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私の言葉にエミリーは怒りの表情から一転して、驚いた顔をした。
その顔に満足して笑みを深めると、エミリーはキッと私を睨みつける。
「届きましたよ……」
絞り出すような声で言うと、エミリーは言葉を続ける。
「学園内で起こった問題で慰謝料を要求するだけでじゃなくて、傷害で訴えるなんてどういうつもりですか?この程度のことを大事にして、恥ずかしいとは思わないんですか?」
「この程度のこと?どの程度のことを言っているんですか?私は階段から突き落とされて、意識を失って大怪我までしたんですよ?打ちどころが悪かったら死んでいたかもしれないのに……。殺人未遂で訴えなかったのを感謝して欲しいぐらいです」
実害を被っているのに、ここまできて私を責めるエミリーの言葉には驚かされる。
まるで、自分が被害者のような表情と声色で言うエミリーは、殺人未遂という言葉に驚いたのか、顔をしかめた。
「エミリー様は階段から突き落とした犯人で、私はその被害者です。どういう理由があろうと、それは変わらない事実です」
私の言葉に制服のスカートをギュッと握って、エミリーは何も言わない。
「それなのに、謝罪もないなんて……」
心からの謝罪をされれば、ほんの少しなら許してあげてもいいと思ったかもしれない。
それなのに、開口一番にステファンのこと。謝罪もなければ、申し訳ないとも思っていない姿には、怒りを通り越して呆れてしまう。
「あなたがステファンを独り占めしなかったら、こんなことは起こらなかったわ……」
「あら?また私のせいですか??」
また私のせい??
話が通じない相手との会話は疲れるわ……。
目を合わせずに下を向いて話すエミリーに、思わずため息が出る。
なんの進展もない会話の終わりを探っていると。
遠くから先生と共に、エミリーとよく似た金髪と、茶色い目を持つ男性が慌ててやって来るのが見える。
「エミリー!!家にいろと言ったのに、どうしてここにいるんだ」
「お父様……。どうしてここに……」
エミリー様はステファンと同じで外出を禁止されていたらしい。
父親の登場に動揺しているエミリーだけに聞こえるように、小さく囁く。
私の言葉を聞いたエミリーは顔を赤く染め、手を振り上げた。
パシンッ