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第11話:ご主人様の変化(Side:サロメ①)

 私はギルベルト様が嫌いだ。

 他人を傷つけることに快楽を見い出す危険な人物。

 あれほど恐ろしく、周囲から嫌われる人間を見たのは初めてだ。

 この先もギルベルト様に仕えると思うと、憂鬱で仕方がない。

 権力の壁が立ちはだかり、何もできない自分が歯がゆかった。

 私はどうなってもいい。

 だが、ネリーや他の使用人を攻撃するのは許せない。

 何より、娘に等しいネリーを虐める場面を見るたび、憎悪の想いが心に積み重なった。

 早くに両親を亡くした彼女を、私は実の娘のように思っている。


 ――正直、いっそのこと殺してしまおうと思ったことは……何度もあった。

 

 権力に物を言わせた私刑の数々。

 暴力を振るい、尊厳を踏みにじり、人を人とも思わない。

 毎日毎日、憎しみや恨みが募るのを感じた。

 ギルベルト様を断罪したい自分がいた。

 何のきっかけを、私はずっと求めていた気がする。


 そのような私の心境に変化が訪れたのは、今から数か月ほど前だった。

 極悪の名を欲しいままにしたギルベルト様に異変が起きた。

 考えられない異変。

 優しく……なられたのだ。

 あのときの光景は今でもよく覚えている。

 食堂で私たちに今までの行いを謝罪し、使用人の待遇を向上させると約束してくれた。

 目つきからも凶暴性が弱まり、温厚さが顔を覗かせる。

 あり得ないことばかりで、私はしばし言葉を失った。


 ネリーを含めた周りの使用人たちは、みな喜んだ。

 給金が十倍になって仕事量が半減したのだから当然だ。

 だが、私はどうしても信じられなかった。

 ギルベルト様には何のメリットもない。

 良い話の裏には悪が潜んでいるのでは……と、疑惑の想いに駆られるばかりだ。

 私は一人疑うばかりだったが、後に口先だけの甘言じゃなかったとわかる。


 ギルベルト様は不仲なはずの旦那様に進言し、待遇の改善を実行した。

 さらに驚くことに、魔法の修行まで始められたのだ

 家庭教師はあの“鮮血の魔導剣士”ライラ殿で、非常に厳しい環境の“経験の森”で行われると聞いた。

 辛い修行や勉強など、最も嫌いな嫌いなことのはず。

 何がギルベルト様をあそこまで突き動かすのか、気になった私はたびたび様子を窺うことにした。

 ライラ殿の修行は想像以上に厳しく、まさしく地獄だ。

 日々、死ぬ一歩手前まで追いつめられるギルベルト様を見守るうち、いつしか私はその身を案じるようになった。

 殺したいと思うほど憎かったのに、毎日無事に過ごしてほしいと願っていた。

 不思議だ……。


 修行が始まってからしばらくして、ギルベルト様に花の世話について聞かれた。

 花なんてまるで興味がなかった方だ。

 気になって尋ねると、<流星花>の復活を試みているようだった。

 自分で壊した花畑を、自分の力で復活させたいと。

 その目は真剣そのもので、私は花のよい栽培方法についてお教えした。

 


 後日、ネリーに連れられ<流星花>の花畑を見たとき、私は思わず息を呑んでしまった。

 あまりの美しさに……。

 風に揺れる満開の花畑はギルベルト様の努力が結晶になったようで、美しい輝きが私の心を明るくした。

 無事にネリーの墓参りも終わり、墓前に煌めく<流星花>を見ていると、私はある確信を抱いた。

 ギルベルト様は心から良い人間になられたのだと。


 私はギルベルト様が嫌い……だった。

 今は違う。

 過去の所業を見つめ直し、より良い人間になるため、血の滲むような努力を重ねる。

 口先で言うのは簡単でも、実行してやり遂げるのは簡単ではない。

 常に努力を重ねる立派な主。

 それが今の私の評価だ。


 ――ギルベルト様、これからもよろしくお願いします。


 以前はとうてい抱かなかった温かい気持ちで、私は今日も草木に水をやる。

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