第34話:”学年合同演習”
「こんにちは、ギルベルト君。僕は二年のニコラ・エトマン。君の噂は聞いているよ。あのミハエルに勝ったそうだね。話を聞いたときから、ずっと戦いたかったんだ」
「どうも。嬉しいです」
ニコラと名乗った茶髪の先輩は優しそうな笑顔で話すも、その全身には魔力が淀みなく巡る。
俺もまた、戦闘への備えや気構えは十分だ。
いよいよ、"学年合同演習"が始まった。
俺たちが今いるのは"試みの島”という無人島で、そこかしこから戦闘音や地鳴りが聞こえる。
一年生と二年生、総勢百人超が戦い合う、学園イベントでも大規模な実地訓練で、まさしく前期最後の山場と言って差し支えない。
バトルロワイヤル形式で、最後まで立っていた生徒が優勝だ。
試験開始ポイントはランダムなのでカレンたちとは離ればなれだが、三人ともうまくやっていると思う。
ニコラ先輩は真面目な顔になると、より強く魔力を練った。
「御託は要らないよね。そろそろ始めようか。《酸性の陣》」
俺を囲むように直径15cmほどの水の球体が無数に出現し、一斉に襲いかかってきた。
躱すたび、当たった部分の地面が溶ける。
かなり強い酸性のようだ。
時間差で攻撃するようコントロールされており、ニコラ先輩の魔法の腕前が感じられた。
これだけの数、一粒ずつ操作するのは効率が悪いな。
「《魔法操作:酸性の陣》」
全身から勢いよく魔力を放出させ、球体全てに当て動きを止めた。
魔力を少し無駄に消費してしまうものの、こちらの方が早くて確実だ。
球体を操作して、ニコラ先輩に放つ。
当の本人は魔法を操られても動揺することはなく、落ち着いた様子で言った。
「お見事。でも、それだけでは僕は倒せないよ……《霧の領域》」
ニコラ先輩の前に白い霧が出現し、球体を防いだ。
霧は瞬く間に広がり、俺を包み込む。
完全に視界を奪われるも問題はない。
即座に操作魔法で霧を操り霧散させる。
目の前には……水の双剣を振りかぶるニコラ先輩がいた。
俺も冷静に《魔力剣》を生成し防御する。
水でできた剣ではあるが、鋼鉄にも負けないほどの強度だ。
優男な見た目に反して結構力が強い。
鍔迫り合いする中、ニコラ先輩はにやりと笑う。
「……なるほど、対応力も素晴らしい」
「先輩こそ対策されてますね」
操作魔法で自分の目の魔力探知能力を操作して上昇させる。
やはり、ニコラ先輩の全身は魔力の層で覆われていた。
「君の操作魔法は学園内でもトップクラスの脅威だからね。対策は積ませてもらったさ……《激流乱華》!」
ニコラ先輩は双剣を駆使して襲い来る。
片方の剣による攻撃で防御か回避を強制させ、その隙をつくようにもう一方の剣で斬撃を浴びせる。
シンプルながら有効的な攻撃だ。
習熟の難易度が高い武器なのに、ずいぶんと手慣れている。
さすがは二年生だ。
ワーウルフ戦が思い出されるプレッシャーだった。
接近戦で挑まれた理由は想像つく。
激しい手数で操作魔法を使わせないつもりだろう。
たしかに、この状況で手をかかげて魔力を飛ばすのは難しい。
先ほどのように全身から放出させても、今度は《魔力剣》の密度が薄くなってしまう。
もちろん押し負けるつもりはないが、この場合はよりよい一手がある。
「《水温上昇》!」
「! ……ぐああっ!」
ニコラ先輩の水剣の水温を上昇させて蒸発させる。
《魔力剣》は魔力そのもの。
一部を分離させて飛ばすことは容易にできる。
すかさず、ニコラ先輩の首元に手刀を食らわせた。
「ぐっ……こ、これでも勝てないなんて……うっ」
ニコラ先輩は苦しそうに呻いた後、地面に崩れ落ちた。
その全身を白い光が包み、パシュンッ! と空に飛んでいく。
気絶もしくは戦闘不能となった生徒は、強制的に島の隔離エリアに転送されるのだ。
手の甲に浮かぶ紋章をタップすると、生徒たちの一覧表が表示される。
脱落者はグレーで塗りつぶされているのですぐわかる。
カレンやネリーにルカ、その他関わりのあった一年生はみんな生き残っているようだ。
とりあえずホッとするものの、敵意と魔力を感じて後方にジャンプした。
雷の魔力弾が俺のいたところに衝突し、激し稲妻が迸る。
同時に、聞き覚えのあるダミ声が辺りに響いた。
「よぉ、ギルベルト。相変わらずシケた面してんな。よい子ちゃんぶってるからだぜ?」
因縁の相手との会敵というわけか。
ミハエルとその取り巻き女生徒三人が現れた。
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