家族デート開始! 傍観者達を添えて
おっす! オラ佐田幸人! 通称さだゆき!
今はクソボケポンコツ男の葉風無月の家にやってきてます。
隣には美少女が! でも残念、彼女はオレの彼女ではありません!
「あの朴念仁、最近付き合い悪いのよね。本当、何してるんだか」
彼女の名前は鯉波田鳥音。幼馴染の男の子に恋するちょっとツンデレな女の子だ。
「親が再婚したとか何とか言ってなかった? あれ? 気のせいだっけ?」
「はぁ? 引っ越したのは知ってるけど、私には一言もそんな話…」
「そもそもあいつ家庭のことそんな話すような奴じゃないだろ。オレも噂程度でしか聞いてないし。そんなことより鳥音ちゃん、オレに乗り換えない?」
「きもい。しね」
「またまた〜ツンデレなんだから〜! このこの〜! というか、こんなことしてる時点でオレ達も大概じゃね?」
そう、実はオレ達、はたから見れば結構きもいことをやっています。何たって、オレからすれば友達の、鳥音ちゃんからすれば想い人である葉風無月をストーカーしようというのだからね。
草陰に隠れるオレ達の姿はさぞかし滑稽だろうよ。
「う、うるさいわね。これは仕方なくよ! ほら、何か悪いことでも巻き込まれてたら大変でしょ? だから、こ、これはあいつためなんだから。幼馴染として心配だからやってることなの!」
「幼馴染として、ねえ……」
全く、こんなにも想ってくれる美少女幼馴染がいるというのに、あいつは何故鳥音ちゃんの気持ちに気付かないんだろうか。オレだったらこんな超絶美少女速攻OK出してデートしまくるのに。
やっぱ鳥音ちゃんオレに乗り換えない?
「っと、あいつが出てきそうだ。鳥音ちゃん、隠れて」
「言われなくてもちゃんと身は潜めてるわよ」
さて、今日1日、あのポンコツ男の動向を追って、何かやましいことをしていないか、オレ達が明らかにして……やる……ぜ…?
「ちょ、ちょっと、誰よその女!」
「お、お、お、落ち着け鳥音ちゃん! あ、あり得ないぜ! あの鈍感野郎が、家に女の子を連れ込んでたなんて、な、何かの間違いだぜ!」
オレ達が目にしたのは、1人の少女と一緒に家の玄関から出てくる無月の姿だった。いくら鈍感なあいつとはいえ、家に女子を連れ込むことの意味くらい理解しているはず。
幼馴染の鳥音ちゃんならまだしも、知り合って間もない(オレが知らないだけで前から関わりはあったのかもしれないが)女子を、ただ仲良いからという理由だけで家に連れ込むほど、あいつの脳味噌は終わっていない。
つまり、あの少女とは、ただの友達という関係性というわけではないことは確かで。
けど同時に、あいつのことだ。
恋人、まではまだいってない。仮にあの少女のことを好きになっていたとして、多分あいつはそれを自覚しない。
だったら、まだ鳥音ちゃんにもチャンスはあるはずだ。
「というか、頬赤くなってない? 私にはあんな表情見せたことなんか……」
「ちょ、これは……」
……うん。正直ちょっと面白い。鳥音ちゃんは、無月の幼馴染で、今までずっと関係性が変わってこなくて、停滞してた。けど、今、目の前の光景は……。
こんなの見せられたら、鳥音ちゃんも、いつまでも停滞していられないって、そう思うはずだ。
物語が動き出すぞ! ついに鳥音ちゃんが、本格的に無月にアプローチを…!
「あわわ、あわあわあわわあわわわわわ!」
ってそれどころじゃない!?
鳥音ちゃんが壊れるぅ!?
