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「どうしてエミリーをこうなるまで放置してたんだ!」
裁判を終え控え室に帰る廊下を歩いていると、どこからか声が聞こえてくる。
足を止めて声の方に視線を向けると、エミリー様の両親が見えた。
「私のせいばかりにしないでよ!!」
「お前がエミリーの近くにいて、あの子を見てあげていれば、こうはならなかったはずだ!」
「あなたがそれを言うの!?あの子の一番近くにいたのはあなたでしょう?」
娘の判決に泣き崩れる優しい母と、娘の裁判に足繁く通う優しい父。
エミリー様の両親は仲が良いと思っていたのだけれど、違ったのかしら?
法廷での寄り添って座っていた姿と、かけ離れた二人の姿に驚いてしまう。
「あなたが彼女達を首都に連れて来なかったら、私は領地に帰ることなく、屋敷に残ってエミリーの側にいれたわ」
「彼女達とは誰のことを言っているんだ……」
「私が知らないとでも思っていたの?リリー・マノヴァと言えば分かるかしら?」
狼狽えるエミリー様の父に、エミリー様の母は冷たい声で言った。
エミリー様の父の反応を見るに、リリー・マノヴァという女性は知られるとまずい人物らしい。
私はこれ以上、エミリー様の両親の話を聞いてはダメだと思って、後ろから聞こえてくる話し声を無視して、止めていた足を動かした。
仲が良いと思っていたエミリー様の両親が、あんな風にお互いを罵り合うなんて……。
今回のエミリー様の件で仲違いをしたのかと思ったら、夫婦仲は以前から悪かったらしい。
エミリー様の家の内情を思いがけず知ってしまって、複雑な心境のまま控え室のドアを開けると、誰かに抱きつかれる。
「マリベル!!」
ぶつかるような衝撃に驚きながら抱き止めると、私に抱きつくエラが満面の笑みで私の名前を呼んだ。
太陽のようなエラの笑顔を見ると、不思議と緊張がほぐれるのを感じた。
法廷を出る時に姿が見えないと思っていたら、先に戻ってきていたのね。
「エラ……。ジルベルト様にクリス先輩も、来てくださってありがとうございます」
エラの後ろには、ジルベルト様とクリス先輩が私に抱きつくエラを呆れたように見ていた。
「法廷で話す姿がとてもカッコよかったわ!!」
「今まで大変だっただろうけど、裁判お疲れ様」
「勢いよく抱きつくとマリベル嬢が怪我をするだろう」
「エラが今まで、側で支えてくれたお陰で頑張れたわ。ジルベルト様も色々迷惑をかけてしまったのに、ありがとうございます。クリス先輩、私は大丈夫ですよ」
こんな風に四人で和やかに話すのは久しぶりだ。そして、話している場所が裁判所だというのが不思議な感じがした。
「戻ってきた時に暗い顔してたけど、何かあったの?」
「何か悪いことでもあったのか?」
エラとジルベルト様の言葉に、先程見たエミリー様の両親が言い合う姿を思い出す。
暗い顔をする私を、心配そうに見つめる視線にどこまで話していいのか悩む。
周りに聞こえる声で話していたけれど、盗み聞きしたようなものだし、私が周りに言いふらすのは間違っているわよね。
「何もありませんよ?裁判が終わって、疲れが顔に出てしまったみたいです」
「そうなの?私が癒してあげる!!」
そう言って、再び抱きついてくるエラを受け止めて笑う私を、ジルベルト様は心配そうに見て、クリス先輩は呆れたように笑っていた。




