アリシマサンの一日
Lisp side
毎朝6時、Lisp村から一山超えて「カッ湖」に向かう。鳥の声虫の声が響く中、コナラやミズナラの落葉樹が生い茂るポイントを抜けていく。半年もの間通い続けたおかげで、うっすら獣道ができている。
空気が重くなり、水の気配がしてきたら目的地はすぐ。眼下に青くきらめく湖が広がる。
ここから湖畔を1/3周いったところに赤い屋根のこじんまりした平家がみえる。そこがアリシマサンの拠点である。
Lispの神殿に降下なさったのだから、そのままいていただきたかったのだが、アセンブラ族の強硬な反対にあってしまった。そりゃそうよね。
じゃぁ、真ん中に住んでいただきましょう、とまではとんとん拍子に決まったものの、神の代理人であるアリシマサンのために宮殿を造りたいLispと、城を造りたいアセンブラで意見が食い違ってしまった。すわ戦争か!?の一触即発の空気の中、アリシマサンの一声でここにちいさな家をつくることになったのだ。
しかも決裂した空気を嫌ってか、一人で暮らしたいと強くおっしゃられ…
Lispとアセンブラでさんざん仲の良いところを見せ、もう二度と争いません!いろいろご不便でしょうからどうかお手伝いさせてください、とすがったところ、Lispから次期族長のわたしと、アセンブラからも次期族長のゼットだけがこの家に通うことを許された次第。
◇
アリシマサンを起こさないよう合鍵で家に入り、朝食の支度をはじめる。
この家はアリシマサンの希望通りの間取りでつくったのだが、こちらの感覚でいうと、なんというか非常に庶民的…。違う言語で説明なさるせいで間違えたんじゃないかとドキドキしていたけど、アリシマサンはご満足の様子。いいのかな。
居住スペースの間取りは広めの台所、ダイニング、寝室のみ。お風呂だけはやたら広々としているけれど、全体的に質素なつくり。
ダイニングの一角に、離れにつながる扉があって5mくらいの廊下を渡るとそこは非常に殺風景な仕事スペースの建物。
わたしが居住スペースの合鍵を、アセンブラのゼットさんが仕事スペースの合鍵を持っています。離れから人の気配がするので、ゼットさんはもう仕事をはじめているようです。
本日のメニューはLisp村から持ってきたテーブルパンと、サラダを添えたオムレツ、具沢山のミネストローネ。これ以上メニューを増やすと眉間にしわを寄せ、神の怒りの言葉をつぶやかれます。
神の怒りのお言葉を耳にすると脳がしびれ、どんな猛者であってもしばらく動けなくなります。これは気をつけなばなりません。
お出しするメニューもLispとアセンブラでビシバシ水面下の戦いが繰り広げられていたが、どうやらアリシマサンは朝はLisp風、昼はアセンブラ風のお食事をよく召し上がるようです。
夜は両方の郷土料理をうまく組み合わせています。平等、贔屓なし。
まぁ、わたしが担当なので、ちょっとLisp寄りになっちゃうけど…
「朝は食べないタイプなの」のおっしゃられていたアリシマサンですが、こうして並べておくときれいに平らげてくださいます。
1日の仕事量が半端ないので、3食はきっちり食べていただかないと!
あ、コーヒー豆をゴリゴリ挽いていると、いつものようにアリシマサンが寝室から出てこられました。
今日のメニューとスケジュールを書いた業務連絡のお手紙をアリシマサンにお渡しします。アリシマサンは翻訳してゼットさんに渡します。
朝ごはんを召し上がったら8時半から打ち合わせ、9時から12時まではLispとアセンブラの言語を翻訳していくお仕事がはじまります。
12時から13時までは昼休憩、14時から15時までがスリーonスリー、16時から18時までが訴訟案件。
今日は離縁したいカップルの訴訟が入ってるので、押しちゃうかな…もめそうだな。
秘書のゼットさんの腕の見せ所。
アリシマサンは早く終わってもその後、書類仕事なさってます。ほっとくと延々お仕事なさるので、20時に夕ご飯をお出しして無理矢理離れから連れ出します。
アリシマサンが、ゼットさんからの業務連絡のお手紙を翻訳してくださったものを渡され終了!最近ちょこっと業務以外のことも書いてあるので楽しみ。
こうしてLispもアセンブラもアリシマサン情報を独り占めせず、それぞれ報告できるようになっているというわけ。
わたしはほんとは18時までの雇用契約なのですが、なんだかんだ毎日20時過ぎてしまいます。暗い道は危ないから、とゼットさんが当たり前のように送ってくれるの。
昨日はつまずいたところ手をとってくれて!!きゃー
もうすぐ20歳になるし、スリーonスリーの資格が得られるから、一緒に出ないか聞いてみたいな。
次で完結です!!
ここまで読んでいただいてありがとうございます。