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第55話:狼人族の里

「やっぱり、結構な山奥にあったわね」

「ああ、歩くのは大変だった」


 傍らに立つカレンの言葉に、俺も静かにうなずく。

 キャロル先輩の戦いから三日後。

 俺たち学園の生徒は狼人族の里がある山を訪れた。

 王国の中でもこの辺りは山深い地域で、周囲には深い森が広がる。

 麓までは転送魔法で来て、待ち合わせ場所の森まで半日ほど歩いたのだ。

 ライラ先生が俺たちの前に立って話す。


「では、ここで狼人族が来るのを待つ。みな、一カ所にまとまって動かないように」


 話し終わった瞬間、森の中に気配を感じた。

 ライラ先生も慌てて後ろを振り向く。


『儂らを待つ必要はない』

「ちょ、長老っ! 来ていらしたのですかっ!」

 

 ライラ先生が叫ぶように言った瞬間、俺たちは姿勢を正す。

 木々の後ろからは何人もの人影が姿を現した。

 頭の上には三角の耳が生え、腰からは尻尾が垂れ下がり、全体的に狼の余韻が強く残った人たち……狼人族だ。

 ざっと見ただけで十人はいる。

 警戒は怠っていなかったものの、気配も何も感じなかった。

 それだけで、彼らの身のこなしや素の能力の高さが伝わる。

 ライラ先生が長老と呼んだ初老の狼人は、険しい表情のまま話す。


『お主らを里に入れるつもりはない』

「な、なぜですか!? 事前の話では、我が学園が修理を担うことで了承されたではありませんか!?」

『こんな子どもばかりとは聞いていなかった。我ら秘伝の魔導具を触らせる訳にはいかん。無論、補給路の話も無しじゃ』


 長老だけでなく、周りにいる狼人族の面々も厳しい顔つきだ。

 彼らの言葉に、生徒の間で動揺が広がる。

 魔導具を修理させてくれないのか……?

 狼人族は全員、顔や腕に紫色の斑点模様が浮かんでいる。

 魔虫による症状だ。

 彼らの顔も苦しそうで、その状態の悪さが伝わる。

 自分たちの追い詰められた状況を考えると、学生のような子どもに大事な魔導具を任せたくはないのだろう。

 ライラ先生は落ち着いて聞いていたが、淡々とした調子で話した。


「……お言葉ですが長老。ここにいる生徒たちは、みな優秀な人材です。中でも、このキャロルは修復魔法に特化した家系の出身です。さらに、ここにいるギルベルトは長い学園でも指折りの実力者です」


 ライラ先生は真剣に話すも、長老は首を縦に振らない。


『ならん。儂らは一刻を争う事態なんじゃ。もっと実績のある人間を連れて来ないのなら、このまま帰れ。里に入れるわけにはいかん』


 狼人族との間に緊張が走る。 

 生徒は互いに顔を見合わせ、カレンたち三人も硬い表情で話す。


「里に入れないと魔導具の修理どころではないわね」

「でも、あの方たちの言い分もわかります」

「ボクだって狼人族の立場だったら、きっと同じような気持ちになっていたでしょう」


 彼らの里を通る道は敵に見つかりにくく、この辺りでは貴重な平地だ。

 周囲の山を迂回すると時間も体力もかかる。

 このままではフリードリヒ戦に影響が出てしまう。

 どうするべきかと必死に考えたとき、脳裏にとあるゲーム知識が思い出された。

 狼人族を苦しめる全ての元凶となる存在について……。

 俺はライラ先生の隣に立つ。


「ギルベルト、下がっていろ」

「俺に考えがあります。魔虫王を倒してくるんです」

「……ふむ」


 俺が小声で話すと、ライラ先生は顎に手を当て考えた。

 

 ――魔虫王。


 その名の通り、魔虫を生み出し支配するA級魔物だ。

 強固な外郭は魔法を反射し、強力な痺れ毒も持つ。

 王がいる限り、狼人族たちは魔虫に苦しめられる日々を送るばかりだ。

 元凶を破壊すれば彼らの生活は改善する。

 魔導具を修理させてもらえなくても、魔虫問題は解決できるはずだ。

 その旨を話すと、ライラ先生も賛同してくれた。


「長老、今相談したのだが、魔導具の修理の代わりに魔虫王を討伐するのはどうだろうか」

「王を倒せば、もう魔虫に悩まされることもありません。狼人族の代わりに、俺たちに戦わせてくれませんか? 絶対に討伐してきます」


 何をするにしても、まずは狼人族の信用を得なければダメだ。

 狼人族たちはしばらく互いに相談していたが、やがて長老が厳しい顔つきで言った。


『……よかろう。ただし……ギルベルトと言ったな。お主一人で討伐するんじゃ。優秀な人材ならば、己でそれを証明してみせよ。失敗すればこの話は無しとする。安全で平和な学園に帰れ』


 隣に立つライラ先生と視線を交わす。

 言葉はなくても、"お前ならできる”と言われているようだった。


「わかりました。ありがとうございます」

『どこまでできるか見させてもらう』


 許可を貰えて、とりあえずはホッとする。

 でも、まだこれで終わりじゃない。


 ――狼人族の信頼を得るためにも、絶対に魔虫王を倒す。

 

 そう思いながら、強く拳を握った。

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