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ゲームセンターwith尾行者

「それで、義兄(にい)さん。どこに行くとか、決めてたりする?」


「変にデートっぽい場所に行っても、深沙季も気をつかうだろうし、ゲームセンターとかなら気楽でいいかなって思ってるんだけど」


確かに、おれと義兄(あに)の共通の趣味といえば、ゲームだ。

義兄(あに)はおれがゲーム好きなことを知っているし、変にデートだと意識しすぎずに気楽でいられる場所といえば、ゲームセンターなのかもしれない。


「うん、いいと思う。義兄(にい)さんとなら、楽しくゲームできそうだし」


「それじゃ、決まりだな」


おれと義兄(あに)は、肩を並べて歩き出す。

隣に義兄(にい)さんがいると、不思議と外も怖くないような気がする。


まだあまり多くの人に会っていないので、本当に気がするだけなんだけど。


「義兄(にい)さん、やりたいゲームとかある?」


「え、俺? そうだなぁ……。久しぶりにあの太鼓の音ゲーとかやりたいなぁ」


「へー義兄(にい)さんって音ゲーやるんだ。RPGとかそういうのが好きなんだと思ってた」


バトクエとかもそうだが、義兄(にい)さんは結構RPGのゲームをよくやっているイメージがある。

バトクエシリーズは勿論、無料フリーRPGなんかにも触れているくらいだし、義兄(にい)さんの守備範囲はRPGとネトゲくらいなのかなとか思ってた。


おれが他のゲームやってても知らなかったりすることもあったし。


「まあ、ゲーセンはたまに友達と行ったりするから」


……そっか。義兄(にい)さんにだって学校の友達の1人や2人くらいいるもんね。

おればっかりの相手してるわけでもないんだ、義兄(にい)さんは。義兄(にい)さんには義兄(にい)さんの学生生活があって、クラスメイトがいて、そこで関係を形成してるんだよな。


「そうなんだ。友達が得意だったりするの?」


「1人得意な奴はいるけど、基本的に皆リズムゲーとかはてんで駄目で、まあ、下手なのをお互い笑い合いながらやってる感じ」


「へー、いいね。仲良さそう」


……ちょっぴり寂しさも感じてしまう。

義兄(にい)さんに友達がいるのは、良いことだ。けど、それはおれの知らない義兄(にい)さんがいることも意味していて……。


『ミンク』の時は、学校の友達の話なんて1つとして出てこなかった。


当たり前、なんだよね。義兄(にい)さんには義兄(にい)さんの生活があって、おれとの1日は、その日常の中の一幕でしかなくて…。


でも、同時に。


友達と遊べていたはずの時間を、わざわざおれのために割いてくれているという事実もあるわけで。


ちょっぴり嬉しくもあった。

義兄(にい)さんにとって、おれはそれだけの時間をかけていい存在なんだって。そう思えるから。


けど、やっぱり、おれはおれの知らない義兄(にい)さんの話を聞くと、義兄(にい)さんが遠くなってしまうような気がして、ちょっと寂しさを感じるのも事実だ。


だから……。


「義兄(にい)さん、もし、機会があれば、義兄(にい)さんの友達とも会ってみたいなって思ってるんだけど」


「へ? 男友達だけど、深沙季は大丈夫? いや、呼ぶとしても1人とかになると思うけど」


まあ、そりゃ義兄(にい)さんも男なんだし、友達も当然男だよな。

けどまあ、義兄(にい)さんの友人なら、まだ他の男よりもマシだと思う。それに…。


「義兄(にい)さんがついててくれるでしょ? だから大丈夫」


「深沙季がいいなら、それで良いけど」


どのみち、男性恐怖症は克服していかなきゃいけないことなんだ。

義兄(にい)さんだけは大丈夫、なんて状態じゃ、この先の人生生きていけないし。


正直、今は何にも考えられないけど、将来的にはおれだって、け、結婚とかしなきゃいけないだろうし…。


いや、正直、男と結婚することに抵抗はまだあるんだ。あるんだけど。

こんな状態になってしまってる以上、将来的に1人で自立して生きていける未来が、あんまり思い浮かばないというか。


誰かに支えてもらって、こっちも支えて、そんな二人三脚で生きていかないと、多分おれ駄目になっちゃいそうだから。


うん、だから、結婚のことも、考えておかなきゃいけないんだろうなぁって、そういう考えはある。


できれば、義兄(にい)さんみたいな良い人と出会って結婚したいなって考えてるんだけど。


「……それじゃ、義兄(にい)さん、行こっか」








オレこと佐田幸人、通称さだゆきと、朴念仁無月のツンデレ幼馴染、鳥音ちゃんは、クソボケアホ男、葉風無月の跡を尾行し、奴が可愛い女の子といちゃいちゃしている光景を見せつけられる拷問にかけられているところだった。


