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エミリー様が見つかったことで、中断されていた裁判は再開された。
エミリー様は逃亡したことにより、保護者管理下においての屋敷での拘束から、貴族が入れられる牢屋に移された。
自分の部屋に軟禁されていたとはいえ、逃亡前のエミリー様は貴族の令嬢として身を整え、豪華な装飾品を身に付け、健康そうに見えた。
けれど、今のエミリー様は簡素な白いドレスに身を包み、手入れしていないのかボサボサの髪で隠れた顔は暗く見える。
「滅刑の嘆願書が届いています。原告は被告の滅刑を望みますか?」
裁判長の言葉に、隣に座るミラ様に視線を向けると、首を横振った。
ミラ様と裁判について話し合った通りに、私はエミリー様を見つめて口を開いた。
「いいえ。私はエミリー様に法に則った裁きが下されるのを望みます」
私の言葉にエミリー様は何の反応も示さず、現実から目を逸らすように下を向いている。
沢山の人を巻き込んで騒ぎを起こしたエミリー様は、反省の色もなく、ただただそこに座っているだけ。
私はエミリー様の我関せずの姿が許せなかった。
「エミリー様は以前から現実と乖離したことを仰っていました。私のような被害者が出ないように……、エミリー様が誰にも危害を与えないように、厳格な処罰を求めます」
真っ直ぐ裁判長を見て言うと、裁判長はわずかに頷いた。
静まり返った法廷に、木槌の音が響く。
「では、判決を言い渡す」
その後に続くであろう言葉に、全身の血液が沸騰したかのように熱くなるのを感じた。
長かった裁判がやっと終わる。どんな判決が下されても、私はこの判決を受け入れるしかない。
裁判長が判決を読み上げるまでの時間が、永遠のように感じた。
「被告は原告に対する傷害だけではなく、使用人に原告の研究室に忍び込み、盗みを働くように指示した盗難教唆。拘束されている身でありながらの逃亡。そして、未成年者の誘拐、監禁、暴行。そして、嘆願書を無理矢理書かせた脅迫の罪により……」
エミリー様が使用人に盗みを指示したと聞いてはいたけれど、エミリー様がこれ程までの罪を重ねていたなんて……。
読み上げられるエミリー様の罪の多さに驚いていると、エミリー様の弁護士が立ち上がった。
「待ってください!裁判長!!嘆願書を無理矢理書かせたことなどありません!」
「静かに。嘆願書を無理矢理書かせたとの証拠は確かにここにある。証拠を調べたいならそうすればいいが……、その証拠がどうであれ、被告の判決内容に変わりはしない」
「そんな……」
裁判長の無情な言葉に、弁護士は力無く椅子に座った。
そして、裁判長は判決の続きを読み上げる。
「被告は保護者監視下から逃亡し、罪を重ねた。保護者の監視だけでは、新たな被害者を生む危険がある。よって、被告が未成年だということを鑑みて、被告エミリー・ジェキンをシュルツ女子修道院送りに処す」