パスカルとPL/SQLはだいぶ違うからね
Lisp side
わたしがお神託を受けるずっと前から、この役目だった兄から「サヴァ神ご乱心」の報告は受けていた。
それまでサヴァ神はそれはそれは美しい言葉でご神託オラクルを紡いでいたらしい。らしいっていうのは、わたしはその美しいオラクルを一度もみたことないから。
祖父の代から美しいご神託に汚い言葉が混ざるようになり、そのうち全く理解できない言葉を吐き出すようになったのだ。それはまるで呪詛。
呪詛を浴び続けた父がまず倒れ、長兄、次兄と病魔に侵された。
それはLisp族の男性にだけ憑り、そして罹患した者は一人残らず命を落とした。
族長を継いだ母、バーバラは慣習をぶん投げてアセンブラ族に助けを求める手紙を送った。何度も何度も…
これは人類が力を合わせて乗り切らねばならない難局だと。
アセンブラからはなんの反応もなかったが…
久しぶりにご神託をおろすサヴァ神は今回も訳のわからない言葉を吐き続けている。何かを喚き散らしているサヴァ神を見つめていると、
「あー?これパスカルじゃないじゃん」
黒目黒髪のアリシマサンがわたしの後ろからのぞきこんでいた。
アリシマサンはアセンブラ族でもLisp族でもないらしい。JavaScript語というものが得意というので、JavaScript族なのかと聞いたら大爆笑して違うといっていた。
確かにアセンブラ特有の黒目黒髪なのにLisp言語が使える不思議な存在だ。
この世の人類はLisp族とアセンブラ族しかいないのだから、アリシマサンは人類ではないのだろう。
突然神殿前に現れたので、サヴァ神に関係するミツカイサマなんじゃないかと見当をつけている。もしくはサヴァ神が人の形になって来てくださったとか??
どうも記憶をなくされているようなので、思い出していただけるようここ神殿で生活していただいている。
「え?でもここではパスカル語でオラクルが…」
「だってこれ、ピーエルエスキューエルだもん」
「ぴーえる?」
ミツカイサマがなにか思い出されたのか?やはりバグったサヴァ神の補助にいらしたのかも!
「PL/SQLっていうのはねー…」
ミツカイサマ・アリシマサンがご神託の読み方を説明し始めてくださった…全然わからないけど!すみません…全く理解できません。
アリシマサンはわたしの反応を見て悟ったらしい。
「そうかースーザンはLispの人だからPL/SQLに変換するのは難しいのかー」
さすがミツカイサマ、なにか高尚なことを言っておられる雰囲気はするのですが、わたしには全く…
「うーん、じゃ、内容をわたしが読めばいいのか」
アリシマサンはそれから長い時間ご神託を読み解いてくださいました。
「ねぇ、サヴァ神のダンナ様はアセンブラ族が祀っているってことよね?」
過去のご神託も並べてフンフン読んでいたアリシマサンが一人うなずきながら聞いていた。
「はい、そうです。Lispとアセンブラで一体ずつ祀ることで、人類同士の争いに終止符がうたれたので」
「そうかー、アセンブラ族の国?村?には行けるの?」
「アセンブラとは関わらないようにしています。どこにいるかも、行けるかも誰も知ら・・」
知らないはずです、と続けようとしてふと気づいてしまった。母バーバラは確かにアセンブラに手紙を出したと言っていた。不可侵じゃないのか?
「あ、Lispの族長の母はアセンブラとアクセスできると思います」
「アクセスしたことがあるの?」
わたしは手短にバーバラがアセンブラ族に手紙を出した旨を伝えた。
そしてその結果も。
「それってさぁ、族長はLispで書いたんでしょ?」
「それはそうでしょう、わたしたちはそれ以外書けませんから」
「じゃ、向こうは読めないよね」
「アセンブラとLispは変換するの大変なのよー仕事でさぁ、ってほんとこれ夢じゃないの??」
アリシマサンはブチブチとこぼし始めた。
それを横目にわたしは感動で震えそうになっていた。
アセンブラはLispの助けを無視した訳じゃない。
そうか、言語が違うからか!




