精霊なら、魔法を使えるのではないだろうか。
……待って……なら、妖怪もいるんじゃない? 見上げ入道とか! 一緒に見上げたいっ!
わたしが一人で妄想している間も、ノックスの話は続いていた。
◇ ◆ ◇
ノックスから貴族の成り立ちや、魔法があること……わたしの知らなかったことを色々と知れた。
だが、それにしてもと思う。
わたしの知っている貴族社会とは、だいぶ違うと感じた。
魔法がある時点で完全に別物なのだが、まるで貴族は物語の英雄的な存在に思える。
……貴族に感謝ねぇ……神様の恵みには感謝はしているけど、食事の時のお祈りは貴族にもしないとだめかこれは?
「古い文献には神の使徒のような書かれ方だったよ。今とは違う気がして、僕なりに色々と調べたんだ」
「え~と、今と違う? どんなところが?」
「貴族の行い自体は変化が少ないようだけどね。今の平民は、対価として仕事に従事するというよりは、自分たちが日々を生き抜く為に、必死で仕事をしているように感じるんだ」
先程の話から厳しそうな社会だと感じていたが、まだ仕事をしていないからか、わたしには、いまいちピンとこない。
わたし自身、現代の生活と比較してしまい、普段からいっぱいいっぱいなのだが、この世界の人々も違う意味で必死なのだろう。
「昔と違い、時代と共に貴族と平民の関係は変化しているんだ。過去には、その権力を使って平民を奴隷扱いしていた時期や、強制的に自由を奪ったりと、それなりに、ね。今も貴族は平民を斬り殺しても、ほとんど罪にはならないからね」
「うぅ……それは」
……貴族こわぁ~。
「昔は支え合っていた関係も、今は完全に壊れているようにしか思えてならないんだよ僕は。貴族に逆らうな! ってね。貴族と平民は違う世界に住んでるように見えるね」
ノックスの口調は穏やかだが、握った拳には力が込められている。きっと思うところがあるのだろう。
……前半だけなら、神々に選ばれた守護者みたいなのに……後半は、わたしもよく知っている悪い貴族そのまんまの印象だね。よくこれだけ調べたね。お兄ちゃん。
「ちょっと関係ない話もしたけれど、そういう理由で、騎士にはなれないってことなんだよ。僕らは平民だ。魔力もない。魔力を身に付けることはできない。騎士を目指すのは無理なんだ。むしろ、貴族に反感を買わないように、うまく生きるしかないんだ」
わたしのよく知っている騎士とは違うようだ。
なにか功績を上げて、取り立てられることはない。
貴族と平民の違いが魔力の有無では、どうやっても平民は貴族になることは無理だろう。
……魔力は身に付くことはないのか。お姉ちゃんは、去年、お父さんから聞いたって……もしかして……。
泣いているエステラを見るのは初めてだったので、今もよく憶えている。
一年近く前、夜中に小さな声がして目を覚ましたときだった。
横目でチラリと見れば、わたしを起こさないように、必死に声を押し殺して泣いているエステラの姿を見た。隣のベッドで一人、顔をくしゃくしゃにして……。
当時は、お手伝いの失敗かな、と思っていたけど。
……きっと、これだったんだ……。
あんなにキラキラした目で、飛んでいく騎士を見ていたエステラだ。
これを知った当時のエステラはきっと――。
考えただけで、ググッと胸が締め付けられる。
エステラのひまわりの様な笑顔を思い出す。
嫌な顔ひとつせず、暇さえあれば、元気いっぱいで遊んでくれる。
手伝いにしても、どんなことにも一生懸命で努力を欠かさない。わたしのお手本だ。
そして、何時もわたしを庇って守ってくれる……今日だって、ずっと気を張って守ってくれていた。
わたしには勿体ないぐらい、最高の姉。
……何か力になってあげたい。
「ルル……」
「お兄ちゃん?」
ノックスが椅子から立ち上がり、優しくわたしの頭を撫でた。
「ルルは賢いし、とても優しい子だね」
そう言って、ノックスがポケットから取り出したハンカチでわたしの目元を丁寧に拭った。
……あれ? わたし泣いてる?
わたしは、いつの間にかポロポロと涙を流していた。
エステラの夢が絶対に叶えられないことがわかってしまって、我慢しようとしても、涙が溢れてくる。
騎士なら、努力次第でなんとかなるんじゃないか、などと思っていたけれど、今の話で理解した。
理解してしまったから、どんどん悲しくなってきた。
ただの制度の一言が、刃みたいに胸に刺さった。
……なりたくても、絶対になれないなんて……。
力になれない悔しさと、どうにもならない悲しさで涙が零れる。
……泣いちゃだめ。
そう思ったのに、目の奥が熱くて視界が滲む。
なんでこんなに胸の奥も熱いんだろう……。
悔しいよ……。




