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錬金術科の生徒が使う温室で私は一人、月光蝶のサナギの世話をしていた。
月光蝶の鱗粉は、精神系の薬を作るのに必要な材料で、満月の夜に採取した鱗粉は特別な力が宿る。
何も考えなくていいこの時間が私は好きだ。
何も考えなくていい……、そのはずなのに。
私の心はザワザワと落ち着かないでいた。
さっき起こったことが気掛かりになっているらしい。
エミリーと話していたら、興奮したエミリーに頬を叩かれた。
エミリーは先生に取り押さえられたが、最後まで髪を振り乱して「あなたのせいよ!!」と叫んでいた。
エミリーから引き離されて、数日ぶりの医務室に行った私は、エミリーが停学処分になったことを知る。
無心で葉っぱを間引いていると、声を掛けられる。
「マリベル。ここにいたのか」
振り返るとジルベルト様が立っていた。
数日ぶりのジルベルト様は、心なしか疲れているように見える。
「ジルベルト様、お久しぶりです」
酷いクマだわ……。
ジルベルト様の顔をよく見ると、銀色の前髪の隙間から覗く目の下は黒く、寝不足なのは明らかだった。
「先日はありがとうございました。その顔はどうしたんですか??」
「少し寝不足なだけだ。それより…‥マリベルの方こそ、その顔はどうしたんだ?」
エミリーに叩かれたせいで、私の頬は赤くなって湿布が貼られている。
「あぁ。これは……」
なんと説明したらいいか分からなくて言葉を濁す。
視線を彷徨わす私を、ジルベルト様は怪訝そうに見ている。
「エミリー様に叩かれました」
「エミリー??マリベルを階段から突き落とした奴か??」
隠すことでもないかと正直に話すと、眉をひそめて言うジルベルト様に、私は笑って頷く。
「大丈夫なのか?」
「先生達が止めてくださったので大丈夫でした」
頬を叩かれた後、エミリーはすぐ取り押さえられたから叩かれたのは一度だけだ。
むしろ、その後の罵声の方が酷かったくらいだ。
ジルベルト様を心配させまいと笑っていると。
「僕の前では我慢しないでくれ」