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「気分が良さそうだな」
「そう見えますか?」
カーテン越しに馬車の窓から外を眺めていると、声を掛けられる。
学園の上級生でもあるジルベルト様は、その優秀さから研究の合間に、先生としても授業を受け持っている。
今回の事件を先生として、両親に説明するために馬車に乗って、私の家に一緒に帰ることになった。
私の目の前に座るジルベルト様に、私は満面の笑みで答える。
ステファンとエミリーが醜態を晒してくれたおかげで、私の復讐計画が上手くいきそうなのだ。
思いがけず、『階段から突き落とされて大怪我を負った』に『大怪我を負わせたにも関わらず、悪びれもしない非常識な二人』が追加され、ステファンとエミリーを庇うの者はいないだろう。
これからどうやって計画を進めていくかと考えていると。
「……ッウ」
石を踏んだのか、馬車が大きく揺れ身体をぶつけてしまう。
「大丈夫か!!??」
声にならない声が口から漏れ、痛みで身体を震わせていると、ジルベルト様は慌てて私と馬車の間に割って入る。
「少し、ぶつけただけです……」
痛みで青い顔する私を、ジルベルト様は眉をひそめ心配そうに見ている。
「専攻を薬学にするべきだった。そうすれば、マリベルの傷もすぐに治せるのに……」
真面目な声色でそんなことを言うジルベルト様に、私は笑ってしまう。
天才錬金術師が錬金術において、本流ではない薬学を専攻するなんて、学園の教授達が聞いたらひっくり返りそうだ。
「ジルベルト様なら伝説級のポーションも作れそうですね」
笑う私を見て、ジルベルト様はフッと笑って安心したような顔をする。
柔らかく笑うジルベルト様に、私はドキッと胸が高鳴るのを感じた。
あれ?どうしてジルベルト様にときめいているの?
この胸の高鳴りを気付かれないように、「早く家に着きますように」と願いながら、優しい笑顔で私を見るジルベルト様から視線を逸らした。