スイーツブレイク
「あなたと私はどうやら人種が違うみたいなの」
彼女はそう切り出した。
「お互い別の人と付き合った方があなたも私も成長すると思うの」
(成長?)
「僕と一緒に居るのは嫌なの?」
「そうではないわ。前向きに生きて行きたいの」
「……僕といると成長できないという意味なのかな」
「そうね。少なくともそう感じているわ」
彼女が好きなのでよく二人でスイーツを食べに行った。今もそうだ。
おいしそうに食べる彼女を見るのが好きだった。
化粧っけは無いけれど、スイーツを頬張る彼女の笑顔がかわいいと思っていた。
付き合い始めたころは『成長』と言う単語は彼女から聞いたことが無かった。
「二人で一緒に成長は出来ない?」
「そうね」
「成長ってさ、これは僕が勝手に思っていることだけれども、経験することじゃないのかな。経験することでそれを基にして次につなげる。それが成長する事だと思ってる」
「そうね。そういう事でもあるわ」
「それなら、二人一緒でしか経験できない事もあるわけで」
彼女は目の前のフルーツの乗ったタルトをじっと見つめている。
「怖いのよ」
彼女はぼそりと話し始めた。
「うん?」
「居心地が良すぎて。あなたと一緒にいると」
「それは」
「大切にしてもらってるし、あなたと一緒にいると幸せ。だけど知ってしまったの。そうではない人がたくさん居ることを。そしてその人達は、私から見るととても逞しくて、素敵なの」
「そう、なんだ」
「私もああいう風になりたいと思ったの。だから、あなたと居るとどうしても甘えたくなるから。ごめんなさい。勝手なことを言っているのは分かってる。今まで大切にしてもらって、ひどいよね」
彼女の頬を涙が伝った。
「……」
僕は何も言えなくなり、目の前の冷めたコーヒーを一口飲んだ。
「私を責めないの?」
「責める理由がないよ」
僕は冷えたコーヒーを眺めながら答えた。
「わかったよ。今日までにしよう」
僕は風味の飛んでしまったコーヒーを飲み干した。
「君が先に出てくれ」
彼女は両目に涙を一杯に溜めた目で僕を見ている。
「ごめんね」
そう言うと彼女は横に置いていたバッグを持って立ち上がり、店の出口へ向かって歩いて行った。
店の中では楽しそうに話しをしながらカップル達がスイーツを楽しんでいる。
その中を彼女が店の出口へ向かって歩いている。
どこか現実感の無いこの光景はきっと忘れられなくなるのかなと一瞬思った。が、いや、違う、忘れられなくなるのは今のこの気持ちだと僕は理解した。