「クソ……あの朴念仁め……また可愛い女の子引っ掛けやがったな……」


「ゲーセンなら、私も行ったことあるし……大丈夫よ、まだ、まだそうと決まったわけじゃないんだから」


無月は女の子を連れて、ゲームセンターへとやってきていた。まず奴らが立ち寄ったのは、クレーンゲームだ。

バレないように遠くから様子を伺っているので、何を会話しているのかは不明瞭だが、何となく聞き取れた内容を整理してみると、おそらくお互いどっちの方がクレーンゲームが上手いか競い合っているらしかった。


「初々しさは感じられないな。それなりに仲良さそうな感じがするぜ……」


「ま、まだ分からないでしょ!? 大体、あいつが女とそういう関係になるなんて、あ、あり得ないし…!」


先にクレーンゲームに100円玉を入れて、実力を見せつけようと取り掛かっていったのは、女の子の方だった。

彼女は、クレーンのアームを動かして、お目当ての物を取ろうとしているのだが…。


「な、なにあれ…? あんな可愛くもなんともないのが欲しいわけ…?」


「……あれは…」


普通の女の子が好みそうのない、化け物のフィギュア。

けどオレは、それの存在を知っている。


「バトクエの“地底の王”! く、“地底の王”好きの女の子だと……!?」


「な、なにそれ?」


「バトルクエストってゲーム知ってるだろ? それの中に出てくるボスキャラだよ。デザイン的に女の子が好むような可愛いデザインしてないんだけどな……。あれをわざわざ狙うって……いや、まさかな」


バトクエの中でも”地底の王“を好むなんてこと、男の子しかしない。

ラスボスとかならまだ分かるが、一応バトクエの”地底の王“は中ボス的な立ち位置にあたるのだ。

コアなファンなら、”地底の王“は中ボスなんて器じゃ収まらないことをよく知っているし、味わい深いキャラクターだということを知っている。が、普通は知り得ることのない情報だ。


あんな可愛い女の子が、そんな”地底の王“を好むとは到底思えない。

けど、もしそんな子がいたとすれば…?


「なるほど、無月が仲良くするわけだ」


「ちょ、ちょっと、あのフィギュアが好きな子が無月の好みなの…?」


「まあ、あいつバトクエ好きだからなぁ。話が合うってだけで、一緒にいて楽しいんじゃないか?」


「それをはやく言いなさいよ! 言ってくれたら私もやってたのに!」


「あー……」


いや、鳥音ちゃんにもオススメしたことあるんだけどな。

興味ないって一刀両断されちゃったから、まあ、無理にやらせるのもなぁと思ってそれ以上言わなかったんだよね。


さて、それじゃ、気になるクレーンゲームの結果だけど……。


「あの子、クレーンゲーム自体は下手くそなんだな」


何回か挑戦してたけど、掠りもしていなかった。

クレーンゲームとか苦手なのかな?

まあ、バトクエはターン制コマンドRPGだからなぁ。クレーンゲームをする能力とかとは関係ないし、好きなゲームのジャンル的に得意な部類のものではなかったのかもしれない。


が……。


「無月の奴、やっぱクレーンゲーム上手いな…」


「当たり前よ。あいつ昔からそうだったの。私が欲しいぬいぐるみがあったら、すぐにクレーンゲームで取ってくれたんだから!」


「おぉ、強めの幼馴染エピソードいただきました」


なんだ、案外鳥音ちゃんもあいつと仲良くしてるんじゃん。

ゲーセンデートくらい、あいつにとっちゃ誰とでもするもんなのかもな。


「じゃあまあ、案外あの女の子も特別ってわけじゃないのかもな」


「はぁ? 何言ってるの?」


「だって鳥音ちゃんも一緒にゲーセン行ったことあるんでしょ? だったら、あいつにとったら女の子とゲーセンに寄るのは普通なのかなぁって」


「……いや、あいつ……今まで女の子とゲーセン行ったこと、私くらいとしかなかったわよ。他の女の子をゲーセンに誘ったこと、私が知る限りじゃ一度もないわ」


「鳥音ちゃんが知らないだけじゃなくて?」


「引っ越す前はあいつの家隣だったのよ。あいつが女とよろしくやってたら、すぐ気づくわよ」


ほーん?

つまり、あいつにとってあの女の子は、幼馴染の鳥音ちゃんと同等以上の存在になってるってことになるよな?


幼馴染の鳥音ちゃんは、幼馴染だし、昔からの関係値があるからまだ分かる。

けど、あの女の子は…?


まさか、とうとう無月にも、春が来たってことなのか!?


「鳥音ちゃん、オレ、正直あの子滅茶苦茶気になってきたわ」


「…はいはい。相変わらずただの女好きね」


「違うって。とにかく、このまま尾行を続行するぞ! 久しぶりに面白いものを見た気分だ!」


多くの女に好意的に思われながらも、彼女の1人として作ってこなかった無月。

そんなあいつが、もしかしたら…!


そう思うと、ワクワクが止まらない。


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