「わー! 鳥音ちゃん! 落ち着いてー! 正気に戻るんだ!」
「わだswさjdckおsjsjdと#jkいk#ks@。ほsk@ぉxkskzぉ!?」
「深沙季………その………凄く綺麗だね…」
マイベストエンジェルこと葉風舞にお化粧を施してもらったおれ、葉風深沙季は、想像以上に綺麗に仕上がっているらしい。
あの義兄が、頬を紅潮させて照れてしまうくらいには。
分かっている。別に、義兄はおれに対してそういう情を抱いているわけではない。これは、天才妹葉風舞の手腕により、別人レベルで綺麗になった影響なのだろう。
けど、それでも褒められていることには変わりない。
妹の技術が凄いだけではあるものの、今“綺麗”だといった義兄の言葉がおれに対して向けられたものであることには変わりないのだ。
だから、素直に嬉しい。
「ありがとう、義兄さん」
今の気分はさながらシンデレラだ。
綺麗になったことによって、おれはおれをまるで自分ではないかのように、浮かれた気分で振る舞うことができる。
妹が、舞が、魔法をかけてくれたのだ。
おれが外に出ても、必要以上に怯えることがないように。
持つべきものは陽キャの妹である。陽キャ万歳、陽キャ万歳。
「ごめん、見惚れてた。……本当に綺麗だよ」
「うん。ありがとう……で、でもちょっと照れるかな……」
「そっか。ごめん。でも本当に素敵だったから。それで、外は出歩けそう? 無理してない?」
おれが化粧で変身したとはいえ、義兄はしっかりおれのことを自身の義妹である葉風深沙季であると認識しているようだ。普段と変わらずに、おれのことを気にかけてくれている。
それが嬉しいようでもあり、同時に、こんなに綺麗になっても、おれはまだ義兄に心配をかけてしまっているのかという気持ちが湧いて来て、申し訳なくなってくる。
……頑張らないと。
「大丈夫だよ、義兄さん。舞が魔法をかけてくれたから。今日は不思議と、怖くない」
「良かった。俺も深沙季と2人で出かけるの、楽しみだったから。深沙季が無理してないみたいで、安心した」
義兄は少し無邪気な、まるで小学生の男の子のような屈託のない笑顔を私に向けながら、言う。
いつも兄らしく振る舞う義兄が、子供みたいで無防備な表情を見せて……。
「……っ……」
何だか、照れてしまう。
本当に、素直に。心配だとかそういう感情を抜きにして。
私と出かけることを、純粋に楽しみにしてくれていたんだなと。
そう感じ取れたから。
と同時に、義兄はそんな表情もできたのだなと、新しい義兄の側面を知ることができたことに、喜びを感じた気がした。
「それじゃ、義兄さん、今日は1日、めいいっぱい楽しもう!」
「うん。せっかく深沙季と出かけられるんだ。有意義な1日にしないと」
おれと義兄は隣り合わせで歩き出す。
思えば、おれは『ヒキニー』として『ミンク』と関わっていたときも、いつかリアルで、一緒に出掛けてみたいと思っていた気がする。
なら、これはおれにとって、ギルメンとオフをするための第一歩ともいえるだろう。
今日が良い1日になることを願って。
「? 深沙季?」
「♪」
私の名前は由良 美雨。今日は、小動物みたいにクリクリした目を持っていて、思わず顔をうずめたくなるくらいに可愛い私の親友、葉風舞に頼まれて、彼女の妹である葉風深沙季ちゃんの義兄妹デートを見守ることになった!
深沙季ちゃんは、舞同様、小動物みたいな可愛さがある。トラウマの影響で、外に出ることに抵抗があるし、男性が苦手で、びくびくしているから、舞よりも庇護欲をそそられてしまうくらいだ。加えて、私も深沙季ちゃんのひきこもり克服の手伝いをしていたことから、私は深沙季ちゃんを、本当の妹のように思っている。
本人は陰キャが陽キャに関わるなんて烏滸がましいだとか何とか、そんな感じで遠慮しているけど、私は深沙季ちゃんと関わるの、結構楽しいんだよね。
あーあ、羨ましいなあのお義兄さん。深沙季ちゃんと義理の兄妹になれるなんて。
「わお、手繋いでるよ。大胆だね〜」
「美雨、来てくれてありがと。といっても、今日は一緒に遊んだりはできなさそうだけど」
「全然大丈夫! 最近忙しくて深沙季ちゃんの様子見れてなかったからね。にしても、深沙季ちゃん、あらま〜あんなに綺麗になって……」
「ご近所のおばさん?」
「おばさんじゃないやいー。私は深沙季ちゃんのお姉ちゃんだー」
「ちょちょちょ、駄目だよ美雨ちゃん。深沙季のお姉ちゃんは私なんだからね!」
相も変わらず私の親友はシスコンを継続していらっしゃるようだ。ま、分からなくもないけどね。客観的に見てもあんなに可愛い妹を持ったら、溺愛したくなるのも分かる。
「にしても、あれは私達と同じ感じなのかねー」
「?」
「ううん。何でもない。深沙季ちゃん、これで外出できるようになれたら良いね」
「うん、そうだね」
さっきから私達と同じように、お義兄さんと深沙季ちゃんの様子を伺ってる男女2人組がいるんだけど、あれはお義兄さん側の知り合いかな?
あの人達の会話から微妙に聞き取れた会話から推測するに、女性の方がお義兄さんに好意を抱いていると解釈したら良い感じなのかな?
朴念仁、とか言ってたし、お義兄さんもしかして、鈍感ながらモテちゃうタイプの人なんだろうか。
「うーん」
「どしたの美雨?」
「いや、なんでもないよー。なんでもないんだけどね〜」
深沙季ちゃんのあの様子を見るに、深沙季ちゃんは多分……。
でも、あの2人組の会話から察するに、お義兄さんは……。
……深沙季ちゃん、苦労するだろうなー。
あの2人組には悪いけど、私は深沙季ちゃんの味方だからね。
「悪い虫が寄りつかないよう、お姉ちゃん達がしっかり監視しといてあげるからね〜」
「ちょっと! 深沙季のお姉ちゃんは私だけだってば!」
私も舞も深沙季ちゃんも、一応全員同い年なはずなんだけどね〜。でもあの子は本当に妹って感じしかしないんだ。なんかよわよわオーラが滲み出てるんだよね。
ま、今日は1日、深沙季ちゃんのストーカーを楽しむこととしますか!




