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第27話:戦闘

「ここでいいだろう。文句はねえな?」

「別にどこでもいい」


 五分も歩かぬうちに、俺とミハエルは第二訓練場に着いた。

 縦横50mほどの広さがあり、正方形っぽい形の訓練場だ。

 日頃から授業で使うこともあり見慣れた場所だが、今は違った景色に見えた。

 いつの間にか、観客席には一年生や二年生がたくさん座っている。

 教室で事情を聞いていた生徒を中心に、人が集まったと考えられた。

 “極悪貴族”と“悪童”の決闘なんて、それだけで興味が惹かれるのだろう。

 嫌われ者同士、どちらが負けてもスカッとできるからな。

 カレンやネリー、ルカも、観客席に座って心配そうに俺を見る。

 彼女たちの顔を見ると、勝ちたい気持ちがより強くなった。

 ミハエルは満足気に観客を見渡した後、俺に言う。


「こんだけ大勢の前で負けたら、さぞかし屈辱だろうなぁ」

「俺は負けないよ」

「へっ、どうだか」


 俺とミハエルは互いに後方に移動する。

 訓練場で戦うときは、10mほど離れるのが習わしだ。

 不意打ちを警戒していたが、終ぞ攻撃してくることはなかった。

 さすがにそこまで小物ではないか。

 俺たちが向き合うと徐々に観客は静かになり、訓練場を静寂が包んだ。

 それを合図にしたかのように、ミハエルが勢いよく右手を俺に向ける。


「黒焦げになれ! 《雷の矢(ライトニング・アロー)》!」


 空中に五本の雷の矢が生み出され、俺に襲い掛かる。

 一方向ではなく、上下左右、そして正面からだ。

 初級魔法だがスピードは速く、魔力の質も高い。


「《魔法操作:雷の矢》!」


 魔力を飛ばすと、ミハエルの魔法は動きを止めた。

 そのまま、雷の矢の向きを変えると、生徒たちから感心した呟きが聞こえる。

 もう以前のような抵抗は感じない。

 何度も操作魔法を使ってきたおかげだろう。

 ミハエルは驚くこともなく、ニタリと笑う。


「へぇ、噂通りってわけか」

「自分の魔法を食らえ、《雷の矢》」


 ミハエルに飛ばすが、当たる直前にバシュンッ! と全て消えてしまった。

 観客席から驚きの声が漏れる。

 ……なるほど、きちんと対策を考えてきたというわけか。

 静寂が戻りつつある訓練場に、ミハエルの得意げな声が響く。


「噂通り、お前は他人の魔法が操れるらしい。だが、当たる前に解除しちまえば問題ねえ。魔法の発動権利は使用者にあるんだからな」

「まぁ、それはそうだな」


 たしかに、ミハエルの論理には一理ある。

 魔法を発動する、もしくは解除する権利は使用者が持つ。

 具体的にいうと、身体の中にある魔法回路を動かせるのは原則本人だけだからだ。

 さらに目を凝らすと、ミハエルの全身を薄らと魔力の層が覆っているのも見えた。

 あれも操作魔法対策か。

 “悪童”ではあるが、修行や勉学を怠っているわけではない。

 それがヤツの厄介さを加速させた。

 ミハエルが大きく両手を広げる。


「《雷動物(サンダー・アニマル)》」


 空中には鷲や鴉や蝙蝠……地面には狼や蛇に猪などの、雷でできた多種多様な動物が何十体も生み出された。

 これは系統レベル6の高度な魔法だ。

 観客席からは、どよめきとともに驚きの声が聞こえた。


「み、見ろよ、あの魔法……」

「二年生はあんなに強いのか……」

「私じゃ絶対勝てない……」


 魔力を何かの形に留めるのは、それだけで技術と魔力を必要とする。

 生き物などの動くモチーフならなおさらだ。


「この数を操作すんのは無理だろ! 死んじまいな! さあ、ギルベルトを殺せ!」


 ミハエルが荒々しく手を下ろすと、雷動物が襲い掛かってきた。

 操作してもいいが、試したいことがある。


「《魔力剣》」


 魔力の剣を生成し、雷動物を迎え撃つ。

 まず、空を飛ぶ一団が攻撃を仕掛けてきた。

 猛スピードで突っ込んでくる。

 直接触れると感電するからな。

 全て叩き落としてやる。


「《時雨》」


 ジャンプして雷動物の首を狙い剣を振るった。

 一度にどれだけ倒せるか、最小の動きで最大の結果が出せる軌道を計算して剣技を放つ。

 ライラ先生との修行で、剣の振り方も習熟できた。 

 着地と同時に全ての雷動物は切り伏せられ、亡骸が落ちてはパチパチと雷の余韻が漂う。

 いっせいに飛びかかってきたので、逆に間合いの中に入ってくれたのも大きい。

