第42話:我が人生(Side:スタニスラス①)
生家が没落して、もうどれほどの年月が過ぎただろうか。
最後に覚えているのは、家が売却される様子を悲しげに見る父母の背中。
たしか、一番の収入源だった麦畑が、異常気象で全滅したのがきっかけだったと思う。
子どもながら、人生が変わった瞬間というものを感じた。
その後の人生は、思い出すことさえ辛い地獄だ。
貧困と死が常に隣り合わせの人生……。
優しく愛してくれた父母も変わり、私が視界に入るたび殴るようになった。
だが、私が父母を憎むことはなかった。
誰が悪いわけでもないし、子に当たる苦しみや辛さ、自分たちを襲った境遇へのやるせなさがわかるからだ。
――いつしか、自分が必ず復興させる。元の豊かな暮らしに戻り、父母に楽な生活をさせるのだ。
その誓いだけが、私の生き甲斐だった。
空間魔法という貴重で強力な魔法が習熟すれば、何でもできると思った。
目標が定まり一時は前向きになったが、天はさらなる試練を私に与える。
決心も虚しく、父母は流行り病に倒れ二人とも天に旅立ってしまった。
葬儀を上げる金もなく、教会の墓に静かに埋葬された。
一人になったが、最後まで私は父母を恨むことはなかった。
その代わり……人生を、運命を、そして神を恨んだ。
なぜ、私ばかりにこれほどの辛い仕打ちをするのかと……。
私は悪の道に堕ちた。
善のために使うはずの空間魔法を、悪のために使う。
最初は感じた罪悪感もいつしか消え去った。
“陽炎結社”という盗賊団を結成し、唯一残ってくれたメイドのシャルロットさえ、悪の道に引きずり込んでしまった。
没落する前より資産的に裕福な生活となったはずだが、私の心はずっと乾いたままだ。
――ギルベルト・フォルムバッハ。
あの男は、私の邪道に終止符を打ってくれた。
今まで王国騎士団や冒険者など、数多の強者と戦ってきたが、あいつは別格だ。
……見事だった。
きっと、私はもう二度と日の光の下には出てこれないだろう。
それだけのことをしてきた。
最後に出会ったのがあの男でよかったかもしれない。
今の私を見て、父母はどう思うだろうか。
褒めはしないだろう。
――更生する機会があるならば…………今一度、己の心と向き合いたい。
揺れる馬車の中、私は思う。
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