45話 偶然が必然に変わる時 ~導いた答え2~
所長が言うには、この時期のトマトは非常に安い。
農家からしてみれば、ただの処分品になる。
そんなものを大量に所持していることに、注目するべきだと。
「処分品に近いトマトを、大量に運ぶ理由を考えてみなさい」
……東地区で配るため? いや、犯罪者がわざわざしないなぁ。
「運ぶ、運ぶ……配る……ん? 何かを作ろうとした? いや……」
「何か気づいたか?」
「お金儲けじゃないのは、わかるんですが……」
いくら頭を捻っても、わたしの頭脳では何もわからない。
もう頭から湯気が出そうだ。
「ふむ。では、視点を少し変えよう。毒はどこで仕入れたのだ?」
「そりゃぁ、決まって……」
……こことは言い切れないなぁ。あれ、街のどこか? いや外だとしたら……。
「どこでしょう?」
「現状では、街の中か外の二択だな」
所長の顔には、ヒントは与えたぞと書いてある。
紫色の瞳がじっとわたしを見据えて、答えを待っている。
……おかしいな。さっきから所長の考えを聞いてるのに、テストみたいになってるぞこれ。
毒が街の中で製造されたのであれば、それに見合った量のトマトでいいはずだ。
外で製造されたなら……いや、わざわざ毒を持ち込むのは面倒なはず。
そうなると、やはり街の中だろうか。
……面倒? なんで? 門兵にバレるから……処罰は困る。なら、バレなきゃいい。
キーワードを並べて整理していくと、頭がクリアになっていく。
自分でもよくわからないうちに、なんとなく口を開いてしまった。
「大量のトマトは毒を運ぶための偽装だった?」
所長がふっと笑った。
どうやら正解のようだ。
「大量の物資の中に、あの毒の小瓶を隠すためという理由が一番筋が通るな。今の時期のトマトなら、ただ同然だ。門兵も大袋で大量のトマトが運び込まれたら、個別に袋から出すこともしないだろう」
……たしかに、そうだね。
「ましてや、商品ではない処分品だ。検査も甘くなる。毒のトマトは運搬中に袋の中で瓶が割れてしまった、あるいは漏れ出したなど、偶然であったと仮定した場合はどうだ?」
だから、あの袋のトマトだけ異様な腐り方だった。
もともと混入することが目的ではなかったならば……。
「しっくりきます……でも、瓶が簡単に割れたりしますか?」
所長が棚に置いてある空き瓶を見た。
「薬品を入れる容器は密閉しないといけないため、少しの漏れも許さないよう特殊な瓶に入れる」
空気に触れないようにとか、他にも魔法的な要素があるのだろう。
「へぇ~、そうなんですね」
「しかし、強度に欠点がある。非常に脆いのだ。そのため、通常は優れた衝撃、耐水加工が施された箱に厳重に保管されて運搬される。そのような瓶が、剝き出しの状態で運搬されていたのであれば、割れても不思議はない」
そういうと、所長は机の上にあった木製の匙を手に取った。
棚にあった空き瓶の側面を、コンコンと軽く叩き実演する。
すると、軽い衝撃なのに瓶にはうっすらと亀裂が見えた。
……かなり脆いのね。
「でも、仮定の話ですよね?」
「そうだ。あくまで仮定だ」
なぜか所長を見ていると、確信している気がするのだ。
そこまでの自信はどこからきているのか。
「疑問か? まるで確信しているようだと」
……あっ、バレた。
「……はい」
少し迷ったように所長の瞳が揺れたが、「聞きたいか?」と問う。
もう部外者ではない気がするわたしは、こくりと頷いた。




