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今はブルックスのアセンブラだけど次はゼットのアセンブラになるよ

Assembler side

「かつて、二つの民はひとつでした」

古い木造の建築物である神殿に、神官の厳かな声が響く。浮彫細工の美しい扉は開け放たれ、隅々まで磨き上げられている板間の床も8つの大柱も黒々と光っている。

100人ほどの村人全員を収容することもある神殿にいるのは、いまはたったの3人。上座に近いところに絵本を掲げる年老いた神官とそれを見上げる少年、そこから一柱間あけて青年がかったるそうにあぐらをかいている。


「我々人類は、神サヴァたちと語り合う言語を与えられ、アプローチを試み、可能性を広げ、あらゆる不可能を可能としてきたのです」

「こーすいじゅんなげんごと、てーすいじゅんなげんごでしょ?」

少年が青年を振り返り微笑む。

年老いた神官は青年を見やり、少し声を落とした。

「キックスさま、そのころは高水準な言語も低水準な言語もなかったのでございます」


キックスさまと呼ばれた少年は目を大きく見開いた。

「そしてその頃は守り人の仕事も違っていたのですよ」

「え?」

「初期の守り人はサヴァ神と細い管をつかって意思疎通をしておりました。なので、その神おろしの管をつなぎかえることがお仕事だったのです」

「へぇ!いまは、おこっているかみさまを、なだめるのがおしごとだよね」

「そうです、さすがです。キックスさま。守り人は族長の血族のみが行います。今は族長ブルックス様のアセンブラですが、ゼット様にうつる日も近いかも。うーん、そのうちキックスさまも行うこともあるかも・・・ただ現在サヴァ神は常に荒ぶっておられるので…バグっているといいますか…」

アセンブラ族当代族長ブルックスには2人の息子がいる。族長を補佐し、この頃神おろしを本格的に担うようになったのが18歳のゼット、末っ子が6歳のキックスである。


「おこってるのこわいよねーゼット兄ちゃんならつよいからへいきでしょ?そのうちゼットのアセンブラになるんだよねー」

再度キックスがあぐらのゼットを振り返り、ゼットは片眉をあげた。


神官は哀しそうに続ける。

「サヴァ神たちはあれから進化し、それぞれより繊細に熱に弱い体になられましたので、守り人は各々が祀るサヴァ神の体温調整をせねばならぬのです。しかも最近サヴァ神が荒れておいでで、そのせいか疫病が蔓延しております。どうしたらいいのか」

「ねつぼーそーがだめなんでしょ?」

「えぇ、えぇ、キックスさまはなんてかしこ・・・」


「ちょっと待て」

ここでゼットがアセンブラ族特有の黒い髪の毛をかきあげながら、神官の言葉を遮った。

褐色の肌に鍛えられた体躯、こげ茶の瞳に少しうねりのある髪、意思の強そうな眉をひそめている。

「ここ10年の疫病もそのせいなのか?」

10年ほど前から原因不明の疫病に悩まされている。男女関係なく罹患するが、女性の致死率は100%。医師も神殿も必死で食い止めようとしたが、今現在アセンブラ族の女性は一人もいなくなってしまった。


「どうしたの?キックスにいちゃん」

「先日文献で調べたが、サヴァ神は夫婦だったそうだな」

神官はグゥと喉をならし、黒いフードを目深にかぶった。

「・・・さ、さようでございます」

「いまアセンブラの神殿に祀られているのは男神のほうだろう」

「・・・さようで・・・ございます」

「あ!じゃぁ、りすぷ?村におくさんがいるの?」

キックスが神官の裾を掴みながら笑ってい問う。

「さようでございます」

神官は固い笑顔を作り、なだめるようにキックスの髪をなでた。


「祖先は夫婦神を引き離した」

ゼットが一層低い声を出す。

神官はひとつため息をつくと、ゼットに向き直り深く頭をさげた。

「人類の平和のためにございます。人類はその言語でふたつにわかれ、以来関わらずに生きています」

「そんなひどいことをしておいて、なにが守り人だ。拉致監禁の監視だろ?」


「らちかんきん?」

キックスははじめて聞いた言葉をおうむ返ししながら神官を見上げたが、神官は視線を合わせず唇を引き結んだ。


「そりゃ怒り狂いもするだろうよ、これは神罰…」

吐き捨てたゼットの声が大広間に響いた。

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