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第43話:手紙

「ニコラ先輩からの手紙なんて初めてきた……」

「開けてみましょうよ」


 名前を読んだだけで、“学年合同演習”での厳しい戦いが思い出された。

 いったい、俺に何の用だろうな。

 緊張しながら封を開ける。

 流れるような美しい文字で、つらつらと書いてあった。


〔……こんにちは、ギルベルト君。暑い日が続くけど調子はどうかな? さて、さっそく本題に入ろう。実は、エトマン家が管理する古城に魔物が棲みついてしまい、その討伐を父上から頼まれたんだ。古城の地下室には貴重な書物が保管されていて、至急回収が必要になったらしい。ただ、書物の都合上、王国騎士団などに依頼できないそうで、ギルベルト君を推薦したらぜひにと言われた。いつも一緒にいるお友達も連れてきてくれると、なおさらありがたいな。詳しくは直接……〕


 要約すると、俺たちに魔物の討伐を手伝ってほしいそうだ。

 エトマン侯爵領は、フォルムバッハ家から馬車で数時間ほど。

 思い返せば、意外と近いんだよな。

 ニコラ先輩は俺も好きだし、力になりたい。

 手紙を読み終わると、カレンたち三人が嬉しそうに話した。


「ニコラ先輩もギルベルトの実力をきちんと評価してくれているのね」

「演習で実際に戦ったと仰っていましたものね。きっと、ギルベルト様の努力を感じ取ったのだと思います」

「ギル師匠が評価されて、弟子のボクも鼻が高いです」


 三人とも満足気で何より。

 手紙を見ると、古城には三日後討伐へ行くらしい。


「みんなにも来てほしいみたいだけど、予定はどう?」


 俺が尋ねると、カレンとネリーの表情がやや曇った。


「……ごめんなさい。明日からお父様とお母様と一緒に、大叔父様のお屋敷へ行くことになっているのよ」

「私もちょうど、サロメさんとともに旦那様のお仕事へ付き添う日でして……ご一緒するのは難しそうです」

「そうか、予定があるならいいんだ。気にしないでくれ」


 ネリーはメイドとしても存在感が増しているようで、少しずつ父上から大事な仕事を任されるようになっていた。

 ルカがドンッ! と強く胸を張る。


「ギル師匠、僕は予定が空いていますよ。夏休み中ずっとです。ギル師匠と過ごすため空けておきました」

「それなら、一緒に行くか」


 ということで、俺とルカの二人で訪ねることに決まった。

 翌日、返答を聞く兼迎えの馬車が来てくれ、俺たちはエトマン侯爵領へと向かった。



 □□□



「……あれがニコラ先輩の家か」

「立派なお屋敷ですねぇ」


 馬車に揺られること数時間。

 俺とルカはエトマン侯爵領にやってきた。

 フォルムバッハ家にも負けない豊かな土地が広がる。

 馬車は薄い緑色の壁が上品なお屋敷の前で止まる。

 降り立つと、茶髪の優しそうな男性が手を振って出迎えてくれた。


「ギルベルト君、来てくれたんだね!」

「ニコラ先輩! お久しぶりです!」

「また会えて嬉しいよ」


 ニコラ先輩と握手を交わす。

 “学年合同演習”の後は、特に接することはなかったので、本当に久しぶりな感じがする。

 戦ったのはわずかな時間だったが、よきライバルと再会した気分だ。


「カレンとネリーは都合が悪くて来られなかったので、ルカと一緒に来ました」

「そうだったんだね。急なお願いで申し訳ないよ。……初めまして、ルカさん。僕は二年生のニコラ。どうぞよろしく」

「は、初めまして。ギル師匠の弟子、ルカです」


 ルカもまた、ニコラ先輩と握手を交わす。


「立ち話も何だし、続きは中で話そう」


 ニコラ先輩の後に続き、応接室に入る。

 柔らかいソファに腰掛けるや否や、メイドさんや執事たちがお茶やお菓子を持ってきてくれた。


「父上にギルベルト君とルカさんが来たと伝えてくれ」

「「かしこまりました」」


 みんなで紅茶を一口飲むと、ニコラ先輩が切り出した。


「……さて、手紙でも書いたけど、うちが管理する古城に魔物が棲みついてしまってね。その魔物の討伐と、地下室の書物の回収に協力してほしいんだ。今地図を出そう」


 ニコラ先輩が高そうなタンスから地図を出し、古城の場所を教えてくれる。

 お屋敷から馬車で東に小一時間といったところか。

 そこまで話したところで応接室の扉がノックされ、背の高い痩身の男性が入ってきた。


「……ニコラ、ちょっといいか?」

「あっ、父上」

「「お、お邪魔してますっ」」


 俺とルカは急いで立ち上がる。

 エトマン侯爵だ。

 ニコラ先輩と同じ茶髪で、ダンディーなおじさん、といった感じ。

 こちらを見ると、エトマン侯爵はにこやかに微笑んだ。


「楽にしてくれたまえ。君たちの話はニコラからよく聞いている。大変優秀な一年生だとな。ギルベルト君も改心したそうじゃないか。立派なことだ」

「「ありがとうございます」」


 握手を交わすと、エトマン侯爵はため息交じりに話し出した。


「実は、妻が古城を別荘にしたいと言い始めてな。掃除やら内装やらを自分でやるとも意気込んでおる。だから、早急に魔物を追い払い、地下室の貴重な書物を回収したい」

「「なるほど……」」

「棲みついた魔物は数が多いものの、君たちなら十分に倒せるはずだ。極めて重要な書物なのだが、訳あって王国騎士団や冒険者には依頼できないのだ。……力を貸してほしい。もちろん、命の危機を感じたら無理はしなくていい」


 もちろんです、と意気込んで答えると、エトマン侯爵はひと際硬い表情に変わった。


「ただし、これだけは約束してほしい。絶対に中身は見ないように。保管してあるのは、中を見ると呪われる魔導書だ」

「「の、呪われるんですか!?」」


 俺もルカもニコラ先輩も、思わず叫んでしまう。

 そんな書物があるとは……さすがは侯爵家だ。

 硬い表情で言うと、エトマン侯爵は応接間から出て行った。

 

「なんだか……かなり重要な書物が保管されているみたいですね」

「呪われる書物なんて、ボクも初めて聞きました」

「うん、僕も詳細は知らないけど、一段と気が引き締まるよ」


 明後日までに回収を……という話だったが、早い方がいいので今日すぐ討伐へ行くことに決まった。

 ニコラ先輩が馬車を手配してくれ、三人で乗り込む。


「せっかくだから、領地の珍しい植物を教えてあげるよ。まず、あそこに見える木は〈精霊樹〉といって……」


 ニコラ先輩は楽しそうに木々や花を指しては、どんな植物か説明してくれる。

 馬車に揺られつつ、俺たち三人は古城へと向かう。

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