 着地すると、その隙を狙うように地上を駆ける一団が襲い掛かった。

 横一列に並んでいる。

 この位置関係なら……。


「《魔力斬》!」


 薙ぎ払うように剣を横に振ると、魔力の黒い衝撃波が生み出される。

 雷動物は逃げたりせず正面から突っ込んできたので、次々に切り倒された。

 自分の魔力を操作して高密度に凝縮した一撃だ。

 魔力で作られた生き物は強力だが、少しでも穴が開いたり傷ついたりすると魔力が漏れだして形を保てなくなる。

 そこが弱点だ。

 ミハエルは新たに大きな鷲を生み出すと、それに乗って衝撃波を回避した。

 すぐに魔法を解除して地面に降りる。

 一瞬の沈黙の後、観覧席から大きな歓声が沸き起こった。

 ミハエルは相変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべて言う。


「へぇ、なかなかやるじゃん。腐っても首席合格ってか?」

「雷動物に複雑な動きを付与するのはまだ難しいんだろ? だから、俺の衝撃波を避けず正面から突っ込んできたんだ」

「……チッ」


 生き物の動きは複雑だからな。

 完全に再現するにはかなりの修練を要する。

 俺は剣の魔力を操作してボクシンググローブのように形を変え、右拳に集中させた。


「今度はこっちから行くぞ。……《魔力拳》」


 地面を蹴り、ミハエルに走る。

 自分の拳でケリをつけたかった。


「《雷狼群》!」


 雷をまとった大型の狼が三匹生み出され、即座に俺に向かって駆けだす。

 先ほどの雷動物たちよりひときわリアルで、それこそ本物の動物みたいだ。

 もちろん、本物に近くなるほど強力な魔法となる。

 走りながら、俺は自分の目を操作した。

 高レベルの魔法を連発しては、どうしても隙が生まれる。

 ミハエルの全身を確認すると予想通りだったので、気づかれないよう地面スレスレに魔力を飛ばした。

 同時に雷狼にも魔力を飛ばす。


「《魔法操作》:雷狼」


 雷狼は動きを止め、ミハエルの方を振り向いた。

 訓練場にしゃがれた声が響く。


「だから無駄なんだよ! お前が操ったところで解除しちまえば…………ぐあああっ!」


 雷狼は……消えなかった。

 ミハエルに噛みつくと、その全身に激しい電流を流した。

 訓練場に苦痛の声を響かせ、ミハエルはがくりと膝に手をつく。


「な……んで……っ」

「お前の魔法回路を操作した。魔法を解除しないようにな。……これで終わりだ」


 右拳に力を込めると、走った勢いを乗せ全力で顔を殴った。

 地面に赤い血が迸りミハエルは倒れ込む。

 再び訓練場に静寂が戻る中、俺は告げた。


「約束だ。カレン、ネリー、ルカの三人に謝れ」


 取り決めと違い、ミハエルが謝ることはなかった。


「へっ、誰が謝るかよ。あんな下級の人間どもによ。第一、俺はまだ負けてねえ。本気を出してなかっただけだ」

「……なんだと? 話が違うだろうが」

「「ミハエル様っ!」」


 近寄ろうとしたら、取り巻きの女先輩三人が慌てて俺たちの間に入った。

 ミハエルを抱えて逃げるように訓練場から出る。


「おい、待てよ。謝れって」


 後を追いかけたら、ミハエルが振り向いた。

 そのまま、ニタリ顔で言う。


「前期の最後に、二年生と一年生の合同演習がある。そこで改めて決着といこうや。俺も本気を出してやるからさ」

「だから、今謝れって話で……」

「ギルベルトッ!」


 観客席からカレンとネリー、ルカが駆け寄り、俺とミハエルたちの間に入った。


「カレン、それにみんなも……」

「ありがとう、もう大丈夫よ」

「い、いや、しかしだな……」

「本当に大丈夫だから」


 三人に言われ、俺はやや消化不良な思いを抱きながらも怨敵を見送った。


「すまんな、謝らせることができなくて」


 そう伝えると、カレンたちは首を横に振った。


「いいえ、あなたが私たちのために戦ってくれて……本当に嬉しかった」

「カレン様の言う通りです。ギルベルト様の優しさと強さを感じる戦いでした」

「ギル師匠、めっちゃかっこよかったですよ! スカッとしました!」


 観客席から歓声が湧く。

 カレンたちと寮に戻りながら思う。

 また新たな目標が見つかった気分だ。

 前期最後にある、二年生との合同演習。

 今度こそミハエルに謝らせてやる。

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