有島さんは夢の中でまで仕事をしたくない
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
ブーンという床を這う機械音とカチャカチャと耳慣れたキーボードの音が響く。ガランとした気配とひんやりした空気。夢うつつの目覚める寸前の頭で処理する。
(ここどこ?)
「…え?サーバールーム?」
つい声に出してしまったらしく、キーボードの音が止み、近づいてくる人の気配がする。
(待って待って、そんなわけないわ。いま違うプロジェクトだった!)
サーバールームに缶詰にされたのは数年前の仕事だった、とぼんやりした頭で思い出す。
(え?銀髪!?外国の人??なに?)
銀髪を軽く横に流すようにくくった翠目の美しい女の人が恐る恐るといった表情で近づいてきていた。
「××××、×××?」
表情からすると、気がついた?大丈夫?みたいなことを言われてる気がする。
けど…何語かわからん?そんなことある?聞いたことないけど、意味はなんとなく分かる。あれ?
「すみません、あの」
と言ったところで、やっと辺りを見回す。
石造りの建物、まるで遺跡のような…パルテノン神殿とかそんな感じの中央に…パソコン!?
「え?ここどこ??」
いやいや、どこから電気とってきてるの?じゃなくて、私、家で働いてたよね?え?夢??
「×××リスプ」
銀髪美人が自分を指差す。
キョトンとしていると再度
「×××リスプ」と自信なさげに言っている。
「××××リスプ×××、××××アセンブラ?」
Lisp!?アセンブラ!?
ここだけは音声でわかったけど…
えっと、あなたはLispですか?アセンブラですか?って聞かれてるような…は?得意な言語ってこと?
で、彼女はリスプが得意なリスパー?なの?めずらしい…はじめてみた。
えっと得意ってえ?普通にJavaScriptだが?
「…ジャ、ジャバスクリプト…ですが」
「…?」
銀髪美人は困った顔でこちらをみている。通じてないのかー。日本語じゃだめなの?ってJavaScriptは日本語じゃないが?発音がカタカナだったか?
「JavaScriptです」
気持ち発音を寄せてみたけどどうだ?
「…?」
だめだった…
Lispですか?って聞くってことはこの人はリスパーなのかな?とか考えながら「ここどこよー」とうっかり独り言を言ってしまう。
と、銀髪美人はパッと顔を輝かせて
「デルファイ××××!リスプ×××デルファイ×××、パスカル×××オラクル」
待て待て待てぃ!
思わず右手を突き出して発言を止め、左手で頭を抱えてしまった。
音声で聞き取れたのはIT用語しかないんだけどな?
こんなに用語を会話にぶっこむことってあるかい?
よーく聞いてくれよ?
何を言っているかなんとなくわかってしまったんだが何を言われているのかわかんねぇんだ。
何を言っているのかって?
『Lisp?』と心の中でつぶやいてる間だけ彼女の言葉が「言葉」として認識されるらしい…
そして『Lisp?』と心の中でつぶやきながら話した言葉は彼女に通じるっぽい。
私の理解が正しければ、ここはLisp族のDelphi神殿。
は?お前正気か?って?いやいや、銀髪美人は大真面目に言ってるんだって。
Lisp族のDelphi神殿ではパスカルという言葉でオラクルというご神託がいただけるらしいぞ?
うん、夢だ。
わたし疲れてるのね…あはは
Lispと頭で念じると変換される感じで。
異世界だから有島さんチート!